インタビュー

アンドリュー・キャレンダー氏 (1997年11月18日)

LGT投信・投資顧問株式会社 チーフインベストメントオフィサー

「LGT(リヒテンシュタイン・グローバル・トラスト)の投資哲学を語る」


今回は、その緻密な分析力で世界的に定評のあるLGT投信・投資顧問株式会社(LGT Asset Management)の運用本部長アンドリュー・キャレンダー氏(Mr. Andrew Callender)に、LGT投信・投資顧問株式会社の分析力の強さと運用哲学等について話を聞いた。アンドリュー・キャレンダー氏は、東京勤務が既に2回目となるLGT生え抜きのファンド・マネージャーであり、LGTが運用するファンドのうち7本の投資信託の運用責任者である。この7本のファンドには、過去一年間(8月末現在)の運用騰落率が17.6%という同社の主力ファンドGTグローバル インベストメント・オープンが含まれている。

なお、GTグローバル インベストメント・オープンに関するインタビュー記事は1997年12月に掲載予定。


 

 まずは、LGTの名前は、世界中の機関投資家など専門家の間ではあまりにも有名でその分析力には定評がありますが、日本の個人投資家にはまだLGTという名前はあまり浸透していません。そこで、LGTのバックグラウンドについて、教えていただけますか?

 ええ。まず、社名であるLGTというのは、リヒテンシュタイン・グローバル・トラスト(Liechtenstein Glob Trust)の略で、我々はこのLGTグループ(人員約1900名、運用資産約9兆9000億円)の一員です。LGTグループの本拠地は、リヒテンシュタインであり、LGTグループの会長は、リヒテンシュタイン公国のプリンス・フィリップ殿下です。(リヒテンシュタイン公国は、スイスとオーストラリアに挟まれたヨーロッパの中心に位置する中立国)。

LGT投信・投資顧問(LGT Asset Management社)は、もともとは1969年にロンドンでGTマネジメントとして設立されましたが、1989年にリヒテンシュタイン銀行に吸収合併され現在の社名であるLGTとなったわけです。GTマネジメントは、1970年に日本株投資を始め、1982年には東京駐在員事務所を設立しましたので、日本株投資の歴史は既に27年ということになります。

LGTアセットマネジメント社は、世界的ネットワークを有しており、現在、リヒテンシュタインをはじめ、ロンドン、東京、香港、シンガポール、シドニー、フランクフルト、ニューヨーク、サンフランシスコ、トロントにオフィスを構えています。

 

 そうすると、1970年台に日本株投資を始めた頃というのは、欧州の投資家の資金を日本株に投資していたということですか?

 そうです。ただ、欧州だけでなく、米国の機関投資家ももちろん我々の主力顧客でした。

 

 日本での投資信託業務を開始したのはいつですか?

 1995年です。

 

 それから、日本の投資家の資金も運用するようになったのですね。

 それ以前も日本の投資家の資金も運用してきましたが、1995年になって日本の投資家の資金を専用に運用するための日本株専門ファンドを設定しました。

 

 日本での投資信託以外のビジネスを展開していますか?

 ええ、投資信託以外でも投資顧問、年金運用を行なっています。

 

 年金運用も1995年から始めたのですか?

 年金の規制緩和があったのが、1993年頃で、それ以降年金運用にも力を入れるようになり、この1〜2年年金分野のビジネスは拡大しています。

 

 ところで、LGTにはファンドマネージャーは世界中で何人くらいいるのですか?

 運用のプロということになると約200名ほどです。この数字にはエコノミストやアナリストが含まれています。

 

 日本では?

 東京に日本株の専門家が6人とエコノミストが1名おります。

 

 社名はLGTなのですが、投資信託の名前にはGTが使われていますね。これはどうしてですか?

 これは、先ほど説明したように当社の前身であるGTマネジメントの社名を残しているということです。GTマネジメントは優れた運用会社として世界的に定評があり、ブランドネームとしてこのGTを残したというわけです。

 

 次に、LGTの投資哲学についてお聞かせ下さい。

 投資哲学というのは、我々が運用するどの資産およびファンドについて共通のものであり、LGTグループ全体共通の哲学です。それは、市場が評価していない変化を認識するということです。これは、マクロおよびミクロ的変化の両方について言えることです。

 

 具体的には、市場が評価していないマクロ的変化というのはどのようなものですか?

 これには様々なものがありますね。具体的には、金融当局の政策の変化、金利構造の変化、経済生産の変化などが含まれます。

 

 ミクロ的というのは?

