インタビュー
今回は、ロンドンのインベスコ アセット・マネジメントのグローバル株式運用全体の最高責任者(CIO=Chief Investment Officer)であるアンソニー・ブロカード氏と、日本で販売されているGTグローバル インベストメント・オープンのファンドマネージャーであるジョン・ナデル氏に、インベスコのグローバル株式ファンドの運用プロセス、同社の株式見通し、更に、GTグローバル インベストメント・オープンの運用等について話を聞いた。インタビューは両氏の来日中の9月27日に東京のインベスコ投信投資顧問で実施した。
![]() |
アンソニー・ブロカード氏 グローバルプロダクト |
![]() |
ジョン・ナデル氏 GTグローバル インベストメント・オープン |

最初に、インベスコのグローバル株式ファンド(世界中の株式市場に分散投資するタイプの投資信託、GTグローバル インベストメント・オープンがその一例)の投資プロセスとブロカードさんの役割をお聞かせ下さい。
私は、グローバル運用チームの最高責任者です。このチームは、現在、世界中の投資家の資金約220億ドル(約2.3兆円)を運用しています。これらの資金は、グローバル債券ファンド、グローバル株式ファンド、そして、債券と株式の両方を含むグローバルバランスファンドで運用されています。
具体的に投資プロセスをお聞かせ下さい。
投資プロセスは3段階のプロセスにより構成されています。アセットアロケーションとカントリーアロケーション、銘柄選択、ポートフォリオの構築とリスク管理の集約です。すべてのグローバルファンドに同じ投資プロセスが適用されています。
では、第一段階のアセットアロケーションとカントリーアロケーションがどのように決定されるかお聞かせ下さい。
当社の運用プロセスの鍵は、当社がバリュエーションとダイナミクスと定義しているものですが、このバリュエーションとダイナミクスによってアセットアロケーションが決定します。アセットアロケーションはロンドンの戦略グループが決定します。
バリュエーションとダイナミクスとはどのようなもので、何のために使われるのですか。
当社がバリュエーションと定義しているのは、長期的なファンダメンタルズに影響を与える中心的トレンドのことです。ダイナミクスとは、短期的影響のことです。これらは、株式、債券、キャッシュにおける相対的投資価値を判断するものです。同時に、世界中の株式市場の相対的投資価値を判断するのにも利用します。
つまり、世界中の長期的トレンド、短期的状況により、アセットアロケーションとカントリーアロケーションが決まるわけですね。その次はどのようなプロセスとなるのですか。
銘柄選択です。
銘柄選択はどのように行われるのですか。
当社は世界中に調査拠点を持っており、そこで企業調査が行われています。各地域拠点のアナリストが、ベストアイデア、つまり、ポートフォリオにとって最適な組入銘柄を提案するのです。
次のステップはどうなりますか。
第三段階は、ポートフォリオの構築です。戦略グループにより決定されたアセットアロケーションやカントリーアロケーションと、世界中の各地域から提案された最適な組入銘柄を基本として、グローバル投資チームが、リスク管理を考えながらポートフォリオを構築するのです。
このプロセスの中ではクオンツ分析が主体となっているのですか。
グローバル株式チームには15名の調査グループがあります。この調査グループはエコノミスト、エコノメトリシャン、クオンツアナリスト、ストラテジストによって構成されています。
ブロカードさんのグローバル株式チームの中に、この調査グループがいるのですね。
そうです。
このグループはどこに拠点を置いているのですか。
このチームはバーチャルなチームです。
バーチャルとは?
このチームのメンバーは、ロンドン、フランクフルト、アトランタ、香港におり、各拠点から全員が同じプログラムを使いながらチームとして機能しているのです。
香港のメンバーが東京もカバーしているのですか。
香港はアジア全域をカバーしており、アジア市場のバリュエーションとダイナミクスを分析しています。
各地域のエコノミストもグローバル株式チーム、つまりブロカードさんのチームメンバーですね。
そうです。私はグローバル株式チームの最高責任者ですから、そういうことになります。しかし、各専門分野にはシニアメンバーが揃っています。例えば、エコノミストのヘッド(責任者)はジョン・グリーンウッドですが、彼は、経験豊富で、実際とても有名なエコノミストです。彼が香港の通貨システムの設計を行ったのです。
そうですか。
彼は、日本の大学院でも研究を行いました。日本語も話せます。
日本で研究を?
