インタビュー

 

今回は「ピムコ・トータル・リターン・ファンド」について、現在米国の本社でアカウント・マネージャーのスコット・ロウニーさんにお話を伺いました。

 

「ピムコ・トータル・リターン・ファンド(以下TRF)」は、米国籍のオープン・エンド契約型外国投資信託(米ドル建て)。債券の神様と言われるビル・グロースが運用している全米最大の債券ファンドです。日本での販売会社は、日興コーディアル証券。インタビューは10月23日に実施(記事中の数字は2002年9月30日現在のもの)。

 

ピムコのホームページ http://www.pimco.com/


 

まず、ピムコ(PIMCO:Pacific Investment Management Company LLC)社について紹介してください。  

もともとはアメリカ西海岸にあるパシフィック生命保険の債券運用部門を独立させてできた会社です。創業者三人で独立したのですが、そのうちの一人がTRFの運用者でもあるウイリアム(ビル)・H・グロース。その後、株式を公開したこともありますが、現時点では、ドイツにあるアリアンツ保険が株式の約7割を保有しています。大きな意味ではアリアンツグループの一員で、債券の運用部門については完全にピムコに移しているのですが、運用については一切アリアンツの影響を受けず、ピムコ独自の方針で行っています。  

 

債券専門の運用会社なのですね。  

そうです。債券の世界では自他ともにNO1と認めています。その1つの例として、米国年金基金から資産の委託を受けている運用会社の中で、米国債券のアクティブ運用額では2位以下を圧倒的に引き離し1位となっています。  

 

他の債券専門運用会社に比べての特徴は何ですか。  

債券に特化している運用会社としては、他にブラックロック、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレーなどが「ビッグ7」と呼ばれていて、特にピムコとブラックロックが双璧です。ピムコでは約500名と少ない人数で3017億ドル(約37兆円)を運用しています。これは、当社が効率性と収益性を大変重視していること、つまりIT(インフォメーションテクノロジー)などのシステムを積極的に取り入れることによって、運用を少しでも効率的にしようとしていることの表れです。  

 

そのピムコの旗艦ファンドが、TRFなのですね。

はい。1987年に設定され、9月末現在、株式ファンドも含めて全米最大のミューチュアル・ファンドとなっています。運用は、「債券運用の神様」と呼ばれているビル・グロースが担当しています。彼は1996年に米国債券運用アナリスト協会の「名誉の殿堂」入りを果たし、1998年と2000年にはモーニングスター社の年間優秀ファンドマネージャー賞を受賞しています。

 

日本の投資家向けの目論見書では設定日は1994年9月7日となっていますが、これは、TRFの日本での販売が開始されたのがこの日であるという考えでよろしいでしょうか。  

1994年9月7日は日本で販売されているTRFのアドミニストレイティブ・クラスの設定日です。日本での販売は日興コーディアル証券にて、98年7月より行われています。  

 

では、ファンド名にもなっている「トータル・リターン」と言うのは、どういう考え方なのですか。  

債券を保有することによって得られるインカムゲイン(金利収入)だけでなく、債券価格の上昇によって得られるキャピタル・ゲインも含めてトータルなリターンを目指そうというコンセプトです。債券というのは株式に比べてマイナーなイメージで、バイ・アンド・ホールド(購入して持ち続ける)でクーポン(利息)をとっていくという考え方が主流でした。でも実際には金利が低下すれば債券の価格は上がり、売買益を得ることもできるので、債券でも両方の収益をとるような運用をしていこうということです。こうしたトータルリターンの考え方は、ピムコ社全体の運用方針にもなっています。

債券投資では、どうしてもクーポンの高さに目が奪われがちですよね。  

そうですね。でも、ハイ・イールドとかエマージングなどのクーポンは高いですが、それにはそれなりの理由があり、元本がどんどん下がって実質的に資産を食いつぶしているという可能性もあるわけです。インカムゲインとキャピタルゲインの両方が債券投資のリターンの形態なので、必ずしも片方だけに偏ってはいけませんよというのが「トータル・リターン」の考え方です。今、毎月分配のファンドが流行ですが、必ずしも経済的には正しいことではないですよね。自分が投資したものがどんどん返ってきますが、それだけ運用の額は小さくなってしまうのであれば、本来の主旨に沿ったものとは言えないわけです。  

 

毎月分配のファンドは必ずしも経済的に正しくないということですが、TRFも毎月分配しているわけですよね。  

はい。TRFでは、毎月の分配はあくまでもインカムゲインを原資としており、年1回年次分配金という形で実現したネットのキャピタルゲインを原資とした分配を実施しています。毎月分配することを目的としてクーポンの高いものを買うようなことはしていません。ピムコの場合は、あくまでトータル・リターンを目指して、結果的にインカム部分を自然体で払うということをやっているのです。  

 

投資対象はどのようなものですか。  

ありとあらゆる債券に投資していると言っていいでしょう。銘柄数としても7〜8000あります。具体的にはアメリカの国債や政府保証債、社債、モーゲージ債、アセットバック証券、外国債、エマージング債など・・、デリバティブも含めて考えられない債券はないくらいです。

 

基本的にはアメリカの債券が対象なのですか?  

