インタビュー
大前研一氏 & ダン・フィリップ氏 対談
この対談は衛星放送チャンネル ビジネス・ブレークスルー「Meet the Fund Manager」で放送されたものです。撮影日は1998年10月28日。
ダン・フィリップ氏は、米国大手投信評価会社モーニングスター社の代表取締役社長。
スタジオにお越しきありがとうございました。また、月刊ファンド・インベスター誌の日本での創刊おめでとうございます。モーニングスターのファンド評価というのは世界中の投資家の間で利用されていますが、今この時期に日本に進出を決めた背景は何ですか。
日本の金融市場、特に投資信託についてのビジネスにとってはとてもよい時期であると判断しました。現在の日本の状況というのは、米国の70年代半ばの状況によく似ています。当時、米国ではミューチュアルファンドというのは投資家にそれほど人気のある商品ではありませんでした。米国の株式市場は70年代はじめからの長期的低迷期にありました。ですから、投資家は他の選択肢を探していました。その時点ではまだミューチュアルファンドビジネスというのは現在のように近代化していませんでした。日本の今の状況はその当時の米国に似ているのです。投資家はよりよい投資機会を探しています。市場が投資信託にとってより好ましいものとなってきています。投資信託はより投資家にとってより魅力的なものになってきています。また、米国の401kプランのような年金システムの導入も検討されていますね。これらの要因が重なって、今後日本の株式市場が回復してくれば、日本の投資信託市場というのは大きく発展すると予想しています。
モーニングスターは1984年に設立されたわけですが、14年間という短い期間にファンドの評価においてリーダーとしての地位を確立しました。投資家とファンドの売り手の関係というのはどう推移してきたのですか。日本においては、投資家とファンドの売り手の関係というのはあまりよいものとは言えない状況にあります。信頼関係にはないのです。米国でも投資家とファンドの売り手の関係というのは現在の日本の状況に似ていましたか。
ええ、似ていました。ですから70年代の米国においてもファンドというのはあまりよい評判はありませんでした。しかし、米国ではパワーシフトが起こったのです。つまりテクノロジーの発展により、より多くの情報がより多くの投資家に提供されるようになったのです。これはとても重要な展開でした。それ以前はパワーというのは、ファンドの売り手にあり、多くの情報と情報の流れは彼らに握られていました。しかしテクノロジーの発展により、情報が投資家に渡るようになりました。それにより投資家がパワーを持つようになったのです。ですから、今ではファンドを購入する投資家の方にパワーがあります。モーニングスターは設立のタイミングがよかったと言えます。このパワーシフトが起こっている時に会社は設立されたので、時代のニーズに適合していました。
多くの機関投資家がモーニングスターの評価を利用していますが、モーニングスターは本来個人投資家を対象に評価を提供しているのではないのですか。
そうです。我々はいつも個人投資家の利益というものを優先しています。決して、ファンドの売り手の立場に立って、どうやったらファンドをより多く売れるのを助けられるかというようなことを考えたことはありません。我々は絶えずどうやったら個人投資家がファンドを選択することを助けることができるかということに焦点を当ててきました。モーニングスターが個人投資家の間で信用されるようになると、ブローカーやフィナンシャルプランナーも個人投資家の立場というのを重要視するようになってゆきました。彼らもどうやったら自分たちの顧客のためになるのかということを考え出したのです。そして運用会社も同じことを考え始めました。彼らも長期的な成功というのは、個人投資家の立場にたって行動することであるということを認めはじめたのです。我々の評価というのは、ブローカーや運用会社にも提供されていますが、あくまでもモーニングスターの対象は個人投資家であり、これは決して変わることはありません。個人投資家にとって最適なファンドを選択できるように助けることが我々の目的なのです。
個人投資家がモーニングスターの評価を入手したい場合はどうしたらよいのですか。
米国ではいくつかの方法があります。メインは月刊誌の購入です。新聞や雑誌でも宣伝しています。
いくらかかりますか。
年間購読料は79ドルです。
年間で?