ええ。20年ほど前の話です。ただ、彼だけでなく、他のチームメンバー全員が優秀であり、いつも投資プロセスの背後にあって、つまり、彼らについて顧客の皆さんに大々的にご紹介することはあまりありませんでしたが、このプロセスを支えている重要なチームなのです。
このチームの調査を基に先ほどお話いただいたバリュエーションとダイナミクスによる分析が実施されるということですね。このバリュエーションとダイナミクスの判断はどの程度頻繁に変化するものなのですか。
チームは常にマクロ経済をモニター、分析しています。最近であれば石油価格の動向を非常に注意深くモニターし続けています。石油価格の動向が、インフレやGDPに与える影響を分析するというのは、このチームが常に行っていることです。ただ、バリュエーションやダイナミクスの見直し、あるいは見直しの必要性を正式に検討するのは、毎月開催される投資戦略会議の場で行われます。
バリュエーションとダイナミクスについて、具体的な例をお聞かせ頂けますか。
米国を例にお話しましょう。米国市場については、多くの評論家やファンドマネジャーが、何年にもわたり割高であると指摘してきました。一部のファンドマネジャーは、米国市場を大幅にアンダーウェイトしてきました。当社も、米国市場のバリュエーションが平均より割高であることは認識していました。しかし、米国のダイナミクスは非常に堅調でした。長期的に好調な景気サイクル、生産性の上昇などにより、企業収益成長はこれまでにないほど高水準となりました。これらの要因がバリュエーション要因よりも比重が大きくなりました。実際、当社は米国株式市場についてかなり高い配分をしてきました。これが、投資プロセスにおけるバリュエーションとダイナミクスの関係の一例です。
今、生産性というお話がありましたが、生産性という指標は、バリュエーションでもあり、ダイナミクスでもありえるわけですね。
その通りです。それがグローバル投資の重要な特徴でもあるのです。生産性、あるいは金利のような重要な指標は、長期的なバリュエーションに大きな影響を与えます。しかし、これらは短期的には株式市場に影響も与えます。一般の投資家にとっては、これら二つの要因を合わせて判断することが困難です。それが、当社の投資プロセスがまさに行っていることなのです。
つまりどういうことですか。
生産性から長期的インフレシナリオに関する情報を読み取り、同時に、短期的な株式市場への影響から短期的なインフレシナリオをも判断するのです。
投資判断においてバリュエーションとダイナミクスのどちらがより重要なのですか。
両者とも同様に非常に重要です。バリュエーションとダイナミクスの片方だけで投資判断を行った場合と、両者を併せた場合と、どちらが優れているかを検証してみましたが、両者を併せた場合の方が非常によい結果となりました。
そうですか。
バリュエーションとダイナミクスを理解してもらうために、ウォータースキーを思い浮かべて下さい。
ウォータースキーですか?
そうです。
おもしろいですね。
投資家により具体的に描いてもらうために考えたのです。長期的価値は、経済でも株式においてもキャッシュフローにより牽引されると考えています。長期的キャッシュフローは、水上のモーターボートだと考えて下さい。そして、このボートに引っ張られているウォータースキーヤーがいます。ある場所から、もう一方の場所まで、ウォータースキーヤーはボートに牽引されてゆくことは明白です。しかし、ウォータースキーヤーは一直線に進むわけではありません。水や風の状態など様々な要因により、ジグザグに動きながらボートを追う形になります。これがダイナミクスなのです。バリュエーション、あるいはキャッシュフローは株価を牽引しますが、株価は上昇と下落を繰り返しながらついて行くという形になります。
確かに、わかり易い例ですね。ところで、注目するバリュエーションやダイナミクスは変化するのですか。
長期的な牽引要因は非常に安定しています。つまり、ほとんど変わりません。統計的、数学的に安定した関係にあります。長期的キャッシュフローは、公定歩合を使って測ります。しかし、短期的な牽引要因は変化します。過去10年を考えてみても、いくつかのショックがシステムに打撃を与えました。アジア通貨危機が一例です。また、日本においては、80年代から90年代の間に、市場の経済に対する反応が変化しました。米国では生産性が大幅に上昇しました。ですから、プロセスもこれらの変化を解釈できる柔軟性が必要です。
