インタビュー
ポール・グリフィス氏 (インベスコ、ファンドマネージャー)
「GTグローバル 国際債券ファンド(愛称「クレッシェンド」)の最近の運用と今後について」
今回は、インベスコのファンドマネージャーポール・グリフィス氏に、同氏の所属するグローバル債券運用チームが運用する「GTグローバル 国際債券ファンド(愛称「クレッシェンド」)」の最近の運用状況や今後の見通し等について話を聞いた。「GTグローバル 国際債券ファンド」は、OECD諸国を中心とした世界各国の債券に分散投資することにより、リスクを抑える一方で、中・長期的に安定したリターンを追及するファンド。証券投資信託協会の分類ではバランス型に分類されている。10月末時点で、過去1年の分配金込み騰落率がプラス7.8%と、バランス型ファンドの中で第三位に位置している。インタビューはグリフィス氏の来日中の11月19日に行なわれた。
まず最初に夏以降のアセット・アロケーションの変化についてお話を聞かせいただきたいと思います。現金比率が下がり、ドイツ債の比率が上昇していますね。
そうです。それには2つの理由があります。今年の前半において私どもはドル圏の債券に対してかなり強気の見通しを持っていました。8月には米国国債の10年もの利回りはドイツ国債と比較して約110ベーシスポイント(1.1%)高い状況にありましたが、9月に入るとこれが40ベーシスポイントまで狭まりました。その為、米国国債の比率を下げ、同時にドイツ国債の比率を上げたのです。もう1つは為替の要因です。ドルは対ドイツマルクで上昇してきました。そこで、米国国債を一部売ってドイツ国債を買った、つまり、ドル売りマルク買いによる為替益を狙いました。
米独の金利差が狭まった要因は何ですか?
まず言えるのは、8月時点で両国の金利差が非常に大きくなっていたことが挙げられます。今年の前半において市場はドイツ債券を積極的に購入しました。ユーロに対するユーフォリア現象です。それによりドイツの債券市場は高騰しましたが、米国の債券市場には影響が及ばなかったのです。我々は、当時の動きはおかしいと見ていましたし、調整が入ると予想していました。ですから、米国債券をオーバーウェイトさせたのです。現時点でも、米国債券の方が欧州の債券に比べ値上がり益が狙えると考えていますが、今年前半ほどではないと考えています。それは、世界中でインフレが低く抑えられているのにも関わらず、実質金利はまだ高いままです。ですから、債券の利回りは低下する可能性があります。米国でも欧州でもイールドは低下するでしょうが、米国の実質金利は欧州より高く、米国での金利低下の可能性は欧州より高いと見ています。加えて、欧州の方がリスクが高いと見ています。つまり、欧州経済が安定ではなく強く回復した場合、欧州経済の順応性の欠如がリスクとなる可能性があるのです。
別のいい方をすると、米国においては雇用の移動は容易なのですが、欧州においてはそれほどでもない。雇用の自由化を妨げる障壁というのはなくなりますが、実際には言葉の障害などがあり自由には移動できません。欧州は単一通貨、単一市場となるわけですが、言葉という問題を考慮すると、欧州の雇用市場というのはとても融通が効かない市場なのです。第二に、欧州では雇用に関する法律的な要因から、従業員を解雇して他の人を雇い入れるというのは雇用主にとって米国ほど簡単ではないのです。これは欧州にはそれほどフレキシビリティがないという例です。この融通性の欠如のために、私どもは欧州通貨統合に対してそれほど魅力を感じていないのです。
今年の前半においては、米国について強気だったポジションを少し減少させはしましたが、それでも、どちらかと言えばドル圏の方が魅力的だと考えています。
市場の欧州通貨統合に対する期待というのは行き過ぎであると見ているのですね。
欧州通貨統合に対する期待感の大きさというのは驚くべきことではありませんし、今後も続くでしょう。しかし、あと数週間でユーロが誕生します。来年中には市場のユーフォリアは後退するでしょう。これは債券というより為替市場での影響の方が大きいでしょうね。最も重要な問題はユーロが強い通貨となるか弱い通貨となるかということです。最初は強い通貨としてスタートするかもしれませんが、それが続くとは限りません。私どもが今年前半に欧州通貨への配分を減少させた理由は、欧州は不透明な時期に入ろうとしていると見ていたからです。ですから、当ファンドの欧州への配分はJPモルガンインデックスに対して中立な状態にあります。来年のどこかで、ユーロが強い通貨であるか弱い通貨であるかが明確になってくるでしょう。現時点で私どもはドル対欧州通貨については中立のポジションを採り、ドル対円ではドルの方が強いという見方をしていますが、近い将来のユーロは強いかもしれませんが、その先ではドル高となるリスクがあると考えています。
そうなった時には、このファンドも再びドルへの配分を高めるのですね。
そうなります。
インデックスに対して中立なポジションというのは、インデックスと同じくらいの比率での資産配分という意味ですか。
そうです。我々は通常インデックスをターゲットとはしていませんが、市場の流動性を測るガイドとしては利用しています。
市場の欧州統合に対するユーフォリアは、いつ頃から後退してくると予想していますか?
