投資者保護とは?


iDeCoやNISAの普及により、投資はますます身近なものとなりました。投資者は投資手法や投資対象だけでなく、投資者保護についても知っておくことが大切です。日本の投資者保護は金融商品取引法を中心とした法的枠組みで確立されています。この法律は証券市場の透明性と公正性を確保し、投資家を保護することを目的としています。主な規定としては、開示制度、適合性原則、インサイダー取引の禁止、市場操作の禁止、利益相反の管理、そして分別管理があります。

また、金融庁による監督も行われていますし、金融業界団体が定める自主規制ルールも重要な役割を果たしています。投資信託協会や日本証券業協会などの団体は、情報提供、教育活動、自主規制の強化、市場の透明性確保などの取り組みを行っています。これらの活動を通じて、投資家が安心して市場に参加できる環境が整備されています。

さらに、金融取引に関する問題や不満を解決するための窓口も存在します。金融庁消費者庁、業界団体がその役割を果たしています。さらに、投資家保護基金も設けられており、顧客の保護に努めています。

では、これらを詳しく見てゆきましょう。

金融商品取引法の主要な規定

開示制度・・・発行者(投資信託の場合は、運用会社)は、有価証券届出書、有価証券報告書、臨時報告書などを提出することにより、財務状況や経営状況などの重要な情報を公開する義務があります。これにより、投資家が適切な情報に基づいた投資判断を行えるように支援します。

適合性原則・・・証券会社などの金融商品の販売会社は、顧客の財務状況、投資経験、投資目的などを考慮して、顧客に適した金融商品を推奨する義務があります。

インサイダー取引の禁止・・・インサイダー情報を利用した証券取引を禁止し、市場の公平性を保護します。

市場操作の禁止・・・株価やその他の金融商品の価格を不正に操作する行為を禁止し、市場の健全性を維持します。

利益相反の管理・・・証券会社は、顧客との間で生じる可能性のある利益相反を適切に管理し、顧客の利益を損なわないようにする義務があります。

分別管理・・・金融商品取引法における分別管理は、証券会社や金融機関が顧客から預かった資金や有価証券を、その会社の自己の資産とは別に管理することを義務付ける制度です。この制度の主な目的は、証券会社が経営破綻した場合でも、顧客の資産を保護し、迅速に顧客に返還することを可能にすることにあります。

その他の関連規制と取り組み

金融庁による監督

金融商品取引法に基づき、金融庁は金融市場の監督機関として、証券会社や金融商品取引所などの運営を監督しています。

顧客本位の業務運営に関する原則

金融庁は、金融機関に対して顧客の最善の利益を優先する文化の確立を促すため、「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、金融機関に対してその受け入れを呼びかけました。多くの金融機関がこの原則を受け入れ、この原則に従って、顧客の利益を最優先に考慮したサービスを提供することを宣言しています。

これらの法律や規制、原則は、日本の金融市場における投資家保護の枠組みを形成し、投資家が安心して市場に参加できる環境を提供することを目的としています。

業界ごとの取り組み

日本の投資者保護においては、金融商品取引法に基づく法的な規制の他に、金融業界団体が定める自主規制ルールも重要な役割を果たしています。これらの自主規制は、業界の健全な発展を促し、投資家保護を強化するために設けられています。主な業界団体とそのルールには以下のようなものがあります。

投資信託協会(The Investment Trusts Association, Japan; 略称:JITA)

投資信託協会は、投資信託および投資法人REITなど)の健全な発展を促進し、投資家保護を目的として設立された業界団体です。投資信託協会は、投資信託の適切な運用と販売、投資家に対する情報提供の向上、市場の透明性の確保などに取り組んでいます。ここでは、投資信託協会が行っている主な投資家保護の取り組みについて説明します。

 

情報提供の充実

  • 目論見書運用報告書の公開・・・投資信託の運用状況や成績に関する情報を定期的に公開し、投資家が投資判断を下す際の透明性を高めています。目論見書や運用報告書は投信総合検索ライブラリーで閲覧できます。
  • 販売会社による情報提供・・・投資信託を販売する金融機関に対して、投資家への適切な情報提供や説明責任を果たすことを求めています。これには、リスクや手数料などの重要事項の説明が含まれます。

教育活動

  • 投資教育・・・投資信託に関する基礎知識や金融リテラシーの向上を目指した教育プログラムを提供しています。これにより、投資家が自身の投資判断をより適切に行えるよう支援しています。
  • セミナーの開催・・・投資信託に関するセミナーや講演会を定期的に開催し、投資家が最新の市場情報や投資戦略について学べる機会を提供しています。

自主規制の強化

  • 自主規制ルールの策定・・・投資信託の運用や販売に関わる自主規制ルールを策定し、会員企業に対してこれを遵守することを求めています。これにより、業界全体の倫理基準を高め、投資家保護を強化しています。
  • 監視体制の構築・・・会員企業が自主規制ルールを遵守しているかどうかを監視し、違反があった場合には是正措置を求める体制を整えています。

市場の透明性の確保

  • 市場データの提供・・・投資信託に関する各種市場データを収集・分析し、これを公開することで、市場の透明性の確保に努めています。

投資信託協会は、これらの活動を通じて、投資家が安心して投資信託に投資できる環境の整備に努めています。投資家にとっては、協会の提供する情報やサービスを活用することで、より理解を深めることが可能です。