米国の場合は、生産性が重要な指標であるということですね。
生産性は常に重要な要素ですが、重要性が過去6、7年の間に更に増したということです。
日本市場において注目している要因はどういうものですか。
日本では流動性が非常に重要な指標です。これは、短期金利により測ります。歴史的に、株式市場が割安であり、流動性が大幅に上昇した場合は、日本市場にとっては良い時期です。これは短期的なダイナミクスです。長期的なバリュエーションとしては、ブックバリューがとても重要です。
誰がどの指標に注目すべきかを決定するのですか。
チーム全体の決定です。調査グループは年2回大規模な会議を実施します。最近の会議は2週間前にフランクフルトで開催されました。各モデルの責任者が状況をレビューします。モデルの認識した変化については、調査グループの同意が必要です。同意された結果が、ファンドマネージャーに説明されます。当社のプロセスは、クオンツ分析だけで行われているわけではありません。また、ファンダメンタルズ分析だけで行われているのでもありません。両者のコンビネーションなのです。ファクターや情報が意味をなすものであることが大切です。そうでなければ、ファンドマネージャーは自信を持って、その結果を利用することが出来ません。コラボレーションなのです。
グローバル株式ファンドの運用においては、欧州に重点を置き始めていると伺っていますが、これは、最近になってバリュエーションとダイナミクスが変化したためですか。
欧州へのシフトは、欧州の見通しが明るいと判断したためです。欧州の見通しについて、市場が考えているよりも明るいと当社は考えています。当社が欧州において投資しているグロース企業の業績成長の予測は20%です。
一年間で?
そうです。欧州のバリュエーションも好調です。ダイナミクスも好調です。更に、世界的に、金利は現状水準に維持されると考えています。米国の場合、たとえ利上げが実施されたとしても25ベーシス・ポイント程度だと考えています。つまり、当社は、金利はピークを付けつつあると考えているのです。
そういう環境の中で、欧州のグロース株は堅調に推移すると考えているのですね。
そうです。大陸ヨーロッパの企業の株価収益率は15から16%になると予測しています。グロース株の株価収益率はそれ以上に高いものとなると考えています。
これは、バリュエーションの変化ですか、ダイナミクスの変化ですか。
ダイナミクスの改善です。バリュエーションには変化は見られず安定しており、一方でダイナミクスが改善したのです。
それで大陸ヨーロッパの投資配分を増やしたのですね。
そうです。欧州の長期的価値という点では、欧州の株式市場が割高でないこと、企業の業績成長が堅調である、キャッシュフローが堅調であるということです。業績と金利の短期的予測では、欧州にとってとても好調なのです。これらはプロセスであり、我々はこれらの結果を検証し判断を行うのです。結果を検証することがとても大事なのです。我々は、欧州で行われている企業のリストラと税制改革は、本当の変化の始まりだと考えています。ユーロの導入により、企業は最適なビジネス展開を進めることを要求されています。これらの条件が全て欧州株式の見通しの明るさを示唆しています。
いつ頃から、このような変化を認識し始めたのですか。
今年に入ってからですが、最近になり、それらの要因の重要度が増し始めたのです。数年前までは欧州の株式を考える時は、国別に考えました。しかし、今では、ユーロ圏として考えるわけです。ユーロ圏の方が、国別で見ていた頃よりもずっと興味深いものです。理由の一つは、インテグレーションが実際に始まったからです。特に、新しいグロースアイデアが目立ち始めました。当社は「将来の成長企業」と呼ぶ企業に投資しますが、現時点では、欧州において、「将来の成長企業」が他のどの国や地域よりも多く存在しています。これは、トップダウンの結果がボトムアップにより確認された例でもあります。
私のような素人には、「将来の成長企業」は米国に最も多く存在しているように考えてしまいますが、そうではないのですか。
一般には、ほとんどの人がそう考えます。このファンドの顧客のために提供できると考えている価値というのは、当社が、これらの企業を見出すことにおいてとても経験豊富であるということです。多くの人が考えている以上に興味深い企業が欧州には存在しているのです。
それらの企業はITセクターの企業ですか?
