投資信託の紹介や雑誌の記事などで「このファンドはパッシブ運用です」といった表現を見かけたことがある方も多いでしょう。では、パッシブ運用とは具体的にどのような運用手法なのでしょうか?
パッシブ運用の基本的な考え方 #
「パッシブ(passive)」は「受動的」という意味で、反対の概念に「アクティブ(active)」運用があります。アクティブ運用が、特定の銘柄やタイミングを選定して市場平均を上回るリターンを目指すのに対し、パッシブ運用は、市場全体の動きを示す「インデックス(指数)」に連動した運用成果を目指すものです。
代表的な手法として「インデックスファンド」があり、たとえば日経平均株価やTOPIX、S&P500といった指標に連動するよう設計されています。これらの指数は、市場全体の平均的な動向を反映するよう構成されているため、パッシブ運用では「市場の平均的なリターン」を目標とするのが特徴です。
「それなら、より高い成果を狙えるアクティブ運用を選ぶべきでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、アクティブ運用には市場を下回るリスクもあり、また信託報酬などの運用コストがパッシブ運用に比べて高くなる傾向があります。
「どちらが優れているのか」については、世界中の研究者によって数多くの実証研究が行われてきましたが、依然として明確な結論は出ていません。重要なのは、投資目的やリスク許容度、運用期間などに応じて、自分に合った運用スタイルを選ぶことです。
「並程度のパフォーマンス」は、実はとてもすばらしいこと #
パッシブ運用は一般に「市場平均に連動する運用」、すなわち「可もなく不可もなく、並程度のパフォーマンスを目指す運用」と表現されることがあります。一見すると控えめな姿勢に思えるかもしれませんが、実はこの「並」であることこそが、投資において極めて価値のある成果だということをご存知でしょうか。
というのも、アクティブ運用――つまり、銘柄選定や市場予測を通じて市場平均を上回るリターンを狙う運用――の多くが、実際にはそのベンチマーク(参考指数)を長期的に上回ることができていないという事実が、国内外の多くの実証研究によって明らかにされています。ただし、一部の優れたアクティブファンドが存在するのも事実であり、投資家の目的によっては選択肢となり得ます。
その背景には、運用コストや取引コストの存在、タイミング選定の難しさ、ファンドマネージャーの判断の限界など、さまざまな要因があります。つまり、「アクティブ運用=必ず高リターン」ではなく、「高リターンの可能性と引き換えに、それ以下の成績に終わるリスクも抱える運用」なのです。
その点、パッシブ運用は、指数に忠実に連動するよう設計されており、市場全体の成長をそのまま享受することができるという、極めて合理的で再現性の高い手法です。特に長期投資においては、安定したパフォーマンスと低コストというパッシブ運用のメリットが、結果的に多くのアクティブファンドを凌駕することも少なくありません。
したがって、「並程度のパフォーマンス」という表現に惑わされてはいけません。実際には、「投資の世界で上位に位置する、極めて実力のある結果」であり、数多くのファンドマネージャーが目指しながらも実現できないパフォーマンスを、確実かつ効率的に実現する手段がパッシブ運用なのです。
パッシブ運用の特徴 #
運用判断は人手によらず、あらかじめ定めたルールに基づく #
パッシブ運用は、特定のインデックス(指数)に連動するよう機械的に構成銘柄や比率を調整する運用手法です。そのため、どの銘柄を買うか・いつ売るかといった人間の裁量(=ファンドマネージャーの判断)には依存しません。
たとえば、S&P500に連動するパッシブファンドであれば、その指数に採用されている米国大型株500銘柄を、インデックスの構成比率通りに保有します。そして、インデックスの構成銘柄が入れ替われば、それに合わせて自動的にリバランスが行われます。
このように、明確に定義されたルールに基づく運用であることが、パッシブ運用の大きな特徴です。
低コスト・透明性・再現性が高い #
パッシブ運用は、アクティブ運用と比べて運用にかかるコストが非常に低いことが特徴です。理由は以下のとおりです:
- 市場調査や個別企業の分析、投資判断に要する人件費がかからない
- 売買の頻度が少なく、取引コストが抑えられる
- 資産配分がインデックスに従うだけなので、運用プロセスがシンプルで透明性が高い
さらに、同じインデックスに連動するパッシブファンド同士であれば、誰が運用してもほぼ同じ結果が出るため、再現性が高いというメリットもあります。これは長期的な資産形成において、予測可能性や信頼性の高さにつながります。
市場の平均リターンを確実に捉えることを目的とする #
パッシブ運用の最大の目的は、「市場全体の成長に乗ること」です。つまり、日経平均やS&P500、TOPIXなどの市場を代表する指数の動きにできるだけ忠実に追随し、その平均的なリターンを享受することを目指します。
この「平均リターンで満足する」という考え方は、一見すると控えめに見えるかもしれませんが、実際には多くのアクティブファンドがこの“平均”を長期で上回れていないという事実があります。実証研究でも、長期で見ればパッシブ運用のほうが投資家にとって有利であるケースが多いことが示されています。
つまり、パッシブ運用は「着実に市場全体の成果を得ること」を目的とした、堅実かつ合理的な投資アプローチなのです。
パッシブ運用には、単に「インデックスファンド」に限らず、さまざまな形態があります。ここでは、パッシブ運用の主な種類を分類とともにわかりやすく整理してご紹介します。
パッシブ運用の主な種類 #
① インデックスファンド(非上場型) #
- 概要:特定の株価指数(インデックス)に連動することを目指す投資信託。
- 特徴:
- 一般的に毎日一度の基準価額で売買
- 長期投資に適しており、信託報酬が低い
- 代表例:日経平均連動型、TOPIX連動型、S&P500連動型ファンドなど
② ETF(上場投資信託) #
- 概要:東京証券取引所などの証券取引所で売買できる、インデックス連動型の投資信託。
- 特徴:
- 株のようにリアルタイムで売買可能
- 信託報酬がさらに低水準のものが多い
- 売買手数料が発生することもある
- 代表例:NEXT FUNDS(TOPIX連動型上場投信)、VOO(S&P500連動ETF)
(最近はアクティブ運用型のETFも存在しますので、全てのETFがパッシブというわけではありません。)
③ スマートベータ(Smart Beta) #
- 概要:時価総額加重ではないルールに基づいて設計された指数に連動する運用。ファクター(例:バリュー、低ボラティリティ)を活用し、「ルールベースのアクティブ運用」とも解釈される側面を持ちます。
- 特徴:
- アクティブのような工夫を加えた「ルールベースのパッシブ」
- 高配当、低ボラティリティ、バリュー、モメンタムなどの「因子(ファクター)」を重視
- 代表例:MSCI最小分散指数連動ETF、FTSE RAFI指数連動ETF など
パッシブ運用のまとめ #
パッシブ運用とは、市場平均(インデックス)に連動することを目指す運用手法で、低コストかつ再現性が高いのが特徴です。アクティブ運用に比べて長期的に高い成果を上げる可能性が統計的に示されており、「可もなく不可もなく」の平均的なリターンが、むしろ非常に合理的で堅実な戦略と評価されています。代表的な商品にはインデックスファンドやETFがあります。