最近、運用会社のホームページなどで「国連責任投資原則(Principle for Responsible Investment)」という言葉を見ることが増えてきました。この国連責任投資原則とは、機関投資家の投資の意志決定プロセスや株式の保有方針の決定に環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Corporate Governance)課題(=ESC課題)に関する視点を反映させるための考え方を示す原則として、2006年4月に国連が公表した6つの原則のことです。つまり、投資家として環境、社会、企業統治に関して責任ある投資行動をとることを宣言するものです。6つの原則は次の通りです。
国連責任投資原則
- 私達は、投資分析と意志決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
- 私達は、活動的な株式所有者になり、株式の所有方針と株式の所有慣習にESG課題を組み入れます。
- 私達は、投資対象の主体に対してESG課題について適切な開示を求めます。
- 私達は、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
- 私達は、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
- 私達は、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告開示します。
国連責任投資原則は拘束力のない規範としてスタートしましたが、同原則を受け入れる旨を表明した機関は、上記の第6原則に基づき、国連投資責任原則の遵守状況に関する開示と報告が求められ、2013年10月からは、実施状況を確認・評価するための制度も導入されました。報告開示義務を遵守しなかった場合には、枠組みから除外される可能性もあるとされています。
2024年8月25日現在、世界で5,306の機関投資家等(年金基金、運用会社、関連サービス会社)が国連責任投資原則を受け入れる旨を表明しています。日本では141社が署名しています。
PRI(国連責任投資原則)の意義と影響 #
PRIの意義 #
1. 持続可能な社会への貢献
PRIは、投資活動を通じて気候変動や人権問題といった社会的課題に取り組むための枠組みを提供します。これにより、投資先企業の行動変容を促し、社会全体の持続可能性を高める役割を果たします。
2. 投資リスクの低減
ESG課題は企業の財務状況や市場リスクに直結するため、これらの視点を投資判断に組み込むことで、将来的なリスクを予測・回避することが可能になります。たとえば、環境規制の強化や労働環境問題が原因で企業が抱える法的リスクの軽減に役立ちます。
3. 長期的な投資リターンの向上
ESGを考慮する投資は、短期的な利益追求よりも長期的な安定したリターンを目指します。これにより、投資家にとっても持続可能な財務パフォーマンスが期待できると期待されています。
4. 倫理的・社会的責任の明確化
投資家がPRIに署名することで、社会や投資先企業に対し責任ある投資行動を宣言できます。これにより、投資家自身のブランド価値や信頼性の向上にもつながります。
PRIの影響 #
1. 投資業界への変革
PRIは、これまで主流だった短期的な利益重視の投資スタイルに変革をもたらしました。ESGを取り入れることで、持続可能性を軸とした新たな投資スタンダードを確立しています。
2. ESG市場の拡大
PRIの普及により、ESGに基づく投資商品の数や規模が大幅に増加しました。これにより、投資家が利用可能な選択肢が広がり、ESG投資が主流の一部として位置づけられるようになりました。
3. 政策や規制への影響
PRIは政策立案者や規制当局にも影響を与え、ESG情報の開示基準の整備や透明性の向上を促進しました。これにより、投資先企業の行動がより規範的で透明性のあるものになりつつあります。
4. グローバルな協働の促進
PRIの枠組みの下、投資家や機関が国境を越えて協力し、ESG課題への対応を進めています。これにより、気候変動や貧困削減といった地球規模の問題への具体的な進展が期待されています。
国連責任投資原則まとめ #
PRIは、持続可能な未来を目指し、投資家と社会の双方に利益をもたらす枠組みです。長期的なリターンを追求する中で、ESG課題への対応を進めることで、より健全で責任ある投資活動を実現し、持続可能な経済と社会を支える重要な役割を担っています。詳細並びに最新の署名企業については、国連Principle for Responsible Investmentのウェブサイトで確認できます。