多くの企業がITセクターの企業です。ファンドはIT株をオーバーウェイトとしていますが、その多くが大陸ヨーロッパの企業です。いくつかの例をお話しながら、当ファンドの大陸ヨーロッパの戦略を説明しましょう。
お聞かせ下さい。
大陸ヨーロッパ企業を見る場合には、企業のライフサイクルという観点で考えます。その中で、「将来の成長企業」、「成長が実証された企業」、そして新製品、新技術、新経営方針などにより再び成長が始まった企業、つまり「再起企業」に投資しています。
具体的な銘柄名を挙げていただけますか。
「将来の成長企業」というのは、企業が設立されてから間もない企業であり、産業そのものの歴史が浅いケースが多くあります。しかし、ビジネスモデルが優れており、既に数年にわたり高い利益を出している企業です。何よりも重要なのは企業の業績、そして展開している市場において、将来的な成長の可能性が高い企業です。クデルスキー・グループがそのような将来企業の代表的な例です。
聞いたことのない社名ですが、どこの国の会社ですか。
スイスの企業です。衛星とケーブルテレビのデジタル放送用のセット・アップ・ボックスが主力製品です。配信システムがどのようなものでも、利用可能な技術です。ハイディフィニションテレビ、インターネット、映画やスポーツなどの有料放送などに使われています。同社は、大陸ヨーロッパにおけるデジタル放送用のセット・アップ・ボックスにおいて優位にあります。米国市場に参入しましたが、米国においても好調な業績を達成できると考えています。クデルスキー・グループの子会社であるナグラビジョンが、クデルスキーのグループ収益の90%を占めていますが、同社は長期的に成長すると考えています。ナグラビジョンは通信用の新しいアプリケーションを導入しようとしており、それにより、今後数年の収益は大幅に上昇するでしょう。つまり、同社は高収益の期待できるビジネスモデルを有しているということです。
この会社は既に利益を出していることですか。
そうです。
将来が期待できる企業というと、米国のアマゾン.・ドット・コムのように、将来は期待できても、現時点で大きく赤字を出している企業には投資しないのですか。
当ファンドでは、投資利益率が加重平均資本コストを2年連続して上回っている企業に投資することを基本としていますので、利益が出ている会社ということになります。当社では、スペシャリストファンドとして、アマゾンなどのような新興企業に投資するファンドもありますが、このGTグローバル インベストメント・オープンでは、それよりもう少し成熟した企業に投資します。
「成長が実証された企業」とはどんな企業ですか。
代表的な例はエリクソンです。エリクソンは携帯電話などで知られている会社ですが、当社はエリクソンの電話機ビジネスにはそれほど重点を置いて見ていません。当社がエリクソンに注目しているのは、通信・電話機器メーカーとしての可能性です。
電話機でなくて、通信・電話機器というと?
通信会社がネットワークなどの通信インフラ整備のために購入する機器です。エリクソンは世界中の移動体通信機器市場の約3分の1のシェアを有しています。第3世代通信のWCDMAのインフラ整備が今後大陸ヨーロッパで進むことになりますが、エリクソンはこの契約の50%を獲得しています。最近も、ボタフォンの英国事業から約20億ポンド規模の契約を獲得しました。更に第3世代通信ネットワークが拡充すれば、エリクソンのシェアは拡大すると考えられます。通信サービスは今後も拡大することが期待されることから、エリクソンの業績も拡大することになるでしょう。
では、逆に第3世代通信事業が失敗すれば、エリクソンの業績も急落するということにはなりませんか。
第3世代通信が失敗するとは考えていません。通信サービス、移動体通信サービスへの需要は堅調です。ただ、通信会社は政府から免許を取得するため、そしてインフラを整備するために巨額の資金が必要となりました。同時に、移動体通信サービスの料金は大幅に下落しています。巨額投資と価格低下により、通信サービス会社の業績は圧迫されつつあると考えています。一方で、これらの通信サービス会社に機器を提供する企業は業績を大幅に伸ばせると考えています。米国のゴールドラッシュの時に、結局利益を得たのは、金鉱を発掘する人たちにシャベルなどの道具を販売した業者であると言われていますが、今回もそれと同様になると考えているのです。
「再起企業」というのはどのような会社ですか。