来年の第一四半期くらいでしょう。しかし、これは予測するのは難しいことです。全ては欧州中央銀行の政策にかかってくると思います。それと、欧州の財政政策がどう変化するかも重要な要素です。これまでのところ適切な財政政策であると理解されています。しかし、イタリアやフランスを含む複数の参加国のコメントを聞いていると、緊縮的な財政政策が変更される可能性もあるのではないかと思われます。それが、債券や為替の上値を抑える要因となっています。現時点では予想しにくい状況ですが懸念材料として見ています。
欧州中央銀行へはいつから移行するのですか。
99年1月1日からです。1月1日にユーロが導入され、同時に欧州中央銀行が欧州の政策金利を決める中央銀行となるのです。ですから、その時点で参加国の中央銀行は政策金利を廃止します。
欧州中央銀行の初代総裁は誰ですか。
Willem F. Duisenbergです。彼が今後3年間は欧州中央銀行の総裁(president)となります。
独連銀出身ですか?
いいえ、彼はオランダ人でオランダの中央銀行の出身です。
彼は市場からどう見られていますか?
特に反応はありません。よくわからないというところです。欧州中央銀行の政策委員会のメンバーは参加国の代表の11人とその他の4人の合計15人で構成されています。政策会議の席で、彼らが自国の経済状況を見て政策金利の変更に投票するのか、それとも欧州経済全体を主眼に投票を行うのかが不透明なのです。ですから、政策会議が開催された時点で各政策委員が欧州人として会議に参加するか自国の代表として行動するかを見るのはとても興味があります。
いつ最初の政策委員会が開催されますか。
1月です。既に欧州中央銀行会議はこれまでも開催されてきました。ただ、影響ということで言うとあまり大きな影響はありませんでしたし、1月以降もないの大きな影響はないでしょう。独連銀は年末までに政策金利を変更することはないでしょうし、欧州中央銀行が政策金利を近い将来大きく変更することもないでしょう。今年のはじめには、市場は独連銀が金利を引き上げると予想していました。しかし、現時点では市場参加者は欧州の経済は思ったほど強くはならないと予想するようになりました。金利は当面現状維持となるでしょう。
過去数週間に既に始まっているのですが、今後年末に向けて欧州通貨統合の参加国は政策金利をドイツの金利水準に近づけようとするでしょう。ドイツの金利水準が欧州中央銀行の政策金利のレベルとなると予想されています。
先ほど欧州のユーフォリアが後退した場合には、米国への配分を増やすことになるということでしたが、英国への配分はどうですか。夏時点と比較して英国への配分には変化は出ていませんが。
ええ、米国と英国というのは、このファンドの資産配分上とても重要な位置を占めています。欧州のユーフォリアが減退した場合には、英国への比率を増やすことはあるでしょう。英国経済成長は鈍化しています。英国の中央銀行は短期金利を下げ始めました。これは正しい判断です。ですから、当ファンドにおいては英国はオーバーウェイトの状態にあります。利回りで見ると、英国国債はドイツと比較して約1%上回っています。ですから欧州全体で見たときに、英国国債の利回りは魅力的であり、しかもキャピタルゲインも狙えます。
しかし、英国への配分はほとんど変化していませんね。
ファンドにおける単純な資産配分比率ということでは変化していません。債券ファンドの場合、重要なのはデュレーションによる資産配分比率です。国際債券ファンドの資産配分におけるデュレーションは7.5年であり、JPモルガン世界国債指数のデュレーションの5.84年と比較して約1.6年長いのです。そして、このデュレーションへの寄与度ということで見ると、イギリスへの配分は約20%なのです。インデックスでは英国は9%です。ですから、インデックスと比較してこのファンドは英国についてかなりオーバーウェイトした状態にあると言えます。
8月時点でこのファンドはバーベルの状態にあるということでしたが、現在もそうですか。
そうです。しかし、8月時点ほどではありません。イールドカーブがフラットニング化すると予想していました。ですから、バーベルの状態にしていたのです。しかし、フラットニング化の動きが終焉してきましたので、バーベルの状態を解消しつつあります。
