3.リスク許容度に影響を与える要因
次に、1.で説明したリスク許容度はどんな要因にどのような影響を受けるかについて説明します。
a) 将来の支払い
将来必ず支払わなければならない負債が大きい場合、その支払いに当てるための資産が大きく目減りする可能性のある運用はできません。また、ローンのような、実際の負債でなくとも、お子さんの学費や老後の生活費のような、「将来、ほぼ必ず必要になるお金」も、将来、必ずそれだけのお金を支払えなければならないという意味では負債と同じような役割をします。こうした広い意味での「負債」と現在の資産を比較して、資産が十分に大きければ、資産のある程度の目減りしても大丈夫でしょうし、逆に資産の方が小さければ今後の生活を控えめにしたり、収入を増やすことを検討してみたりして上で、現在の資産があまり目減りするようなことのない運用を考えなければなりません。つまり、将来の支払いが現在の資産に比べて大きいほど、リスク許容度は小さくなると言えます。
b) 他の資産や収入
a)では運用資産と「広い意味での負債」つまり将来必ず満たさなければならない支払いを比べましたが、多くの人は、運用資産だけで暮らしているわけではありません。働いておられる人はその収入を少なくともある程度は当てにできますし、また住宅や「お宝」など、運用資産以外の資産を持っておられる人も多いはずです。これらも、最悪の場合、売却してそのお金を支払いに当てることができます。つまり、収入や、他の資産が大きければ大きいほど、運用資産で取れるリスクの大きさ、つまりリスク許容度は大きくなります。
c) 知識
知識があっても明日の相場を当てることは非常に難しいですが、少なくとも不確かさを少しだけ減らすことはできます。例えば、株式は所詮ギャンブルだ(そうではない、と言いきることはできないかもしれませんが…)と考えている人ならば、1000万円株式に投資して、10年後に1000万円を下回っている確率と上回っている確率は、五分五分だ、と考えるかもしれません。しかし、前述のリスクリターントレードオフという考え方を知っている人は、株式にはリスクがあってもそれに見合うだけの期待リターンがあり、10年後に利益が出ている確率は損失が出ている確率よりも大きい、と知っています。また、投資信託の仕組みや運用のされ方を知っていれば、より自分に合った投資信託を選ぶことも可能でしょう。こうした金融の知識に限らず、経済や政治や、場合によっては自然科学(例えば生物学を知っている人ならばバイオテクノロジーへの投資は勝手知ったる自分の庭かもしれません)や文学(グリンスパン議長の発言を読み解くには文学の素養が必要ではないかと思います)でも、投資を考えるときに役に立つことがあります。これらは不確かな将来を考えるときの指針として役に立つでしょう。つまり、知識があれば人は、(他の人から見れば)より思いきった行動が取り易くなり、リスク許容度は高くなります。
d) 純粋な好み
純粋に好みの問題は、依然として残ります。他の条件がすべて同じでも、より手堅い戦略を取りがちな人と、より大胆な戦略を取りがちなひとがいることは、全く不思議ではありませんし、またどちらが良いとか偉いとかいうものでもありません。好みは好みなのです。林檎とヒカルのどちらが好きか、と聞けば双方に言い分があり、それぞれ自分の趣味の方が良いと、それぞれの側が考えるでしょうが、客観的に見れば、人それぞれ、ということになります。
e) 補足: 影響があるかないかよく分からない要因 = 投資期間
よく、投資期間が長ければリスクが小さくなる、あるいは長期投資をするならリスキーな投資をしても大丈夫だ、さらに長い目で見ることができるならば、リスク許容度は高くなる、といった説明をみることがありますが、これは間違いです。たいてい、こうした考え方には、「株式のようなリスキーな投資は、短期的には上下があるけれども、長い目で見れば儲かるものだ」という説明がされていますが、リスクリターントレードオフを考えると、リスキーな投資をした場合には単に儲かるだけでなく、よりたくさん儲からなければ割が合っていないことが分かります。これを考慮すると、長期投資をしたからといってリスクが低下したり、リスク許容度が高くなったりすることはありません。
しかし、「若い人はリスキーな投資をしても大丈夫だが、若くない人はあまりリスキーな投資はしないほうがいい」というのは、そのとおりかもしれないと思わせるものがあります。これは投資期間が問題なのではなく、将来の収入の問題ではないかと思います。若い人は、金融資産の運用がうまくいかずに、仮にそういう資産をすべて失い、借金を背負うことになったとしても、将来があります。必要ならたくさん働いて、借金を返したり、また金融資産を蓄積したりすることは可能です。一方、近く引退を考えている人は、定義によって働く期間はさほど長くなく、資産をすべて失ったとすると、生活の糧を失ったことになります。そして多くの場合、引退は若くなくなってからすることが多いようです。こうした、金融資産以外の事情が働いているのを、金融資産だけピックアップしてみると、投資期間が長い場合はリスキーな投資をしやすく、短い場合はリスキーな投資はしにくいように見えるのでしょう。上記のように、これは正しいとは言えません。
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