フィリップスを例に説明しましょう。フィリップスは世界第8位の家庭用電子製品のメーカーですが、長い期間事業の停滞が続いてきました。同社の価値は半導体部門だけが生み出していました。しかし、経営陣は同社を変容させつつあります。医療用画像技術やディスプレイなどより付加価値の高い製品に注力しています。そして、企業を6つの部門、200の生産拠点に再編し、競合他社とベンチマークすることで利益率の改善に努めています。新しい経営陣、新しい経営戦略、再編により、同社はより利益率の高い企業に変貌を遂げているのです。
実際にフィリップスの業績は改善している兆候があるのですか。
ええ、あります。
これが投資プロセスの2つ目のステップである銘柄選択の方法ですね。
そうです。
すべての投資対象企業をこの将来の成長、実証、再起の3つのカテゴリーに分類するのですか。
様々な定量分析のプログラムを利用して対象を絞り込んだ上で、企業をカテゴリー分けします。しかし、当社の欧州チームは規模が大きく、欧州チームは定期的に企業訪問を実施して銘柄発掘を行っています。彼らの調査活動がこのプロセスを支えています。
定量分析とファンダメンタルズ分析の組み合わせにより銘柄選択が行われるのですね。
最も重要なのはファンダメンタルズ分析です。
今のプロセスは欧州の場合だということですが、他の地域の投資プロセスには応用されないのですか。
これは英国と大陸ヨーロッパ企業を対象としたプロセスです。世界中の投資プロセスにおいて共通なのは、グロース企業を見出すということです。グロース企業というのは、現在株価指数に採用されている銘柄ではなく、将来、来年、あるいは数年後に指数に採用される銘柄を認識するということです。つまり、明日の成長企業を見出すのです。
では、どうして同じ投資プロセスを世界中で採用しないのですか。
グローバル化が進んでいますが、地域別の特徴は存在しています。当ファンドは、そこからも付加価値を見出そうとしているのです。世界的に共通なグローバル・テーマというものも時により存在しています。しかし、当社が希望しているのは、各地域や国においてこれまでで実証されてきた手法を用いるということです。求めている企業は世界共通ですが、どのようにそれらの企業を見出すかは、地域別特徴を利用することにより、多少地域ごとに異なるということです。
では、日本企業を見る場合には、先ほどの企業のライフサイクルに重点は置かないということですね。
全てのアナリストがファンダメンタルズ分析において、企業のライフサイクルをチェックします。
わかりました。
米国と欧州の違いの例としては、米国においては情報開示が進んでいるため、欧州より多くの各種データが揃っていることが挙げられます。新聞などのメディアにおいても企業情報が豊富に提供されています。過去の情報と精密なクオンツ分析を投資プロセスに併用することが可能です。更に、米国の新興企業については、広く認識されており、多くの情報が揃っています。ですから、セクターアナリストを置くことができます。また、米国には長い歴史のあるコングロマリットがそれほど多くなく、セクターに特化した企業が多いのです。ですから、セクターアナリストが、各セクターの専門家であり、そのセクターのほとんどの企業をカバーし、ランキングすることが可能であり、その中から秀でた企業を見出すことができるのです。
日本の場合はどうですか。
日本の場合は、どちらかというと大陸ヨーロッパの企業に対するアプローチと似ています。投資対象となる企業はそれほど多くはありません。
そうですか。
企業のライフサイクルでいうと、多くの企業が成熟企業に該当し、成長企業はあまり多くはないのです。ですから、他のタイプの企業を見出す必要があります。恐らく、再起企業ということになります。経済は回復しつつありますが、かなり遅いスピードでしかありません。しかも、回復しつつある企業は限られています。
そこが欧州とも異なる点なのですね。
欧州では、多くの将来成長、実証、再起企業を見出しています。日本では、そのような企業を見出すのはとても困難な状況にあります。店頭市場や小型株の中に成長企業は存在していますが、好業績のトラックレコードを持った企業は少ないのです。
では、次にこのファンドのパフォーマンスについてお話をお伺いしたいと思います。8月30日で決算期が終わったところですが、この過去1年のパフォーマンスはどうでしたか。