つまり、残存期間の長い債券のポジションを減らして、残存期間の中くらいの債券の比率を上げているのですね。
そうです。しかし、どちらかと言えばまだバーベルの状態にはあります。それと、このファンドについては、三洋証券専用ファンドであったため解約に備えて現金比率を高くしておく必要があったので、他のファンド以上にはっきりしたバーベルの状態にありました。しかし、今ではその必要はなくなりつつあります。
だから、キャッシュ比率も低下しつつあるのですね。
そうです。
どの国の(残存期間の中くらいの)債券を増やす予定ですか。
英国や米国などの安全な国の市場のものです。このファンドは9月から10月にかけての世界規模での市場の混乱の影響をかなり回避することができました。それは、このファンドがこういった主要国の安全な市場を中心に運用しているからです。他の市場へ資金を投入することには今でも慎重です。流動性やボラティリティーの懸念が残るからです。
ファンドが保有する債券の平均格付けは今でもAA格ですか。
そうです。AAA格に近いAA格と言えます。ファンドは最上質の債券、つまりAA格以上の債券に投資することを目的としています。事業債の組み入れも可能ですが、その場合でも最上質の事業債だけに投資します。そして、流動性の高い債券だけに投資します。この数ヶ月間の運用が他のファンドと比較して良かったのは、流動性の高い債券にだけ投資していたからでもあります。
ファンドのパフォーマンスはこれまでかなりよいものでしたが、10月末時点では過去1年での分配金込騰落率プラス7.8%と低下しました。これは為替の影響ですね。
そうです。9月末までのパフォーマンスはとてもすばらしいものでした。しかし、10月になってドル・円が急落し、その影響でファンドのパフォーマンスが低下しました。私は10年以上ファンドの運用を行ってきましたが、この10月のドル・円の急落のような動きはこれまでに経験したことがありません。20年以上の運用経験を持つ同僚たちもこのような市場を経験したことはないと言っています。グリーンスパンでさえ、彼の50年近い経験の中でこのような市場は見たことがないと言っています。ドルは対円で133円から2日のうちに111円まで下落したのです。ボラティリティーは非常に高く、ヘッジファンドのレバレッジ・ポジションの解消に因るものでした。その時点で、私どもは何もしないことが適切な対処法であると判断しました。その後、市場は落ち付きを取り戻し120円にまで戻しています。しかし、このレベルでもドル・円にとっては適切なレベルではないと見ています。現在の日本経済の状況から考えると1999年には一段と円安になる可能性があると予想しています。このファンドは為替ヘッジをしていませんから、ドルが対円で上昇すると為替益を享受することが可能となります。
日米の貿易収支の不均衡が再び拡大していますが、これはドルの上昇を抑える要因にはならないと見ていますか。
貿易不均衡はドルの対円での上昇の動きを逆転させるには至らないでしょう。我々は日本の景気は今のレベルから更に後退すると予想しています。そして日本の景気の回復のためには円安にしておき、日本の輸出企業が海外市場で競争力を回復することが必要なのです。ですから、このファンドだけでなく、他のファンドについても円への配分は最低限に抑えています。
数年前ドル・円が80円を付けるレベルまで下落した時には、米国の政治的圧力によりドルは対円で下落したということがありました。今回はそういう米国の政治的圧力はないということですか。
ないでしょう。クリントン大統領が望んでいるのは日本経済の回復なのです。
米国は連続して利下げを行ってきましたが、市場では既に次を期待しているようですね。
市場というのはそういうものです。私どもは米国はこれ以上の利下げの必要はないと見ています。グリーンスパンは適切な対応を取りました。特に、ファイナンシャルシステムを落ち付かせるという点では効果があったと思います。彼の発言と行動により株式市場は落ち付きを取り戻したのです。米国の株式市場が現状のレベルを維持すれば、もうこれ以上政策金利を引き下げる必要はないでしょう。
