相場のこころ(4)


次はミクロ的な意味についてです。パレートの法則(8割2割)は述べましたが、10の相場要因の中からそのうちの2つの要因を押さえことによって相場の8割が理解できるという話でした。予測をしていく時の大事なポイントとしてマーケット参加者が何を見ているかという視点が必要だと指摘しましたが、人が予測していることをどう予測していくかということを考えていくわけです。すなわちみんなが何を見ているのかということを見なくてはいけない。それがパレートの8割2割の法則に沿ったマーケットの考え方なのです。

もう一つ思考経済の法則について述べておきます。思考経済の法則というのは同じ現象を説明するのに違う矛盾する二つの理論があったら、マーケットは単純な方を選んでしまうというものです。こういうことを考える時、やはりミクロ的な意味での心理、こころの話を考えていかなければなりません。人は人の影響を受けて生きていくわけです。したがって他人がどうかということに大変左右されています。

ずいぶんと以前米国のテレビ番組で「ドッキリカメラ」が流行しました。たとえばエレベーターが開いた時、乗っている人たちが全員後ろ向きに、ドアにお尻を向けて立っていたら、乗りこむ人はどうするのでしょう。それをカメラで隠し撮りするという番組です。その人はどういうふうにエレベーターに乗り込むでしょうか。もうあきらかです。みんなの真似をして後ろ向きに乗るのです。人間にはあれっ?と思った時、人と違ったことをしないでおこうという心理が働くようです。似た話ですが、これも「ドッキリカメラ」です。ある医者に行くと、そこの待合室では全員ヌードになっているのです。それを見た患者さんはどうしたかというと、おもむろに服を脱ぎ始めたのです。人間は状況を判断しようとします。いろいろなことを考えるわけです。たとえば、きっとこの医者は患者をリラックスさせるためにこういうことをしているのだと。そして、自分も裸になってしまうのです。すなわち人間は他の人の真似をする動物だと言っても過言ではないのです。

心理学者が実験したアッシュの同調というものがあります。

まず3本の線が書かれているカードを見せます。その後、3本の線のうち同じ長さの1本の線が書かれているカードを見せて、最初に見せたカードの3本のうちで線の1番、2番、3番から同じものを選択してもらいます。これは間違うことがないくらい明らかに長さの違う線を見せるのですが、そして普通は間違えることはないのですが、その実験にサクラをいれ、明らかに正解は3番であるのに「いや3番ではない、2番である」とか「1番である」とかと言わせます。そうすると明らかに間違うはずのない答えを3割の人がはずしてしまうのです。3番だと思っていても周りの人が「いや3番ではない」と言い続けている中にいると、その被実験者は思わず答えを3番であると言えなくなってしまうのです。あるいは3番と答える場合でも冷や汗をかきながら、非常にどきどきしながら3番だと言わざるをえなくなってしまうのです。

こうした現象はマーケットの中にも存在します。ディーラーでも、朝、電車の中で今日はドルを買おう買おうと思いながら出勤すると、ミーティングでみんなが売りだというと混乱してしまうわけです。たとえば上司が売りだと言って実際にドルを売り始めると、部下はもうドルは買えず、自分の意思に反してドル売りから入ってしまいます。そういった相場の対処の仕方で成功するでしょうか?

人間はそれほど人の影響を受け得やすいのだということを知っておくべきでしょう。