そうです。これは毎月発行しており、各誌は約50頁の構成です。とても入手しやすい価格だと思います。しかし最近ではより多くの投資家がインターネットを利用して我々の情報を入手しています。我々のサイトである http://www.morningstar.netは約25万人の登録利用者がいます。投資家は我々のサイトを利用して自分のポートフォリオを登録し、分析を行ない、様々な記事やアナリストの分析を読むことができます。投資家は自分のファンドをモニターし、よりよいポートフォリオを作成するためにサイトを利用しています。
このサイトの利用には会員費用がかかりますか。
サイトにはかなりの無料部分が含まれています。サイトを立ち上げてから1年以上が経ちますが、最近になりプレミアサイトを設け、ここではより詳細な分析を提供しています。しかし、サイトのほとんどの部分が無料です。今後もこのままの形で継続すると考えています。
インターネットは紙の媒体でのサービスと競合しませんか。
競合する部分もあります。しかし、テクノロジーが発展していますので、例え我々がインターネットに進出しなければ、ほかの誰かが進出してしまうでしょう。人工的なバリアを作らないようにするということが重要であると考えています。つまり、テクノロジーが発展しているのに目をつぶって、そこに投資しないということは避けたいと考えています。最先端の技術を利用するということは大切なことです。たとえそれが既存のサービスに影響を与えるようなことになったとしてもです。
モーニングスターへの信頼の大きな要因の一つが独立性という点にあると思います。情報という面、それから資本関係においての独立性です。日本への進出においてはソフトバンクとの提携という形をとりましたね。このような提携というのはモーニングスターにとっては初めてのことですか。
ええ、そうです。このようなジョイントベンチャーというのは初めてのケースです。しかし、個別商品については他の会社と様々な形で提携しています。例えば、マグロウヒル、ビジネスウィーク・マガジンなどです。ただ、資本提携というのは初めてでした。その場合においても、信頼性に影響を与えてしまうので、決して運用会社との提携はしたくなかった。ソフトバンクとの提携のメリットというのは、ソフトバンクのテクノロジーです。彼らの持つテクノロジーというのはとても重要なリソースであると考えました。それと、彼らの考え方にも共鳴しました。
ソフトバンクはモーニングスターがインターネットや発行物においての情報や分析に関しては中立の立場を維持するのですね。ソフトバンクが持つヤフーやジオシティーズなどのプラットフォームを利用するのでしょうが、他のプラットフォームの利用も検討するのですか。
そうです。モーニングスターは決してヤフーやジオシティーのリサーチ部門というわけではないのです。独立した会社であり、もちろん彼らと共に情報を提供することもありますが、他の会社との協力関係も検討します。我々はオープンシステムというものを信じています。米国においても個人投資家、販売会社、運用会社、チャールズシュワッブ、フィデリティなど多くの会社と協力しています。
チャールズシュワッブもですか。
ええ。それらの様々な協力・提携が可能な理由も、モーニングスターが独立した会社であり、信頼性というのが認知されているからです。我々は編集の独立性等が失われるような提携を一切行ないません。
日本においては、債券の格付けについてはスタンダード・アンド・プアーズとムーディーズというのが、2大格付会社として定着しています。これらの債券の格付会社と競合するようなビジネスというのはありますか。
彼らのビジネスと我々のビジネスは違うものです。彼らは債券の格付会社です。彼らは債券を発行する会社の依頼により、その信用力を分析し、発行体から料金をとります。我々の評価の方法というのは違います。我々は投資家側からのアプローチをとります。我々は全てのファンドを評価しますが、ファンドの運用会社に評価料として料金を課金しません。客観的にファンドを評価します。
モーニングスターがファンドの評価に使用する情報というのは、他の会社と比較してどう違うのですか。
我々の評価は完全に定量的なものです。そして評価方法というのも公表しています。評価は過去のデータに基づいて行なわれています。様々な情報を収集しそれを整理することによって、あるファンドが他のファンドと比較してどうパフォームしたかを比較評価します。我々の評価は客観的なものです。
(中略)
