投資信託は、その制度上の構造から「契約型」と「会社型」に大別されます。
このうち会社型投資信託とは、「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づき設立された投資法人が、投資家から集めた資金をもとに、有価証券や不動産などに投資・運用を行う仕組みの投資信託を指します。法的には「投資法人」と呼ばれ、これが会社型投資信託に該当します。
株式会社に類似した構造を持つ投資法人 #
会社型投資信託では、株式会社の「株式」に相当する「投資口」が発行され、投資主には所有権と分配金の受け取り権利が与えられます。この構造は、株式会社において株主が配当を受け取る仕組みと非常によく似ています。
また、株式会社の「株主総会」に相当する「投資主総会」が開催され、規約の変更、執行役員・監督役員・会計監査人の選任および解任などの重要事項が決議されます。
「株式会社」と「会社型投資信託」の比較表 #
項目 | 株式会社 | 会社型投資信託 |
---|---|---|
法人格 | 株式会社 | 投資法人 |
所有者 | 株主 | 投資主 |
所有権を表す証券 | 株式 | 投資口 |
議決機関 | 株主総会 | 投資主総会 |
利益の分配 | 配当 | 分配金 |
根拠法令 | 会社法 | 投資信託及び投資法人に関する法律 |
日本では1998年の法改正により導入
会社型投資信託は、アメリカをはじめとする諸外国では一般的な形態として広く利用されてきましたが、日本では長らく「契約型」のみが制度上認められていました。
しかし、1998年6月に施行された「投資信託及び投資法人に関する法律」により、制度的な転換が図られました。この法改正により、「投資法人」という法人格を持った主体による投資信託の設定・運用が初めて認められ、会社型投資信託が制度上可能となったのです。
この制度改正は、日本の資本市場の国際化と金融ビッグバン(金融制度改革)の一環として行われたものであり、投資信託に対する多様なニーズに応えること、そして海外投資家との制度的整合性を確保することが目的とされていました。
その結果、1990年代後半以降、J-REIT(不動産投資法人)をはじめとする上場型の投資法人が設立され、会社型投資信託の枠組みが実務においても定着していくこととなりました。
J-REITなどが代表的な例 #
日本における会社型投資信託の代表例としては、東京証券取引所に上場している不動産投資信託(J-REIT)が挙げられます。また、インフラ投資法人も同じく会社型の形式で運営されています。
かつてはカントリーファンドやベンチャーファンドでも会社型の仕組みが採用されていましたが、2025年5月末現在、いずれも上場していません。
2025年5月現在上場しているインフラファンド
会社型投資信託の主な特徴 #
- 法人格を有する:投資法人という独立した法人格を持つ。
- 投資口による所有権:投資家は「投資口」を通じて出資し、所有者(投資主)となる。
- ガバナンス構造:投資主総会を通じて運営の透明性と説明責任が確保される。
- 配当性向の高さ:とくにJ-REITは利益の90%以上を分配することで法人税が免除される仕組みがあり、高い分配金利回りが期待される。
- 証券取引所に上場可能:流動性が高く、時価での売買が可能。
個人投資家にとってのメリットとデメリット #
メリット | 内容 |
安定した分配金が期待できる | とくにJ-REITのような会社型投資信託では、法律上、利益の90%以上を分配すれば法人税が免除される制度があり、高水準の分配金が期待されます。インカムゲイン志向の投資家に適しています。 |
上場しているため流動性が高い | 会社型投資信託(例:J-REIT)は証券取引所に上場しており、株式と同様に市場でリアルタイムに売買できます。必要なときにすぐに換金できる点は大きなメリットです。 |
投資主の権利が明確 | 株式会社と同様に、投資口の保有者(投資主)として所有権を持ち、投資主総会での議決権などが付与されます。ガバナンスが制度的に整っており、透明性が高いと評価されています。 |
デメリット | 内容 |
価格が基準価額と乖離することがある | 上場しているため、市場の需給により投資口価格が基準価額と大きく乖離することがあります。特に相場急変時には割高・割安で取引されるリスクがあります。 |
分配金が安定しない可能性もある | 不動産市況や投資対象資産の収益状況に応じて、分配金が減少することもあります。 |
制度上の仕組みはやや特殊 | 会社型投資信託は「投資法人」という法人格を持ち、株式会社に似た形で運営されています。投資主総会の仕組みや役員体制など、制度的には特徴的な構造を持ちますが、個人投資家が日常的に意識する必要はほとんどありません。ただし、契約型投資信託とは異なる制度的背景があることは、投資対象を理解するうえで知っておくと安心です。 |
市場価格が外部環境に影響を受ける | 会社型投資信託は証券取引所に上場しており、投資口の価格は市場での売買を通じて決まります。そのため、地政学リスク、経済指標の発表、金利動向、為替変動など、さまざまな外部環境の変化に敏感に反応し、価格が上下することがあります。 |
会社型投資信託のまとめ #
会社型投資信託は、「投資法人」という法人格を持つ主体が、投資家から集めた資金を運用する仕組みの投資信託です。J-REITやインフラファンドが代表例で、投資口による所有権や高い分配性向、上場による流動性の高さが特徴です。個人投資家にとっては、安定した分配金が期待できる一方、市場価格の変動や制度上の特性を理解した上での投資判断が求められます。