そうです。ドル建て以外の資産への投資は、通常20%以内の範囲で行うことになっています。ただ、現在は異例の状態で、ドルよりユーロの金利の方がかなり高いので、欧州債の割合がずいぶん高くなっています。  

 

運用の特徴はどうなっていますか。  

トップダウンとボトムアップを融合させた投資戦略を持っているのが特徴です。投資プロセスとしては、大きなマクロの見方は全社的に会議をして決めています。具体的には、年に1回、5月に長期展望フォーラムを開き、170人くらいの投資プロフェッショナルが世界経済の見方を議論します。  

 

長期というのは何年くらいの期間ですか?  

3〜5年くらいです。マーケット毎に、アメリカ、ヨーロッパ、日本、エマージングの4チームに分かれて、経済のファンダメンタルなどを分析し、ディスカッションを行います。この5月のフォーラムでは、90年代は世界経済全体として金利は低下し、デフレの方向に進んできたが、今後長期的には金利は少しずつ上昇していくトレンドだという結論を出しました。また四半期ごとの経済フォーラムでは、直近のデータをもとに、インフレやGDPに関する短期予測、景気周期の局面、長期予測の微調整など、向こう6〜9ヶ月の展望も行っています。こうしたフォーラムの結果をもとに、債券運用についてどういうことに気をつけていかなければならないかということを決めるわけです。  

 

具体的な債券運用のテーマとしては、どのようなものがあるのですか?  

まず、金利動向とボラティリティ(債券価格・金利の変動具合)ですね。たとえば長期的に金利は上昇していくと考えている場合、デュレーション(金利に対する感応度:平均残存期間)はあまり長くとってはダメですよね。また国債がいいのか、モーゲージ債がいいのかというセクター配分や、アメリカ企業全体の業績を見るマクロの信用分析などについて方向性を出します。さらに社債の中でのセクターとしては、テレコミュニケーションやパイプライン(天然ガス)がいいとか・・。その結果を受けて、インベストメントコミッティーという最高決定機関でモデルポートフォリオが決定されます。   

 

これにボトムアップの戦略が加わるわけですね。  

そうです。個別銘柄の信用分析や定量分析、受給関係などを分析して、個別のポートフォリオマネージャー具体的な銘柄選択を行うことになります。

 

多角的な側面からリターンを追及しようとしているということですね。  

債券の運用法としては、たとえば為替の動向に賭ける、あるいは金利の動向に賭けるといった一つか二つの側面に重点を置くというのが一般的です。これに対して我々のやり方は、たとえば「デュレーションは長め」といっても、それはたくさんある要素の一つに過ぎません。特定の戦略に偏ることなく、多様な超過収益の源泉を追求することが、このファンドの投資哲学です。   

 

運用の手法、投資対象とする債券の種類など様々な意味で「トータル」なのですね。  

ええ、このファンドのコンセプトを一番短く言えば、債券の運用に関して、ありとあらゆる可能性が考えられているということですね。「戦略の分散」というのは、とても大切だと考えています。  

 

ベンチマークは何ですか?  

正確にはベンチマークは設定されていませんが、参考指標としてアメリカの債券市場の総合指標である「リーマン・ブラザーズ・アグリゲート・ボンド・インデックス」を参考としています。   

 

現在、その参考指標と比べてファンドの構成はどのようになっていますか?  