説明を聞くとモーニングスターの評価というのはとても洗練された評価であることがわかります。しかし、日本人というのはファンドの購入にさえ慣れていません。日本人は資金の70%を郵便貯金や銀行預金、生命保険に入れています。個人投資家の10%未満が株式を保有しているだけという状況です。債券の保有者についてはもっと少ないでしょう。債券については機関投資家が主要投資家となっています。こういう状況下にあって、モーニングスターの評価というのは、年間イールドの0.3%と0.4%の違いも認識できない状況にある日本の投資家にとっては洗練しすぎてはいませんか。米国においては、このアプローチというのは時間をかけて発展し完成された。しかし、日本に突然導入した場合、投資家が理解し、それを活用できると思いますか。
初日から理解できるとは思いません。継続した教育というのが大切です。モーニングスターにとっても、運用会社や販売会社にとっても投資家の教育というのはとても大切です。最悪のケースというのは、とても保守的な投資家に対して積極運用のファンドを売ってしまうということです。例えば、銀行の定期預金しか利用したことのない投資家にとって、外貨建てのハイ・イールド・ボンド・ファンドというのは決して次のステップとは言えません。もちろん投資家によってハイ・イールド・ボンド・ファンドの組み入れが適当である場合もあります。しかし、まずポートフォリオの構築の概念、様々なリスクというものをまず知らなければなりません。ファンドインベスターを日本で創刊しましたが、だからと言って、日本の投資家が米国の投資家と同様の考え方を直ぐに始めるとは考えてはいません。投資家のレベルの違いというのは十分認識しています。日本の投資家というのはとても保守的なのですから長期的に彼らを次のステップに導けるように努力してゆくつもりです。
米国では70年代にMMFが創設され、80年代に入って債券ファンド、その後、ファンズ・オブ・ファンズや、エマージングボンドファンドなどのハイリスク商品が生まれました。同時に、評価方法というのも時代に合わせて洗練されてきました。しかし、日本ではビッグバンということで、ファンドの評価一つとっても多くの新規参入が行なわれています。金融機関や研究所の中には自らファンドの評価を行ない始めたところもあります。同時に、モーニングスターが参入し、モーニングスターによる4つ星、5つ星評価のファンドです、という情報提供が始まることになります。投資家にとっては突然様々な評価が提供されるようになったわけで、これにより日本の投資家が混乱するということはないでしょうか。日本の投資家は米国の投資家ほど成長していないし、レベルが違うと思うのですが。米国でもファンドが現在のように投資家に利用されるようになるまでには20年近い歳月がかかったわけですし。
おっしゃるとおりですね。米国では過去20年の間にファンド業界が大きく成長しました。この20年間に様々な商品が開発されてきました。それらが、一度に日本に輸入されてしまえば日本の投資家はかなり混乱することになるでしょう。ですから、我々の役目は様々なリスクというのを投資家に伝えることでもあります。米国において、我々は保守的すぎるという批判を受けることがあります。我々の評価の半分はリスク評価です。残りの半分がパフォーマンス評価です。これが他の評価会社とモーニングスターとの大きな違いでもあります。加えて、我々は長期的な視野でファンドの評価を行ない、短期的に高いパフォーマンスというのは割り引いて考慮します。パフォーマンスの安定性ということを重視します。こういうアプローチは日本のファンドを評価する場合においても大切であると考えます。日本の市場に適合するように方法を調整する必要もあるかもしれません。だからこそ、シカゴから日本のファンドを評価するのではなく、日本に進出したのです。日本に進出し、日本企業と提携することで、どうやったら日本の投資家、市場に最適なサービスを提供できるかを探し出したかったのです。そして、我々が世界中の市場に進出していない理由というのもそこにあります。これまで我々のファンドの評価は米国に特化していました。そして今回日本に進出しました。ですから、今は日本市場を研究し、この市場について学び、日本の投資家にとって最適なサービスの提供というのを確立することを最優先としたいのです。
わたくしがモーニングスターの米国におけるアプローチで特によいと思う点は、投資家にファンドマネージャーについての情報を提供している点です。ファンドマネージャーに関する情報というのは日本では提供されていません。運用者の顔の見えないファンドばかりです。創刊されたファンド・インベスターにおいては、ファンドマネージャーに関する記載がないのですが、どうしてですか。
