ETFを活用した信用取引とはどのようなものですか?


ETFを活用した信用取引とは

一般の投資信託とは異なり、ETFには信用取引が可能であるという特徴があります。したがって、株式などと同様に、ETFは、「買い」だけでなく、「売り」のポジションから収益を狙うことも可能です。

一般の投資信託においては、市場が値下がりする時に利益の獲得を目指す場合には、「ベア型」とよばれる派生商品(デリバティブ)を活用したファンドを利用します。しかし、このような従来型のベア型ファンドでは、1日に1度決められる基準価額によってしか取引することしかできません。また、手数料も比較的高いものが多いことから、短期間での値動きからの収益を狙うことは難しい面があります。

一方、「ETF」の信用取引を使った「売り」取引は、「株式と同様の手数料体系」で、「市場を通じて、タイムリーに取引できる」という特徴を生かしながら、「ベア型」ファンドと同様に、値下がりによる利益の獲得を狙うことが可能となります。したがって、場中の日計り商いを含めた、短期での「売り」取引に対しては、ETFは、有力な投資手法の1つになります。

また、現物株式への投資との組み合わせで、ETFの信用取引を活用する手法もあります。いわゆる「ロング・ショート」といわれる、複数の「買い」と「売り」のポジションを組み合わせて、全体の市場動向に対しては、「中立」的でありながら、銘柄の選択による超過リターンを狙うという運用手法において、ETFを活用する方法です。株式などを買うことを「ロング」にする、あるいはロング・ポジションをとると言い、売ることを「ショート」にする、あるいはショート・ポジションをとるなどと言うことから、この戦略はロング/ショート戦略と呼ばれています。

 

ETFを活用した信用取引の例

例えば、自動車株を例に考えてみましょう。

Aという自動車会社を相対的に高く評価し、Bという自動車会社を相対的に低く評価した場合に、A自動車株を「買い」同時にB自動車株を「売る」というのが典型的な「ロング・ショート」と呼ばれる戦略の一例です。

しかしながら、この場合、B社に個別の材料が出て大きく値上がりした場合、予想外の大きな損失を被る可能性があります。(通常の「買い」は、購入金額が損失可能性額の限度になる一方、信用取引の「売り」ポジションは、理論上損失が限定されていません。)

この時、個別の株式よりも、多数の銘柄に分散されたポートフォリオからなる値動きが緩やかなETFを活用して、個別の「買い」+ETFの「売り」ポジションという形で、投資することで、市場に対しての「売り」ポジションをとると同時に、個別銘柄の高いボラティリティを避けるという戦略が、ETFを活用することで可能になります。

具体的には、A社株を「買い」、一方で、B社株ではなく、「自動車セクター(輸送用機械セクター)の業種別ETF」を「売る」という取引です。

東京証券取引所には、2020年3月末現在、自動車・輸送機セクターの株価指数であるTOPIX-17自動車・輸送機に連動する投資成果を目指す「NEXT FUNDS 自動車・輸送機(TOPIX-17)上場投信」が上場しています。

この場合、自動車セクター全体が10%値下がりする一方、A社株が5%しか値下がりしないとすれば、そこで両方のポジションを解消することで、理論上5%の利益が挙げられる計算になります。(単純化のため、税金・手数料等については考慮外とします。)

 

ETFを活用した信用取引のメリットとリスク

このように、ETFの信用取引を活用した投資法は、単純な「買い持ち」の戦略に比べて、様々な市場環境において、積極的に利益を狙う取引が可能だというメリットがあります。但し、このような投資ポジションは、あくまでも理論上「市場全体の動きに中立」で、「個別銘柄の選択」だけをリターンとして狙う取引であり、絶対的にリスクが低減するわけではありません。目論見とは逆に、業種全体が上昇する一方、個別のA社株が下落すると、極めて大きな損失を招く恐れもあります。したがって、「ETFを活用した信用取引」はあくまでも、十分事前の情報収集を含めて、大きな労力を払う用意のある投資家にとってのみ、はじめて考慮に値する投資手法であると言えるでしょう。