デュレーションについては、参考指標が3.8年なのに対して、TRFは4.2年と若干長め。つまり9月末の時点で、金利は全体的にまだ下がると見ているわけです。平均格付けは「AAA」。投資割合の多い米国国債および政府保証債、モーゲージ債はほとんどAAAですし、外国債もほとんどヨーロッパのソブリンです。   

 

一般に、債券型のファンドでは組入債券の平均格付を、例えば、「A格以上とします」とか決めているファンドが多くありますが、TRFは結果的に平均格付がAAAであるということですか、それとも、AAAを基本としているわけですか。  

結果的にAAAとなっています。投資制限上は特に決まっていませんが、当ファンドの平均格付は設定以来ほぼAA格以上を保っています。

 

セクター別の配分をもう少し詳しく教えてください。  

現在はモーゲージ債と外国債の割合が参考指標より高く、国債/政府保証債と社債は低くなっています。モーゲージ債は全体の4割を超えていますが、これは格付けが高い上に、歴史的に見て国債よりも利回りが良いためです。モーゲージ債には借換えのリスクがありますが、金利の変動があまり大きくない時には有利だと考えています。米ドル建て以外の債券については、世界的に金利は低下傾向なのですが、ユーロ建ての方が5年もので1%以上高いので、現在は例外的に20%を超えています。  

 

社債が大きくアンダーウエイトしているのは、何故ですか。  

もともと当社では社債を少なめに持つ傾向があるのです。社債はリターンの大きさに比べて、マイナスリスクが高いと考えられます。特に今はエンロンやワールドコムなどの例もあり、何が起こるかわからない時ですから。  

 

満期別の投資比率はどうなっていますか。  

インデックスは5年未満が大半なのに対して、TRFでは10〜20年の比率が高くなっています。これは期間が長いものの方が金利が下がると見ているからです。  

 

先ほど格付けの話がでましたが、債券専門の運用会社でも、格付け機関の格付けを利用するのですか。  

私たちは独自の格付けを行っています。ただ、ムーディーズやS&Pなどの格付けについては、これを参考にしている人が多いためにマーケットに大きな影響を与えますから、注目はしています。  

 

全米最大の債券ファンドということですが、現在の純資産総額はどのくらいですか。  

9月末現在の純資産で646億ドルです。この時点で、フィディリティのマゼランファンドやバンガードのインデックスファンドを抜いて、株式ファンドも含めて全米最大になっています。アメリカの株式が低迷していることから、401Kなどで株式から債券のファンドに乗り換える人が多いことで急増しているのでしょう。また、日本においてもご好評をいただいており、9月末現在で約22億ドル(約2,650億円)の残高となっております。

 

債券ファンドの運用にとって、大きいということは良いことばかりなのでしょうか。  

懸念されているのは流動性の問題だと思いますが、アメリカは裾野が広いので、債券の残高からいうと、これでもまだ割合は小さいのです。だから売りたくても売れないというような流動性の問題は全くありません。  

 

大きなファンドならではというメリットではどういうことがあげられますか。  

極端なリスクをとらずに、ありとあらゆる債券に投資できるのも、ファンドが大きいからこそです。また当社は組織的にも大きいということで、いろいろなスペシャリストが様々な戦略を持ち込めます。ポートフォリオのチームには60人くらいいるのですが、債券全体のマーケットを見るジェネラリストが6〜7人、それ以外はスペシャリストで、債券のセクターごとに13のチームに分かれて、自分たちのセクションで絶えず動きを見ているので、様々なアイディアが生まれるのです。  

 

運用実績はどうなっていますか?  

今年9月30日を基準に、87年の設定来(平均年間騰落率)ではベンチマーク8.16%に対して、8.53%(外貨ベース。課税前、運用報酬控除後)となっています。  

 

設定来で見て、ベンチマークをオーバーパフォームした最大の要因は何だったのですか。  

上記の通り、弊社の様々な運用戦略の成果であり、要因は期間ごとに変わります。強調させて頂きたいのは、少数の特定の要因が大きかったわけではなく、多くの要因が少しずつパフォーマンスのアップに貢献しているということです。  

 

エマージングのマイナス効果というのは?  

ブラジルですね。過去は20%後半の利回りをあげていましたが、ブラジルの大統領選挙で野党が勝ちそうだということで、市場の効率化が遅れるのではないかという懸念から、ブラジルの債券が売られて苦戦しています。  

 

手数料はどうなっていますか。  

申し訳ありませんが、販売会社にてご確認ください。  

 

日本でTRFに投資する場合は、為替リスクが避けられません。個人の投資家が外国籍のファンドを買う時には、どういう位置付けで買えばいいのでしょうか。  

ありきたりなようですが、資産、通貨の分散ですね。基本的には為替が変わらなければ、ドルの方が円よりも金利は高いわけですから、その分高いリターンが得られます。10月末に同じコンセプトでユーロのTRFも出ましたので、円、ドル、ユーロと分散して持っていただくとよいのではないでしょうか。  

 

ありがとうございました。


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