もちろん将来的にはそういうレベルにもってゆくつもりです。モーニングスターにおいても80年代にはファンドマネージャーに関する記載というのはありませんでした。ファンドマネージャーの情報を公開の必要性を最初に問うたのは我が社なのです。90年台に入ってやっと運用会社はファンドマネージャーの名前を目論見書に掲載することが義務付けられるようになったのです。ミューチュアルファンドというのは会社型投信なのですから、ファンドの運用者が誰なのかわからないというのは納得できないことです。ファンド会社が上場企業の株を買う場合には、その会社のCEO(最高責任者)が誰なのかわからなかったらおかしなものでしょう。ですから、モーニングスターはその点を運用会社に認識させるのにかなりの努力をしてきました。ですから、将来的には日本の運用会社も、投資家の信任を得るためにはファンドマネージャーが誰かということを情報公開する必要があるということを認めるようになるでしょう。
これまでに日本の運用会社からファンドマネージャーについての情報公開を抵抗があったということですか。
抵抗があったということではなく、出版物を創刊する場合には様々な努力が必要だということです。トータルリターン、リスク、ボラティリティなどの数字やオペレーションに関する情報を集めて基本的なデータベースを構築するということに全力を投じました。しかし、これからは構築されたデータベースに新しい数字を追加するだけでよいのです。米国においても我々の商品は同じように発展してきました。ます、基本となるデータベースを構築して、徐々により広範で詳細なデータを加えてきたのです。日本においても同じ方法で展開してゆく予定です。
中立で独立した評価ということで投資家からの信頼を確立するために、どのような社内的なコントロールを採っていますか。例えば、従業員に対して禁止事項を設けたりしていますか。日本においては、ファンドの評価というのは販売者のための付加的な機能として行なわれています。結果的に、評価会社は親会社がこれはすばらしい商品だと言ったファンドを好む傾向となります。だからそういう会社は投資家から信頼されません。モーニングスターの信頼性が確保されるために、どのような社内規定を設けていますか。
まず第一に会社の株主には運用会社を入れないということが挙げられます。これはとても重要なことです。この他には、米国ではファンドアナリストに対しては上場されている運用会社の株式の購入を禁止しています。これも重要なことです。我々は米国では株式とミューチュアルファンドの両方を評価しています。特に株式については厳しいルールを設けており、株式が調査対象になっている場合は、その株式の購入を禁止しています。ミューチュアルファンドについては、株式ほど厳しいルールを設ける必要はありません。アナリストがミューチュアルファンドの価格に影響を与えることはないからです。評価によって人気がでる場合もありますが、それでもファンドの価格を上昇させるような結果にはなりません。日本でも同様のスタンダードを設けています。つまり、運用会社を株主にしないこと、従業員のの運用会社の株式の保有の禁止です。
評価を下げた場合に、運用会社から圧力がかかることがありますか。日本ではアナリストが企業の影響を受けることがよくあります。業界で生き残るためでしょうが。アナリストをそういう圧力から守るためにどういう対策をとっていますか。
まず、評価が完全に客観的なものとするということです。これは米国でも同じです。例えば、ファンドマネージャーに会うと、とても優秀で魅力的に映る場合があり、高い評価をつけたくなります。しかし、魅力的なファンドマネージャーが必ずしも投資銘柄の選択に優れているわけではありません。ですから、我々は基本評価については完全に客観的なものにしています。アナリストのコメントも掲載しています。これについては、日本でも行なう予定でいます。この部分においては、主観的なコメントも入ってきます。これはどんな出版物でも同じでしょう。しかし、この部分は評価とはまったく別のものとなります。ですから、例え運用会社が我々の評価を気に入らないからと言って、圧力をかけても評価は変わりようがないのです。評価のもととなる数字が明確にあるわけですから、変えようがありません。もし、気に入らないのであればより高いパフォーマンスを出せばよいのです。そうすれば当然評価は上がります。
つまり、コメントに対しては圧力がかかるリスクはあっても、基本的な評価の部分に対してはないのですね。
そうです。投資家にもそれは明確に示されます。つまり、客観的な分析の部分とコメントの部分は全く別の場所に記載されます。どのような編集物においてもアナリストやジャーナリストのコメントや主観が入ります。しかし、我々の評価のほとんどが定量的であり、客観的であるので運用会社により影響を受けることはありません。
この点について御社の従業員のパフォーマンスをどのように測るのですか。
新聞社が記者のパフォーマンスを測るのと同様の方法を用います。「アナリストが提示している論点は事実に基づいた最善の論点であるか」ということを絶えず問うのです。分析結果に反する事実が存在していないかを問うのです。正直であるか、分析に一貫性があるかを問います。こういうことをアナリストに求めています。
