投資信託の投資対象の一つにBDCがあります。BDC(Business Development Company)とは、米国で設立されるクローズド・エンド型の投資会社で、中小企業や新興企業に対して資金供給だけでなく経営支援も行う投資会社の一形態です。根拠法は「1940年投資会社法(Investment Company Act of 1940)」で、1980年の制度改正により誕生しました。多くのBDCはニューヨーク証券取引所やナスダックに上場しており、投資家は株式と同じように売買できます。
銀行融資を受けにくい成長段階の企業に資金を供給する役割を持つため、BDCはリスクの高い投資先を対象にする一方で、高いリターンや分配金を期待できる点が特徴です。また、金融支援に加えて経営面でのサポートも行い、投資先企業が上場することで大きな成果を得る可能性もあります。
ベンチャーキャピタルに似ていますが、BDCは証券取引所に上場するクローズド・エンド型ファンドである点に違いがあります。クローズド・エンド型ファンドとは、投資家の請求による解約に応じる義務を持たないファンドで、取引所を通じて株式のように売買されます。日本でもETF(上場投資信託)や不動産投資信託(REIT)が同様にクローズド・エンド型ファンドに分類されます。
配当面では、BDCは利益の90%以上を投資家に分配することで法人税を免除される制度が適用されており、高配当が期待される点も投資家の魅力となっています。証券取引所に上場しているため、個人投資家でも比較的少額から成長企業に間接投資できるのが大きなメリットです。
BDCの特徴 #
BDCには次のような制度的な特徴があります。(2025年9月現在)
- 投資対象の規制:少なくとも資産の70%を「Eligible Portfolio Company」と呼ばれる中小・未公開企業(時価総額2.5億ドル未満など)に投資することが義務付けられています。
- 分散投資のルール:1銘柄あたりの構成比率は25%以下に制限。
- レバレッジ制限:過度な借入は認められておらず、一定の自己資本比率を維持する必要があります。
- 課税メリット:利益の90%以上を投資家に分配することで法人所得税が免除され、結果として高配当を実現しやすい仕組みです。
このように、BDCは「ベンチャーキャピタルに似た投資」と「証券取引所に上場するファンド」の中間的な位置づけを持ちます。
BDCを取り巻く制度状況 #
BDCは法的枠組みの中で発展してきましたが、規制変更が投資機会や投資家保護の仕組みに大きく影響してきました。
最近の動き(2025年時点) #
• IPO規制の緩和:2025年7月23日から、FINRA(金融業規制機構)の規則改正により、BDCに対するIPO参加制限が緩和されました。具体的には、FINRA Rule 5130(新規株式配分規制)および Rule 5131(新規株式の不公正配分防止規則)からBDCが除外され、IPO割当の機会が広がりました【FINRA Regulatory Notice 25-08】。
• ファンド名規則の強化:2023年9月20日、SECは「Names Rule(投資会社法第35(d)条に基づく規則35d-1)」の改正を採択し、2023年12月10日に施行しました。これにより、ファンド名と実際の投資内容の一致がより厳格に求められるようになり、BDCも規制対象となっています【SEC Final Rule: Investment Company Names】。
過去の制度改正(参考) #
• 投資対象の拡大:2008年7月、SECは「Investment Company Act of 1940」に基づく Rule 2a-46 を改正しました。従来は「全国証券取引所に上場していない企業」への投資に限られていましたが、改正により「時価総額2億5,000万ドル未満の上場企業」なども Eligible Portfolio Company に含めることが可能となりました【SEC Rule 2a-46】。
BDCの動向と指数 #
BDC市場の動向を把握するための代表的な指数にS&P BDC指数があります。米国市場では、この指数に連動するETFも取引されており、BDC市場全体の動きを投資家が把握しやすくなっています。

(データ出所:S&P Dow Jones Indices )
最新のBDCの例(米国) #
現在米国市場で規模が大きく、投資家から注目されている代表的なBDCは以下のとおりです。(2025年9月現在)
ティッカー | 社名 | 特徴 |
---|---|---|
ARCC | Ares Capital Corporation | 世界最大級のBDC。中規模企業向けローンや信用投資を幅広く展開し、分散が進んでいる。安定配当が魅力。 |
OBDC | Blue Owl Capital Corporation | 規模を急拡大中。中小・中規模企業向けクレジット投資が中心で、配当水準も高め。 |
BXSL | Blackstone Secured Lending Fund | シニアローン中心のBDC。リスクを抑えつつ安定収益を狙う戦略で注目。 |
FSK | FS KKR Capital Corp. | 高配当BDCの代表格。リスクとリターンのバランスを重視する投資家に選ばれる。 |
GBDC | Golub Capital BDC, Inc. | 信用力のある中規模企業への貸付に強み。リスクと利回りのバランスが良い。 |
HTGC | Hercules Capital, Inc. | テクノロジーやライフサイエンス分野の成長企業への投資に強い。ハイリスク・ハイリターン型。 |
PSEC | Prospect Capital Corporation | 高い配当利回りで人気。ただし信用リスクも相応に高い。 |
TSLX | Sixth Street Specialty Lending, Inc. | 特殊貸付型BDC。高利回りを狙う投資家から注目されている。 |
投資家にとっての魅力とリスク #
BDCは配当性向の高さから「インカム収益を重視する投資家」に人気があります。実際、米国ではS&P BDC指数などの関連指数も整備され、それに連動するETFも上場しています。
一方で、投資先企業が財務基盤の弱いケースが多いため、信用リスクや倒産リスクは無視できません。さらに、金利上昇局面では借入コストが増加し収益が圧迫される可能性があり、為替リスクや流動性リスクも考慮する必要があります。
日本ではBDC株そのものに投資することは困難であり、BDCファンド(BDCを投資対象とする投資信託やETF)を通じた間接投資が主な手段となります。
BDCのまとめ #
BDCとは、米国で中小・新興企業に資金と経営支援を行うクローズド・エンド型投資会社です。高配当の魅力と成長企業への投資機会を提供する一方で、信用リスクや金利リスクを伴います。