ETF(上場投資信託)の情報を見る際、「純資産総額(運用残高)」の大きさに注目する方は多いでしょう。
純資産総額が大きいETFは、流動性が高く、安定して運用されているという印象を持たれがちです。
しかし、ETFの純資産総額は、単に市場での売買が活発だから増減するわけではありません。
ETFには、一般の公募投資信託とは異なる「設定・交換」という仕組みがあり、この仕組みを通じて運用残高が調整されています。
まずは、ETF特有の「設定・交換」の仕組みから確認してみましょう。
ETFの「設定・交換」の仕組み #
ETFでは、投資家は証券取引所でETFを売買していますが、ETFそのものの口数は、指定参加者(AP:Authorized Participant)と呼ばれる金融機関によって増減します。
設定(Creation) #
投資家の買いが増え、ETFの市場価格が基準価額(NAV)を上回りやすくなると、裁定取引の機会を捉えた指定参加者が行動します。
指定参加者は、ETFの原資産(株式や債券など)を原則として差し入れ(※一部ETFでは現金設定)、新たなETF口数の設定を行います。
その結果、市場に供給されるETF口数が増え、需給が調整されます。
交換(Redemption) #
反対に、投資家の売却が増えると、ETFは市場で売られやすくなり、市場価格が基準価額(NAV)を下回ることがあります。
このような場合、裁定機会を見た指定参加者が市場でETFを買い集め、そのETF口数を運用会社に持ち込んで原資産と交換します。
この交換によりETF口数は消滅し、市場の需給が調整されます。
→東京証券取引所に上場するETFの指定参加者一覧(東京証券取引所)
「購入・解約」と呼ばない理由 #
ETFでは、投資家は運用会社に直接「購入」や「解約」を申し込むわけではありません。
あくまで証券取引所でETFを売買しているだけであり、ETFの口数の増減は、指定参加者による設定・交換の結果として生じます。
投資家の売買は市場取引で完結しますが、ETF全体の口数調整は、指定参加者と運用会社の間で行われる「設定・交換」によってのみ生じます。
この点が、一般の公募投資信託との本質的な違いです。
→「ETFとは?」
ETFの純資産総額は何で増減するのか(基本構造) #
ETFの純資産総額は、次の2つの要因によって増減します。
ETFの純資産総額の増減 =① 原資産価格の変動+② 設定・交換による口数の増減
実務的には、短期的には①、長期的には②の影響が大きくなりやすい点が特徴です。
ETFの運用残高が増加する主な要因 #
① 原資産価格の上昇
ETFが保有する株式や債券などの価格が上昇すると、1口あたりの基準価額(NAV)が上がり、純資産総額が増加します。
② 新規資金流入による設定超過
投資家の需要が高まり、指定参加者による設定が増えると、ETFの口数が増加し、運用残高が拡大します。
③長期資金の定着(交換の抑制)
年金資金や長期投資資金の利用により交換が起こりにくくなると、運用残高は安定しやすくなります。
④ 制度・政策要因
新NISAの拡充や、機関投資家によるETF活用の拡大なども、中長期的な残高増加要因となります。
ETFの運用残高の増加要因まとめ #
ETFの運用残高(純資産総額)が増加する主な要因は、原資産価格の上昇による評価額の増加と、投資家需要の高まりに伴う指定参加者による設定超過です。
ETF特有の「設定・交換」の仕組みを理解することで、運用残高の増減をより正確に読み取ることができます。