過去1年のパフォーマンスは若干失望的なものでした。ファンドの基準価額は約4%上昇しましたが、ベンチマークであるMSCIワールド指数(円ヘッジベース)を下回りました。昨年の8月から今年3月くらいまでは、パフォーマンスはベンチマークと同程度でした。しかし、5月までの間にファンドのパフォーマンスは悪化しました。
どのような要因によりますか。
日本の組入れの低調によるものでした。当ファンドは日本の組入れをオーバーウェイトとしていました。当社は、ニュージャパンと呼ばれる銘柄の成長を期待していました。しかし、株価が大幅に下落し始め、それによりファンドは打撃を受けました。その後のパフォーマンスはベンチマークと同程度となりました。大陸ヨーロッパと米国の銘柄選択は好調でした。通貨については、若干マイナスの影響がありました。
ヘッジ比率はどの程度だったのですか。
70%から80%の間でした。
その他の地域についてはどうでしたか。
新興諸国市場の組入れも若干のマイナス要因となりました。しかし、パフォーマンスが悪化したのは数カ月に集中しており、しかもそれは日本においてのことでした。ですから、日本の投資家にとってみると、日本だけに投資するファンドよりも、グローバルファンドに投資することのメリットが出た時期であったと言えます。日本の株式が乱高下する時期にあっても、グローバル投資をすることで、他の地域の好調により損失を軽減することができるのです。しかし、インデックスをアンダーパフォームしたことは残念だったと考えています。
日本への投資がパフォーマンス悪化に繋がったということですが、それはアセットアロケーションによるものですか、それとも銘柄選択ですか。
両者です。当ファンドは日本をオーバーウェイトとしており、更に、銘柄選択においても苦戦しました。
日本への投資が上手くいかなかったにもかかわらず、ニュージャパンというシナリオは依然維持しているのですか。
ええ、そうです。
何故ですか。
一時的に日本の組入比率は引き下げましたが、当ファンドが保有している銘柄の株価が現在好調となっている理由は、国内の信頼感が回復した理由と同じであり、それが景気を回復させ、金利引上げに繋がっているということに、比較的確信を持っています。しかし、当社が失敗したのは、今年初めに株価が下落した時点で、組入比率を十分に早急に引き下げることができなかったということです。株式市場の地合が悪化し、当ファンドは約3カ月間苦戦が続きました。日本に注目したのは、個別銘柄に注目したのと同じ理由であり、それが間違っていたということです。
金利が引上げられましたが、それにより見通しは変化しましたか。
多少変化しました。金利の引き上げ幅は大きくはありませんでしたが、ゼロがゼロでなくなったというのは、大きな変化であると言えます。日本のマネーサプライの成長はずっとありませんでしたが、この金利引上げはマイナス要因です。
マイナス要因ですか。
金利上昇により長期的バリュエーションに影響がでるからです。株式については、今後6カ月で見ると、他の地域により投資妙味があると考えていますが、当社が考えているテーマは変わりません。
日本の組入銘柄で最大なものはどのような銘柄ですか。
富士通やソニーです。小型株については大幅に引き下げました。これらの銘柄については慎重に対応してゆきます。しかし、グロース株に注目していることには変わりはありません。また、国際的な競争力を持ち、成長の実現性の高い企業にも注目しています。
それはどんな銘柄ですか。
例えば、薬品の武田製薬、富士通、ソニー、TDK、キャノンなのです。また、ビジネスモデルの明確なアコムにも投資しています。NTTやNTTドコモも保有しています。この二社は現在でもインデックスの採用銘柄ですが、実際に成長しており、グロース株として捉えることができます。
小型株ではどのような企業を組入れていますか。
ファーストリテイリングやソフトバンクです。
小型株も依然として保有しているのですね。
確かに、株価が大幅に下落したのを受け、日本の組入れをかなり引き下げましたが、損失を取り戻せると確信しており、依然多くの銘柄を組入れています。日本の組入比率を引き下げたことで、損失を抱えているわけではないのです。失った分については取り戻すつもりです。
1年前と比較して、アセットアロケーションではどんな変更を実施しましたか。
1年前は大陸ヨーロッパをアンダーウェイトとしていましたが、現在、大陸ヨーロッパはオーバーウェイトとしています。米国のアンダーウェイトの比率を削減し、現在はより中立に近いものとなっています。英国の組入比率を引き下げました。1年前には新興諸国市場の組入れはありませんでしたが、現在は約3.5%組入れています。