401kは米国では1982年に導入されたわけですが、モーニングスターはその2年後に設立され、とてもタイムリーだったと言えます。日本も401kの導入を検討しています。理由は政府は既存の年金プランの約束を果たせないからです。しかし、日本政府の検討している「401kのようなもの」が来年あるいは2000年に導入されると、様々な混乱が発生すると予想されます。401kプランが日本でも導入されると仮定して、日本の投資家は何を知っている必要があるでしょうか。これはパラダイムシフトであり、これまでずっと政府が行なってきたことを、突然国民の手にまかされるのです。401kを導入しようという企業や国民は何を知っている必要があるでしょうか。
たしかにこれは大きなシフトです。個人の手に任されることになるのですから、国民は金融市場を理解しなければなりません。たとえ個人的には金融市場に関心がなく、市場に参加する気がないとしても、401kは金融市場の変動に大きく影響を受ける商品ですから市場を理解する必要があるのです。国民一人一人が自分の将来の経済的状況に対しての責任を負うことになります。ですから、教育というのがとても重要になります。市場についてのセンスを磨く必要があります。市場がどう機能しているか、どうしたら市場において賢い投資家でありえるかを知る必要があります。これも、モーニングスターが今日本に参入するということが重要であると考えた要因の一つです。今後、教育に関する強いニーズが生まれると予測されます。年金システムの主導権が政府から個人へ移行されれば、誰もが金融市場について勉強しなければならないと考えるでしょう。
最近、多くのヘッジファンドが破綻しましたが、ヘッジするというのは元々リスクを軽減するという意味でした。しかしながら、ヘッジファンドが破綻しました。つまりリスクコントロールに失敗したわけです。ヘッジファンドの本質について評価会社というのは認識していましたか。また、ヘッジファンドのようなリスクの高いファンドというのは評価可能ですか。
ええ、皮肉にもヘッジという言葉はリスクを回避または軽減するという意味を持っていました。しかし、ヘッジファンドの多くがあまりにも大きくレバレッジをかけていたのです。間違っていたのは、彼らが巨額の資金を動かしていたということです。ヘッジファンドのようなファンドの適した場所というのも確かに存在しているとは思いますが、そういうファンドとミューチュアルファンドとは別々に考える必要はあります。米国におけるミューチュアルファンドに関する規制のすばらしい点はとても保守的であるということです。空売りやレバレッジの割合については制限がありますし、最も投機的な行動というのはミューチュアルファンドでは禁止されています。この数年、業界内でも規制を和らげるべきだという声もあります。しかし、モーニングスターはそういう規制緩和論に反対しています。ミューチュアルファンドが投資家から信頼されている要因の一つは、とても保守的であるからなのです。米国におけるミューチュアルファンドの規制の中心部分は1940年に設定された投資会社法(Investment
Company Act of 1940)です。この1940年という年は重要な意味を持っています。1920年台後半のクローズドエンドに関わる問題のすぐ後に設定されました。法令は米国がリセッションの最中、つまり誰もが金融機関など信用していないという時に施行されました。この法律が情報公開、保守性、投資家保護の動きの基礎となっているのです。世界中のミューチュアルファンド業界がこの点については決して目を反らしてはならないのです。より投機的な、洗練された投資家にとってはヘッジファンのような行動もよいかもしれませんが、ミューチュアルファンドは一般の投資家のものであり、より簡単で、保守的であり続けるべきです。
日本でも運用会社に対しては今指摘された態度で臨むのですね。
そうです。我々のゴールは各ファンドがとっているリスクを明確にすることであり、投資家にそれらリスクをきちんと認識させることです。どれがよいファンドで、どれが悪いファンドかというのを決めるというのが我々の目的ではありません。投資家がリスクを把握するのを助けるということは投資家のためだけでなく、運用会社にとってもプラスになるのです。運用会社は投資家が適当ではない理由によってそのファンドを購入してしまうことを避けることができます。短期的には売上が上昇するかもしれませんが、長期的に考えれば顧客を失う結果になります。我々は誰もがリスクを認識している必要があると考えています。