 ミクロ的変化というのも様々に現れます。例えば、企業の経営政策の変更、バランス・シート構造の変化、製品群の変更などです。

 

 市場より早くそれらの変化を認識することは、どのようにしたら可能になるのですか?

 これは、我々の200名のプロフェッショナルの力によって可能になることなのです。その200名が提供するプロフェッショナルとしてのレベルの高さにより可能となります。LGTの分析には競争力があります。そして、我々が特に重点を置いているのは、状況を他社より長期的な視点で分析するということです。ですから、我々の投資スタンスは他社より長いと言えます。他社のほとんどのアナリストは今後数ヶ月という期間で企業を分析しますが、それでは短すぎます。そういう短期間の分析では、市場には多くの本質でないノイズが発生しますから状況を見誤まってしまいます。三ヶ月から六ヶ月というような短期的視点で日本株に投資すると、相場は上昇と下落を繰り返しているだけにしか見えません。しかし、長い投資スタンスで見れば市場が下落している状況であったとしても、それが単に軟調な相場の時期に過ぎないという判断が可能です。これはとても重要なことです。この長期的視野ということにより、ファンドの運用成績の安定がもたらされるのです。

 

 他のアナリストは短期的に市場を見るとおっしゃいましたが、LGTではどの程度の期間で分析を行なうのですか?

 マクロについても、ミクロについても少なくとも3年という期間で分析・判断を行ないます。

 

 それがLGTの分析、運用の強さでもあるわけですね。

 そうです。

 

 この長期的スタンスというのは、欧州のファンドマネージャーが日本株投資をする際の共通のスタンスと言えますか?

 欧州のファンドマネージャーの間でもスタンスはもちろん会社により違います。ただ、欧州のファンドマネージャーと比較しても、我々は長期的スタンスで運用を行なうファンドマネージャーであると言えると思います。長期的スタンスというだけで分析、運用を行なっても見通しをはずしてしまう人もいるでしょう。この長期的スタンスと調査分析力の高さの両方が大切であり、これがLGTの強さとは言えるのです。ただ、長期的スタンスを持てばよいというのではありません。

 

 LGTの投資プロセスの特徴は、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチのコンビネーションにあると言われていますが、このトップダウンアプローチ、ボトムアップアプローチというのはどういうことなのか説明していただけますか?

 このホームページの読者が日本人であるということなので、わかりやすいように日本の株式市場を例にとって説明してみましょう。

トップダウンアプローチというのはマクロ分析のことですが、これには、マネーサプライとその傾向、金利、日銀の政策などがマクロ分析に置ける重要な指標となります。他にも、構造的問題も分析します。これは、特に日本では重要となります。他の国においては構造的問題をそれほど重要視しない場合もありますが、日本においてはとても重要であると我々は考えております。例えば、規制緩和などがこの構造的問題に含まれます。ですから、マクロ分析というのは、ただ経済指標を分析するというのではなく、構造問題などが含まれます。この2つが我々のマクロ経済のトップダウンアプローチの柱となります。

 

 今、マクロ分析の中で金利ということが出ましたが、現在、日本は超低金利時代ですし、日銀も金融政策を変更する兆しがない。ただ、規制緩和というのは進みつつあるようには見えますね。この状況をどうご覧になりますか?そしてそれはあなたの投資にどう反映されていますか?

 我々は日本についてはベア(弱気)です。この見方は1996年来ずっと続いています。

日銀の金融政策は十分には緩いとは言えません。確かに金利水準ということで見れば、低く見えますが、金利水準だけではだめなのです。システムの中におけるマネーの量というのが重要です。日銀は量という意味で、もっと積極的な緩和スタンスを採るべきです。公定歩合は0.5%、無担保金利は0.25%まで低下していますが、これが十分な円安に繋がらなかった。経済を回復させるためには日銀はシステムに資金をもっと供給し、それが130円〜140円程度への円安になるようにする必要があります。ただ、我々の見る限り日銀がそういう行動に出るとは思えませんが・・

 

 どうして、日銀がそれをしないと思うのですか?