アジアはどうですか。
1年前は多少組入れていましたが、現在はほとんど組入れていません。
為替のヘッジ比率はどうですか。
現在のヘッジ比率は約70%です。年間を通じて70%から80%を想定しています。
欧州中央銀行はユーロを支えるための介入を実施しましたが、これがファンドの戦略に与える影響はありますか。
特にありません。当ファンドは欧州についての為替ヘッジ比率を80%から70%に引き下げてあります。約1カ月半ほど前に変更を実施しました。
これまで御社は、ユーロは過小評価されていると指摘してきましたね。
ええ、そうです。今でもユーロは過小評価されています。しかし、ダイナミクスはそれほどユーロを支える状況にはなく、ユーロが直ぐに大幅に上昇するとは考えていません。徐々に回復してゆくとは思います。ただ、あまりに過小評価されたために、協調介入が実施されたわけです。この介入によりユーロはある程度安定するとは思います。当社が通貨をランク付けするならば、ユーロ、米国、そして円の順番になるでしょう。
しかし、ご指摘のように欧州にグロース企業が多く存在しており、経済も堅調に回復しているのであれば、どうしてユーロはこれほどまでに弱いのですか。
先ほど、あなたがおっしゃった通りなのです。あなたは、先ほど、欧州にそれほど多くのグロース企業があるとは知らなかった、とおっしゃいましたね。
ええ。グロース株、あるいはIT関連株というと、どうしても米国の新興企業というイメージがあるのです。
多くの投資家が欧州にそれほどの投資機会があるとは考えていないのです。
しかし、わたくしは運用のプロではありません。プロであれば、そういうことはわかるのではないのですか。
欧州は米国の資産を購入することに一生懸命でした。分散を望み、キャッシュフローがありました。ユーロ下落の要因の一つは、欧州が成長を確信しており、そのため米国の企業を買収し、ポートフォリオにおいても米国資産を購入してきたからです。しかし、当社は、欧州において成長の期待できる企業については、まだ市場に織り込まれていないと考えています。通貨市場はまだ欧州のリストラが投資収益を生むとは考えていません。もし、これが実現すれば、欧州に資金が戻ることになります。これが6カ月後か2年後かはわかりません。投資サイクルのタイミングを予測することは難しいです。ユーロは購買者物価指数ベースで見ても安く置かれています。
欧州中央銀行は今後も積極的にユーロを支えてゆくとお考えですか。
ユーロは過小評価されていると考えています。欧州はリストラと改革に積極的に取り組んできました。しかし、フランスやドイツの税制改革は時間がかかるものであり、通貨市場がこれに確信を持つようになるまでには時間がかかるでしょう。ドイツ中銀がそうであったように、欧州中銀は安定した強い通貨を維持することにコミットしています。米国、日本、欧州のどの中央銀行も通貨が乱高下することは望んでいないと思います。
協調介入は続くと?
そうとは言えません。過去10年に見られた協調介入、つまり、ある通貨を特定のレベルに持ってゆくような介入はないでしょう。米国は依然として、強いドルは米国の関心事であると言っています。しかし、このファンドの投資家にとって、基準価額はかなり安定したものとなっています。欧州の株式比率を引き下げるということがファンドにとって必ずしも良いとは言えません。ですから、当ファンドにおいては為替のヘッジ比率のシフトで対応しているわけです。
米国からの資金シフトの兆候は見られていますか。
いいえ、まだその兆しはありません。欧州企業には投資するキャッシュが未だ潤沢にあります。これは企業だけではなく、個人投資家レベルでも同様です。
最後に、日本の投資家に何かメッセージはありますか。
現在は、グローバル株式に投資するよい機会であると考えています。特に、欧州には投資妙味があります。欧州では、インフレは抑えられており、企業収益は堅調です。今後は、ユーロの回復からも恩恵を受けることが可能であると考えています。また、リスク管理という観点からも、このファンドのようなグローバルファンドを利用して世界中に分散投資することは重要であると思います。グローバル規模で起こっているトレンドを捉えるためには、世界的な分散投資が効果的であるのです。
どうもありがとうございました。
【本を読もう!】



