不動産投資法人(J-REIT)が、すでに公表した業績予想や分配金予想を見直し、上方または下方に修正して投資家に開示することを「業績修正」といいます。
投資家はこれらの予想値をもとに売買判断を行うため、業績予想や分配金予想が市場に与える影響は大きく、正確でタイムリーな開示が求められます。
不動産投資法人においては、一般事業会社と異なり、「営業利益」や「純利益」だけでなく、「1口あたり分配金(予想分配金)」の修正が特に注目されます。なお、上場規程上は分配金予想の修正は直接の開示義務とはされていませんが、J-REITにおいては投資家の最大関心事項であるため、業績修正と並んで自主的に開示されるのが一般的です。
業績修正に関する取引所ルール #
不動産投資法人は株式会社ではありませんが、上場REITとして東京証券取引所の「有価証券上場規程」およびその「施行規則」に準じた情報開示が求められます。
【有価証券上場規程 第405条(予想値の修正等)】
上場会社は、その属する企業集団の売上高、営業利益、経常利益または純利益について、公表済みの予想値と比較して、投資者の投資判断に影響を与える重要な差異が新たに算出された場合、または決算の確定により明らかになった場合には、直ちにその内容を開示しなければならないとされています。
【重要な差異の目安(施行規則 第402条)】
「重要な差異」と判断される目安は、以下のとおりです。
項目 | 差異の目安(予想値との乖離) |
売上高 | ±10%以上 |
営業利益 | ±30%以上 |
経常利益 | ±30%以上 |
純利益(当期利益) | ±30%以上 |
これはあくまで基準値であり、投資判断に与える影響が大きいと判断される場合には、この基準に達していなくても開示が求められることがあります。
実務上の対応
実務では、これらの数値基準に満たない場合でも、特に1口あたり分配金の予想に影響があると判断されるときには、投資法人は自主的に業績修正を開示するのが一般的です。投資口価格への影響が大きい分配金に関する情報は、より厳格に開示が求められています。
業績修正の市場への影響 #
業績修正、特に分配金の上方修正は、一般的に投資口価格の上昇要因となります。一方で、分配金の下方修正が発表された場合には、市場での評価が下がり、投資口価格の急落を招くこともあります。そのため、投資家は開示のタイミングと内容を常に注視する必要があります。
業績修正の実例 #
以下は、2025年に実際に発表された分配金予想の上方修正の一例です。(出所:各投資法人のHP)
GLP投資法人(3281)
- 発表日:2025年4月30日
- 内容:保有する複数物件の売却益が想定を上回ったため、第27期営業収益予想を6.0%、営業利益予想を10.0%、当期純利益予想を11.1%、1口当たり分配金予想を10.1%上方修正。
福岡リート投資法人(8968)
- 発表日:2025年2月5日
- 内容:2025年2月期の営業収益予想を1.3%、営業利益予想を2.7%、1口当たり分配金予想を3.5%上方修正。
平和不動産リート投資法人(8966)
- 発表日:2025年4月10日
- 内容:HF東新宿レジデンスおよびHF東心斎橋レジデンス売却益を反映し、第47期(2025年5月期):当期利益予想18.3%、1口当たり分配金予想2.7%、第48期(2025年11月期):当期利益予想30.6%、1口分配金2.6%と大幅な上方修正。
東海道リート投資法人(2989)
- 発表日:2025年1月14日
- 修正内容:2025年1月期の当期利益予想を1.5%、分配金予想を1.5%下方修正。2025年7月期の営業収益予想を13.0%、当期純利益予想を14.3%、分配金予想を0.4%上方修正。
業績修正の情報は、東京証券取引所の「適時開示情報閲覧サービス」や各投資法人のHPでも公表されます。
不動産投資法人の業績修正のまとめ #
不動産投資法人の業績修正とは、すでに公表された業績予想や分配金予想を見直し、投資家に対して適時に開示する重要な情報です。とくに分配金予想の修正は市場の注目度が高く、投資口価格に直結するため、開示基準・内容・タイミングすべてにおいて高い透明性が求められます。投資家にとっては、スポンサー情報と並び、分配金修正の内容と背景を読み解くことが、安定的な運用判断につながります。