 円安ということになると、貿易問題が絡んでくるからです。貿易問題というのが日本にとって大きな障害となっています。しかし、日本経済の低迷、増え続ける金融セクターの問題により、海外の投資家は円を再び売り始めているのが現状ですね。

 

 というと、日本政府の採ってきた規制緩和というのは日本経済にプラスにはなっていないということでしょうか。

 規制緩和というのは様々なものがありますので一概には言えないのですが、総じて日本政府は具体的な対策を採っているとは言えません。彼らは現在規制緩和について論じている段階です。

 

 スケジュールは決まってきていますが。

 ええ、しかし、規制緩和というのは実施されなければ実体経済には何の影響も与えません。我々は、規制緩和はとても重要であるし、中・長期的にはプラスであるとは考えますが、短期的にはほとんどの場合において規制緩和はマイナス要因になるのです。つまり、競争が激化し、価格圧力が増え、理論的には倒産する企業もでてくるのです。

 

 それは金融業界ということですか?

 金融業界を含めてということです。ですから、現時点で規制緩和策をとるということは将来的にはプラス要因になりますが、その緩和のスピードはもっと加速される必要があります。

 

 市場のために?

 ええ。ベアマーケット(下げ相場)は、もう7年も続き、日本経済はもう5年も低迷している。ですから、政府の対策はもっと加速される必要があるのです。

 

 マクロアプローチ、ミクロアプローチについてお話を聞いてきましたが、今度は実際に個別銘柄を選択する際のクライテリア(基準)について教えていただけますか?

 我々には、クライテリアの一覧というものがあり、投資銘柄となるためにはそのリストを全て満たせる企業でなければなりません。リストのうち一つや二つを満たすというのでは十分ではないのです。

 

 具体的なクライテリアとはどんなものですか?

 まずは、需要のある商品(製品)を提供している会社であるということ。それは、製造業であっても、サービス業であっても同じことです。人々がその商品を欲しいと思うものを提供している会社でなければだめです。次に、価格競争力のある会社であるということです。これは残念ながら多くの日本企業が持ち合わせていません。三番目に、キャッシュフローがプラスである会社。そして、そのキャッシュフロー内で投資を行なう会社です。株式市場で資金調達する必要のない会社ということです。はっきりした経営戦略を持っている会社というのも重要です。また、株主に対して積極的な態度を持っている会社。これも日本においてはあまり多くはありません。そして最後に、会社の価値(株価)が合理的であるということです。

 

 合理的というのはどういう意味ですか?

 そうですね。日本株専用のファンドであるならば、PER(株価収益率)が平均より低い、株価キャッシュフロー倍率が平均より低い、収益成長率が平均より高いということです。グローバルファンドのファンドマネージャーという立場で日本株を見ると、外国企業との比較に合理的株価の日本株というのを見つけるのはむずかしいことです。

 

 だから、LGT投信・投資顧問のGTグローバル インベストメント・オープンの日本への投資比率は低いのですか?

 ええ。このファンドについて言えば、約2%しか日本には投資していません。しかも、この比率はここ数年変えていませんね。

 

 今指摘していただいた様々なクライテリアを満たす日本企業というのはどのくらいあるのですか?

 あまりありません。ただ、日本株専用ファンドということになると、評価というのは市場全体との比較で決まりますので、比較的割安な株であり、比較的早いスピードで成長している日本企業というのもいくつか選択できます。こういう企業というのは現状では目立つ会社であり、所謂ニフティーストック(素晴らしい)と言えます。

 

 クライテリアに従って銘柄を選択したとして、実際の買いのタイミングというのはどうやって決めるのですか?

 その時点での株価を検討して、買いと売りの両方のターゲットを決定します。株価が過大評価されていると判断した場合には、その株価が下がるのを待ちます。つまり、買いのタイミングということに関してはきちんと抑制されたメカニズムが確立されているのです。

 

 というと、銘柄を選択した時点で既に買いと売りのレベルも決まっているということですか?

 ええ。買いのレベルはもちろん決めますし、我々がその時点で持っている様々な情報により売りのレベルについてもだいたいどのレベルで売るというレベルは頭の中にあります。しかし、2年、3年という投資スタンスですからその価格で必ず売るとは限りません。数年という期間の中で様々な変化が生じるからです。例えば、製品の需要が高まり、株価はもっと価値があると判断するかもしれませんしね。

 

 というと、どのくらいの頻度で買いや売りのターゲットレベルをレビューするのですか?

 ターゲットとなる株価については、毎週レビューをします。これは毎週その会社の分析をし直すということではありません。我々は週に2つのミーティングを開きます。一つはグローバルファンドのためのものであり、もう一つは日本株ファンドのためのものです。東京では日本株ファンドのためのミーティングを開き、ロンドンでグローバルファンドのミーティングを開いています。

 

 ポートフォリオのレビューはどのくらいの頻度で行ないますか?

