上場インフラファンドとは、主に太陽光発電などの再生可能エネルギー発電施設をはじめとするインフラ資産に、直接投資・運用を行う会社型投資信託(投資法人)です。東京証券取引所に上場しており、「インフラファンド」や「インフラ投資法人」とも呼ばれます。
制度上の位置づけ #
上場インフラファンドは、2015年に創設された「インフラファンド制度」に基づいて設立された、比較的新しいタイプの会社型投資信託です。この制度は、「金融商品取引法」および「投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)」の改正によって導入されたもので、インフラ資産への投資を目的とする投資法人の設立を可能にしました。
J-REIT(不動産投資法人)と同様の仕組みを持ち、利益の90%以上を投資主に分配することで、法人税が実質的に非課税となる「パススルー課税制度」が適用される点が特徴です。
インフラファンド制度の特徴 #
特徴 | 説明 |
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① 投資対象の拡大 | 投資法人がインフラ設備に直接投資できるよう、法令上の「特定資産」に追加された(2014年改正) |
② 投資法人の活動範囲拡大 | 設備の製造・設置等に関する行為も一部容認(内閣府令で定める範囲) |
③ 高分配かつ法人税非課税 | J-REITと同様に、利益の90%以上を分配すれば法人税が実質的に非課税となる「パススルー課税制度」が適用 |
④ 東証での上場可能 | インフラ資産を裏付けとした投資法人が一般株式と同様に上場・売買可能に |
主な投資対象 #
インフラファンドが投資するインフラ資産は、以下の2つに分類されます(根拠法令:投資信託及び投資法人に関する法律施行令 第三条):
- 再生可能エネルギー発電設備(太陽光・風力・地熱・水力・バイオマス)
- 「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づく施設
- 公共施設等運営権
- 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(いわゆるPFI法)」に基づく、道路、鉄道、港湾、空港、上下水道などの運営権
具体的には現在の実際の投資対象は次のような再生可能エネルギーです(2025年5月現在):
- 太陽光発電設備(メガソーラーなど)
- 風力発電
今後、投資対象資産の多様化に向けた制度整備の可能性はあります。
上場インフラファンドの仕組み(流れ) #
インフラファンド(投資法人)は、東京証券取引所への新規上場時に投資口を公募し、投資家から資金を調達します。上場後も、必要に応じて追加で投資口を発行(増資)したり、金融機関からの借入を活用したりすることが可能です。調達した資金で再生可能エネルギー発電設備などを取得・保有し、それらを発電事業者に賃貸することで賃料収入や売電収入を得ます。得られた利益は、投資主に分配金として還元されます。
まとめると、インフラファンドの基本的な仕組みは次のとおりです。
- 投資法人がIPOにおいて投資口を公募(上場後は増資で投資口を公募)して投資家から資金を調達する
- 必要に応じて金融機関からの借入も活用
- 調達資金で、再生可能エネルギー発電設備などを直接取得・保有
- 発電事業者に賃貸し、賃料収入や売電収入を得る
- 得られた利益の90%以上を分配金として投資主に還元
- 投資口は東証で売買され、市場価格は需給や外部環境に応じて変動
個人投資家にとってのメリット #
メリット | 内容 |
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高水準の分配金 | 売電収入に基づく安定的なキャッシュフロー。利益の90%以上を分配することで法人税が実質非課税。 |
上場による流動性 | 株式と同様に市場でリアルタイムに売買でき、換金性が高い。 |
インフラ資産に間接投資できる | 個人では保有が難しい発電施設に、小口で分散投資が可能。 |
ESG投資との親和性 | 再生可能エネルギーへの投資は、脱炭素や持続可能な社会づくりの観点から意義があるとされており、ESG投資の観点から評価される余地もある投資対象です。 |
デメリット・留意点 #
デメリット・留意点 | 内容 |
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天候・災害リスク | 太陽光などは天候や自然災害に影響され、収益が変動することがある。 |
市場価格の変動 | 投資口価格は市場の需給や金利、政策変更により変動する。 |
FIT制度と政策変更リスク | 売電価格は固定価格買取制度(FIT)に依存しており、制度変更の影響を受けやすい。また、政府はFIT制度からFIP(フィード・イン・プレミアム)制度への移行を進めており、今後は市場価格に応じた売電収入となる可能性があります。FIP制度では、発電した電力を市場で販売し、その上に一定のプレミアム(補助)が加算される仕組みのため、市場価格の変動が収益に直接影響することになります。このため、FIT制度下と比べて収益の安定性が低下するリスクがある点にも留意が必要です。 |
資産の成長性は限定的 | 安定収益型のため、REITや株式に比べて値上がり益は期待しにくい。 |
インフラファンド市場の課題 #
2014年にスタートしたインフラファンド市場ですが、2025年時点で上場ファンド数は5銘柄と少なく、セクターとしての厚みが不足しています。また、売買が少なく、スプレッドも大きいため、短期的な売買には不向きと言えます。
観課題とリスク(将来性の制約要因) | 内容 |
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上場銘柄数が少ない | 2025年時点で5銘柄程度に限られており、セクターとしての厚みが不足しています。指数化やETF化もしづらく、投資家の裾野が広がりにくいと言えます。 |
流動性が低い | 売買が少なく、スプレッド(売買価格差)も大きいため、短期的な売買には不向き。大型資金の流入にもやや不利。 |
FIT制度依存 | 売電価格が「固定価格買取制度(FIT)」に依存しており、制度の見直しが収益構造に直接影響します。長期安定性には政策リスクが伴います。 |
成長性の乏しさ | 本質的に「安定収入型」資産であり、REITや株式のようなキャピタルゲインの期待は限定的。上場インフラファンドに成長株的な魅力は乏しい。 |
制度創設の背景 #
従来、投資信託や投資法人が投資できる資産(特定資産)は、有価証券や不動産などに限られていました。しかし、2014年9月3日の政令改正(施行令の一部改正)により、特定資産に「再生可能エネルギー発電設備」および「公共施設等運営権」が追加されました。さらに、投資法人自身がこれらの施設の設置・管理などに関与できるよう取引範囲も拡大され、インフラ投資法人の組成が制度的に可能となりました。
一般の投資信託との違い #
一般のインフラ関連投資信託(非上場ファンド)は、主にインフラ関連企業の株式や債券に投資するものであり、投資対象は「間接的なインフラ投資」にとどまります。これに対し、上場インフラファンドは、再生可能エネルギー設備などの現物インフラ資産に直接投資し、発電設備の保有・賃貸を通じて収益を得る点が大きく異なります。
加えて、上場インフラファンドは「投資法人」という法人格を有する会社型投資信託として、法律上の整備されたガバナンス体制の下で運用されており、利益の90%以上を投資主に分配することで法人税が実質的に非課税となる「パススルー課税制度」が適用されます。こうした仕組みにより、より安定的で透明性の高いインフラ投資が可能となっています。
2025年5月現在上場しているインフラファンド #
上場インフラファンドのまとめ #
上場インフラファンドは、再生可能エネルギー発電設備などのインフラ資産に投資する会社型投資信託(投資法人)で、東京証券取引所に上場されています。J-REITと同様のパススルー課税制度が適用され、安定した売電収入をもとに高水準の分配金を提供する一方、FIT制度の見直しや天候リスクなどの影響を受けやすい側面もあります。長期的なインフラ収益に分散投資する手段として注目されています。