米国での創業時において、トラックレコードも投資家からの信頼というものもなかったわけですが、今ではモーニングスターは米国において絶対的な地位を確立しています。これはファンドの分析の結果であると考えますか。それとも、他の要因があると思いますか。
多くの要因があると思います。まず、我々が積極的な発言者であったということが挙げられますし、もちろん評価が正しかったというレコードを積み上げられたこともあります。我々は投資家の代わりとして、積極的に情報公開の必要性やリスクの明確化の必要性を訴えてきました。そのために、投資家が我々を信頼するようになったのです。その結果として、運用会社も我々のことをより真剣に見るようになりました。米国で築き上げたものが日本でも評価されることを望みますが、同時に日本においても一から投資家の信頼を得なければならないということは理解しています。米国で成功したからと言って、日本でも最初から成功するとは限りません。
それは、これからモーニングスターが育ててゆく日本の従業員の質によってくると思います。日本の投資家の中には米国からファンドを購入している人がいます。そういう人はモーニングスターの米国の評価を見ればよいわけです。しかし、日本の投資信託を購入する人は、モーニングスターが日本で行なう同様の評価を見ることになるわけですね。
そうです。我々のアドバンテージは、米国での経験の中において築き上げた評価ツールを応用できるということです。我々が米国における他の評価会社と違う点は、ファンドが保有している個別銘柄まで考慮するということです。そうすることで、ファンドマネージャーがどのようなリスクをとっているかがよくわかるのです。多くの評価会社はファンドマネージャーに担当しているファンドはどの程度リスクがあるかと質問しますが、当然ファンドマネージャーはあまりリスクはないと言うに決まっています。それでは、他のファンドと比較することができません。ファンドが組み入れている銘柄まで分析することによってはじめてそのファンドがどう運用されているかを理解することができるのです。似たような名前の2つのファンドがあった場合に、組み入れ銘柄によって将来的なパフォーマンスには大きな差が生じるわけです。
ソフトバンクの役割というのは何ですか。
ソフトバンクはとても起業家精神に富んだ会社です。加えて、インターネット技術に秀でています。発展のスピードというのは米国のほうがはるかに早いでしょうが、我々はインターネットというのは日本において将来的には最も重要な情報伝達手段であると考えています。もう一つのソフトバンクの重要な要素は、東京におけるプレゼンスを提供してくれるということです。ソフトバンクと提携したからこそ、日本において日本のファンドを担当するアナリストの教育を行なったり、日本における展開について検討することができたのです。日本でビジネスを本格的に行なおうと考えている場合、日本に実際に進出して、市場を理解することはとても重要なことです。シカゴにいて、米国で通用した方法だからと言って、それをそのまま日本に応用するというのではだめだと思います。
仮にソフトバンクがファンドなどを運用し始めたとすると、モーニングスターにとっては問題となりませんか。
ソフトバンクはとても起業家精神に富んだ会社です。もし、彼らがそういうビジネスに参入することになれば、我々はビジネスの境界線をより明確にします。
チャイニーズウォールですね。
そうです。わたくしはソフトバンクの全てのビジネスの展開を把握しているわけではありませんが、モーニングスターは企業として日本で成功するためには、そういうプロテクションは必要です。
モーニングスターとソフトバンクはお互いのビジネスを完全に理解しあっているわけですね。お互いに十分に話し合い、モーニングスターとしてはソフトバンクの中立性に満足しているのですね。
ええ、そうです。我々はソフトバンクが証券会社、銀行業務に参入することも理解しています。しかし、我々の日本における展開において、彼らからのプレッシャーは全くありません。我々だけで日本に参入したのと同様に自由に展開を図っています。
そうですね。わたくしの印象ではソフトバンクはインターネット上にプラットフォームを構築しようとしているのだと思います。プラットフォームというのは定義的にとても中立でなければなりません。私は決して問題があると言っているのではなく、モーニングスターには米国で築き上げた高い評価というものがありますから、この点を確認したかっただけです。わたくしは投資家が投資信託を購入しようとした場合に、モーニングスターのような中立で、高く信頼された会社があって、投資家の助けになることを期待していたのです。本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
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