 これも、先ほどのミーティングで行なうことです。株価のレビュー、ポートフォリオのレビュー、経済のレビューというのは一連のダイナミックなプロセスなのです。これらは絶えずレビューする必要があります。だからと言って、分析を毎週やり直すということではありません。しかし、どんな小さな情報でも、それが新たに生じた場合には認識している必要があります。その小さな情報によって変化が生じる可能性があるからです。

 

 ファンドマネージャーとして、今回の一連のアジア市場の下落にはどう反応したのですか?

 そうですね。一般に、我々が元々ポジティブな見方をしていた市場については、こういう状況が起こると以前にも増してポジティブになります。下落により、より安い価格で株式を購入する機会が提供されるからです。一方、元々ベアな見方をしている市場については、このような下落は我々の分析、見方が正しかったという確認をする機会となります。もっと具体的に言うと、我々は米国とオーストラリアの株式については強気の見方を持ってきましたので、この下落局面において米国とオーストラリアの株を買い増しました。しかし、日本についてはずっとベア(弱気)ですので、いくら株価が下落したと言っても何も買いませんでした。我々にとって、今回程度の日本株の下落では日本株は十分に安くなったとは判断できないのです。

 

 日本株は十分に安いとは言えないのですね?

 ええ、まだです。一方、ドルブロック、つまり米国やオーストラリアについては引続きブルな見方を持っています。

 

 どういう理由からドルブロックを好むのですか?

 最も重要な理由は、経済成長にあります。それと、低インフレ、それとダイナミックな民間セクターの存在が挙げられます。つまり、民間企業がリストラを積極的に進めており、しかもそれを継続的に行なっているということです。

 

 特にどのセクターですか?

 米国では金融セクターが良い例です。金融関連企業は新しいビジネス機会を創造し、断続的にリストラを進めています。それとテクノロジー関連セクターも有望です。


ファンドマネージャー・プロファイル

アンドリュー・キャレンダー氏(LGT投信・投資顧問株式会社)

 ファンドマネージャーとしてのキャリアはいつからですか?

 1987年からです。ブラックマンデーの僅か2ケ月前からです(笑)。

 

 その時点でブラックマンデーの予感はありました?

 いいえ、まだ入社まもなかったですからね。

 

 キャリアのスタートはどこですか?

 ロンドンです。

 

 東京に来る以前はどこに?

 ロンドン勤務の後、1987年から1990年は香港にいました。その後1990年から1994年まで東京に勤務。1995年から1996年までシンガポールに赴任した後、再び今年のはじめから東京勤務です。

 

 その間ずっとファンドマネージャーを?

 ええ。ずっと株式を中心とするファンドのファンドマネージャーです。この転勤を伴なう勤務形態というのは実はLGTの特徴でもあります。つまり、ファンドマネージャーがマルチカントリー経験(複数の国における運用経験)を持つことで、世界的な視野というものを持てるようになるということです。

 

 ファンドマネージャーとして日本の企業訪問(企業の財務担当者などに会って直接話をしたり、取材を行なうこと)を行ないますか?

 もちろん。週に2回程度は会社訪問を行ないます。東京ではファンドマネージャーとアナリストを差別化していません。

 

 アジアの他の国々での企業訪問と、日本での企業訪問を比較して違いを感じることはありますか?

 情報開示のレベルは日本企業の方がよいと言えます。

 

 それは意外ですね。

 驚くようなことではありません。日本企業の情報開示を米国の企業のそれと比較すれば、それはずっと悪いのですが、それでも日本企業はアジアの企業に比べるとまだましと言えます。もちろんアジアにも世界的に有名な企業があり、そういう会社については情報開示のレベルは高いのですが、インドネシアやマレーシアなどの企業については内容を把握するのはとても困難な仕事です。

 

 具体的に日本企業の情報開示は米国企業と比較してどう十分でないとお考えですか?

 日本企業の決算のフルレポートは年に一度しか公表されません。米国では四半期毎に公表されます。

 

 日本にも中間決算はありますが。

 中間決算ではあまり詳しい情報が提供されません。例えば、部門別の数字は発表する企業が少ないのが現状ですね。

 

 最後に、ファンドマネージャーとしての仕事とは関係ありませんが、ご趣味は?

質問 スポーツ全般です。ただ、施設的状況の違いもあり、十分には日本ではスポーツをできないのが残念ですね。

 


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