5. なぜ11月29日まで持ちつづけていたか?
次の表は、ある証券会社によるエンロン社債の時価推移データです。

おそらく、MMFでエンロン社債に投資していた運用会社各社は、エンロン社債を償却原価法によりほぼ100円に近い価格で評価していましたが、28日に、一日で価格が大きく下落したことを受け、時価評価することを決意したのだと思われます。つまり、実際に基準価額が10,000円を割れたのは主として11月29日であり、これは前日の11月28日中に、運用会社が債券の評価を時価に変更する、という意志決定を行なったことを示唆していますが、日本時間で28日の夜、つまり各社の決定直後に、エンロンの会社更生法適用申請が事実上決定的になりました。その結果、エンロン破綻決定'MMFなどの10,000円割れという流れに見えますが、実際には破綻が決定的になる一日前にMMFは10,000円割れが決定していたのだと思われます。
注意すべきことは、少なくとも11月の早い時期に、MMFがエンロンの債券を売却していたとしても、10,000円割れは発生していた、ということです。MMFの利回りは現在年率でも0.1%〜0.2%程度であり、一日当たりの収益率は0.00027%〜0.00050%程度です。債券の取引にも取引コストがかかりますから、これは、買った債券を売却しただけで、MMFは10,000円割れを起こすことになります。日本の債券投資信託は、主として税制の欠陥のために、基準価額が10,000円を下回ると追加設定ができません。追加設定が出来なければ運用会社や販売会社、さらには受益者にとっても商品の魅力が大きく減退してしまいます。こうした事態を避けなければならないとすれば、現在のMMFは一度買った債券は決して売却できない、ということになります。投資信託会社各社がエンロン社債を保有しつづけていた動機の1つはこれだろうと思われます。すなわち、10,000円割れを起こすことを避けるために、ほんの少しでもエンロンが立ち直る可能性があるならば、それに賭けるほうが、運用会社にとって良い選択になりますし、また投資家がMMFの基準価額が10,000円かそれとも10,000円未満か、ということだけを気にするならば、これは投資家にとっても良い選択であったことになります。
しかし、投資をこのように考える人は、恐らく稀でしょう。損をするかどうか、だけではなく、どれだけ損をするのか、という点も本来重要なはずです。この考え方から言えば、10,000円割れ自体はもっと早くに発生しても、損失額はさほど大きくない11月の早い時期に売却を行なっていたほうが、よい選択であったかもしれません。むろん、運用会社の中には、エンロンが立ち直るだろうという相場観を持っていた会社もあったかもしれません。事実、エンロンは同業他社のダイナジーと合併を決めていました。合併が行なわれていれば、エンロンは立ち直り、債券の会社更生法申請もなかったと思われます。他方、MMFではありませんが、エンロンの先行きが懸念され始めた初期に、債券を売却できたファンドもあったようです。これらは、もともと10,000円という基準価額をMMFほど強く意識する必要のない外債ファンドか、または債券簿価評価時代の遺産すなわち含み益がまだ残っていて、それで売却損を償却できたファンドであったと思われます。
→補填?