日本証券業協会(JSDA)

日本証券業協会は、証券会社が遵守すべき様々な自主規制ルールを定めています。これには、適切な証券取引の推進、公正かつ透明な市場の維持、投資家保護の強化などが含まれます。例えば、顧客への説明義務、適合性原則に基づく取引の適切性の確認、広告に関する基準、顧客情報の取扱いに関するルールなどが設けられています。

日本投資顧問業協会(JIAA)

日本投資顧問業協会は、投資顧問会社が遵守すべき自主規制ルールを定めています。これらのルールは、顧客の利益を最優先に考え、適切な投資助言や資産運用サービスの提供を目指しています。顧客との契約内容の明確化、運用報告の提供、利益相反の管理などが含まれます。

金融先物取引業協会(FFAJ)

金融先物取引業協会は、金融先物取引およびオプション取引に関わる業者が遵守すべき規則を定めています。市場の公正性と透明性の確保、投資家保護の強化を目的としており、取引の適正化、顧客への情報提供基準、取引紛争解決手続きなどが規定されています。

日本商品先物取引協会(JCFA)

日本商品先物取引協会は、商品先物取引に関連する業者に対する自主規制を行っています。この協会のルールは、公正かつ透明な取引の促進、投資家教育の推進、投資家保護のためのガイドライン提供などを含みます。

これらの自主規制ルールは、法律による規制を補完し、業界特有の問題やニーズに対応するために設計されています。業界団体は、ルールの策定だけでなく、会員企業への教育・啓発活動、監視・検査機能の実施、違反に対する制裁措置なども行っています。これにより、業界全体の倫理規範の向上と投資家保護の強化を図っています。

金融取引に関する苦情・相談窓口

金融取引に関する問題や不満を解決するための窓口も存在します。金融庁や消費者保護機関、業界団体がその役割を果たしています。金融取引に関する苦情や相談窓口は次のような機関やサービスがあります。これらの窓口は、消費者が遭遇する可能性のある金融サービスや製品に関する問題や不満を解決するためのサポートを提供しています。

  1. 国の金融監督機関

金融庁や金融監督局:各国の金融市場を監督する政府機関。金融商品やサービスに関する苦情の受付、情報提供、調査を行うことがあります。

  • 金融サービス利用者相談室・・・金融庁では、金融行政・金融サービスに関する一般的な質問・相談・意見を金融サービス利用者相談室で受け付けています。質問・相談の内容に応じて、相談員が電話にて対応する。ただし、あっせん・仲介・調停を行うことはできません。

  1. 消費者保護機関

消費者庁が所管する国民生活センターでは、消費者の権利を守り、金融を含む各種の消費者トラブルに関する相談や苦情の受付を行います。

  • 独立行政法人国民生活センター・・・国や全国の消費生活センターと連携して消費者行政の中核的な機関としての役割を担っています。全国の消費生活センターでは、商品やサービスなど消費生活全般に関する苦情や問い合わせなど、消費者からの相談を専門の相談員が受付けています。ただし、対象は金融商品に限定してはいません。また、国民生活センター紛争解決委員会では、重要消費者紛争(消費者と事業者との間で起こる紛争のうち、その解決が全国的に重要であるもの)について、和解の仲介や仲裁を行っています。

 

  1. 専門の仲裁・調停機関

金融仲裁機関:特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(フィンマック)は、株式、債券、投資信託、FXなどのトラブルについて、金融機関とその顧客との間の紛争を解決するために設立された独立した仲裁機関です。公平な立場から問題の調査や仲裁を行い、解決を図ります。相談は電話、ファックス、オンラインフォーム、郵送で可能です。

  1. 業界団体

銀行協会、証券業協会など:特定の金融セクターに属する業界団体が設置する苦情解決窓口。会員企業に対する苦情の受付と調整を行います。

銀行業界

  • 全国銀行協会相談室・・・銀行に関するさまざまなご相談やご照会、銀行に対する意見・苦情を受け付ける。
  • 全国銀行協会あっせん委員会・・・銀行との取引などにおけるトラブルを中立公正な第三者で構成する「あっせん委員会」が、「苦情処理手続および紛争解決手続等の実施に関する業務規程」にもとづき、当事者からの資料の提出やそれぞれの主張を聴取したうえで、あっせん案(和解案)を提示し、双方が納得したうえで、解決を図ります。

日本証券業協会

証券取引に関する意見や苦情などについて、取引店や各社のお客様相談窓口へ相談しても解決しない場合は、上記の特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(フィンマック)に相談します。

投資信託協会

投資信託協会の自主規制業務部会員監理調査室に相談するか、上記の特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(フィンマック)に相談します。

投資顧問業協会

投資一任業務、ファンド運用業務、投資助言・代理業務についての相談、苦情処理、紛争の解決については上記の特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(フィンマック)に相談します。

投資者保護基金

日本投資者保護基金は、万が一、何らかの事情で証券会社が破綻し、分別管理の義務に違反したことによって、投資家の資産の返還が円滑に行われない場合には、日本投資者保護基金が投資家一人当たり上限1,000万円まで補償を行います。なお、銀行などで購入した投資信託は日本投資者保護基金の補償対象にはなりません。

→投信Q&A:投資者保護基金とは?