投資信託の「信託金限度額」とは、そのファンドが受け入れることができる信託財産(元本)の上限金額のことです。ファンドごとに設定時に定められ、信託約款に記載されます。
この限度額は、ファンドの投資対象や運用方針、流動性、運用効率などを考慮して決められます。
信託金限度額は、ファンドにより異なりますが、一般的にアクティブ運用の投資信託では、数千億円程度に設定していることが多いようです。小型株や店頭株等を投資対象とする場合は、100億~200億円程度に少なく設定されている場合もあります。他方、限度額が大きくても運用能力に問題がない場合には、信託金限度額を10兆円としているファンドもあります。
信託金限度額が必要とされる主な理由 #
このような限度額を設ける主な理由としては、以下の3つが挙げられます。
1. ファンドの運用効率を維持するため #
投資信託には「適正規模」があり、運用できる資産額には上限があります。とくに中小型株や流動性の低い資産を対象とするファンドでは、資金が過剰に流入すると、買付可能な銘柄に限りがあるため、価格を押し上げてしまったり、意図しない銘柄に資金を振り分けざるを得なくなったりします。
このような事態は、運用効率を著しく損なう原因となります。信託金限度額を設けることで、ファンドの成長を一定範囲にとどめ、運用戦略や資産配分の一貫性を保つことができます。
2. 既存の受益者を保護するため #
信託金限度額は、すでに投資している受益者の利益を守るためにも重要な仕組みです。限度額を設けず、資金の流入が無制限に許されると、ファンドは短期間で急激に膨張する可能性があります。こうした急激な資産規模の拡大は、当初想定していた投資対象や資産配分の維持を困難にし、結果として運用方針が変質してしまうことがあります。これがいわゆる「スタイル・ドリフト」と呼ばれる現象で、投資家が当初期待していた運用スタイルと実際の運用との間に乖離が生じることになります。
スタイル・ドリフトは、信託金限度額が存在しないこと自体が直接の原因ではありませんが、過剰な資金流入がその引き金となる点には注意が必要です。ファンドの運用環境が変化し、当初の戦略通りの運用が困難になることで、徐々に運用スタイルが逸脱していくのです。
また、資金流入が増えると売買規模が拡大し、それに伴って売買コストも上昇します。こうしたコストはすべての受益者に公平に配分されるため、早期から投資していた既存受益者にとっても、基準価額の押し下げなどを通じてパフォーマンスに悪影響が及ぶおそれがあります。
このように、信託金限度額を設けることは、ファンドの過剰な膨張を防ぎ、運用戦略の一貫性とファンド全体の品質を維持することで、既存受益者を保護するという重要な役割を果たしています。
3. 制度上の管理・透明性確保のため #
信託金限度額は、信託契約の一部として金融庁に届け出られる法的・制度的な項目です。ファンドの受益証券の発行限度を明確にすることで、透明性を確保し、投資家の信頼性を高めるとともに、運用会社・受託会社双方の管理責任を明確にすることができます。
また、限度額に近づいた際には、募集停止や信託金限度額の引き上げといった対応を取る必要があり、こうした運用管理の枠組みを明確にする意味でも、信託金限度額の設定は不可欠です。
信託金限度額の変更 #
信託金の限度額は、運用会社(委託会社)と受託会社が合意すれば、変更することが可能です。変更には金融庁への届出や約款の変更といった正式な手続きが必要となります。そのため、ファンドの規模が大きくなり、信託金限度額に達しそうになると、運用会社は募集を一時停止し、信託金限度額の引き上げを金融庁に届け出ることになります。また、投資対象市場の流動性、運用能力、ファンドの適正規模等の観点から、信託約款を変更せず、上限に達した時点で募集を中断し、再び純資産総額が減少した時点で募集を再開することもあります。
信託金限度額の具体例 #
- アクティブファンドなどでは、数千億円程度に設定されているケースが一般的です。
- 小型株や流動性の低い銘柄を対象とするファンドでは、運用の柔軟性を保つため、100億〜200億円程度と小さく設定されることもあります。
- 一方で、大型の公社債ファンドなど、流動性が高くスケーラブルな運用が可能なファンドでは、限度額を10兆円とするケースもあります。
2006年から2008年頃にかけて純資産総額が5兆円を超えていた「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の信託金限度額は10兆円に設定されています。2025年4月末現在、純資産総額が最も大きく約7兆円に達している「eMAXIS Slim 米国株S&P500」の信託金の限度額は10兆円です。
信託金限度額のまとめ #
信託金限度額とは、投資信託が受け入れられる信託財産(元本)の上限を定めたものです。ファンドの運用効率や投資方針の一貫性、既存受益者の保護を目的に設定され、信託約款に明記されます。限度額を超える資金流入を防ぐことで、ファンドの品質と透明性を維持する重要な仕組みです。