来年の米国経済をどのように予想していますか。
インフレという面でいうと、現在の低いレベルで落ち付くと予想しています。これは債券市場にとってはプラス要因です。金融政策については、経済成長がどの程度になるかによります。私どもが注目しているのはマネーサプライです。米国のマネーサプライが急激に上昇しており、これが強い経済成長に繋がってゆくのか、それとも他の国、特にアジアの経済の低迷が米国に波及効果を及ぼし米国の経済成長が鈍化するのか、これらの行方を注意深く見ているところです。今後数ヶ月以内にもっと明確になってくるでしょう。
ヘッジファンドのポジション解消についてですが、今後もドル・円に影響を与えると見ていますか。
ヘッジファンドのポジション解消に伴うドル売り円買いは10月中旬でピークを越えたと思います。しかし、どこの市場でどのくらいのポジションを持っているかは不明です。将来同様の混乱がないとは言えません。引き金がブラジルになるのか、米国の株式市場の急落になるのかは予想できないものです。世界の市場は落ち付きを取り戻しつつあります。1999年には市場は信頼を回復するでしょうが、時間はかかります。
ファンドの話に戻りますが、このファンドの純資産総額は増加傾向にありますね。
ええ、順調に増加しつつあります。このファンドは三洋証券専用ファンドであったので、純資産総額は一時急激に低下しましたが、今は順調に増えてきています。
日本の投資家に他に伝えたいことは?
このファンドにおいて私どもが何をしているかということです。つまり、私どもは世界規模でのマクロ経済の予測をして、その予測が当ってきたということです。だからこそ、このファンドのパフォーマンスレコードはよいのです。このファンドの運用は1年3カ月程度ですが、このファンドと同じチームが同様の方針で運用を行っているダブリン籍の米ドル建て外国投信があり、そのファンドは過去10年間の平均年率がプラス12.58%(米ドルベース)という運用実績を持っています。
数日前、あるミーティングでこのファンドのユニークな点はどこかと聞かれましたが、すかさず「人である」と応えました。優秀な人材により運用されているファンドであるということです。エコノミスト、クオンツ、ファンドマネージャーそれぞれが経験豊富な優秀な人材であることです。次に運用プロセスです。定量分析チーム、経済ファンダメンタルズ分析チームから情報・分析の提供があり、それを基に投資戦略グループが投資方針の策定・モデルポーフォリオを作ります。それがこのファンドにも反映されているのです。そして、パフォーマンスの良さです。これが最も重要な点です。つまり、「人」 + 「プロセス」= パフォーマンスだということです。私どものパフォーマンスレコードは強いものです。それと、パフォーマンスが他の競合するファンドと比較してどうであったかというのも重要です。10月の結果を見ていないので何とも言えませんが・・
協会発表データ(10月末現在)では、このファンドはバランス型のファンドの中で第三位となっていますね。
このファンドは、OECD諸国を中心とした債券に投資するファンドですが、まずは、競合するファンドに勝つということを重要視しています。その次にインデックスを上回ることが重要となります。時には競合ファンドに勝っても、インデックスに負けることはあります。それは問題ではありません。インデックスに勝っても、競合ファンドに負けるという状況は避けたいのです。競合ファンドを上回るリターンを投資家に提供するということが大切なのです。そして、このファンドはこれまでそれを可能としてきました。私は全てのファンドマネージャーというものは、何を目的に何をしようとしているかを明確にすべきだと思います。
これまで、何度かGTグローバルのファンドについてお話を聞いてきましたが、このファンドも含めてGTグローバルのファンドというのは、御社全体のエコノミスト、アナリスト、ファンドマネージャーの分析・運用能力のエッセンスを凝縮したファンドであると言えると思いますね。
「人」なのです。
どうもありがとうございました。
【本を読もう!】

