世界で最初の株価指数──ダウ平均のはじまり #
ダウ平均を生み出した Dow Jones 社とは #
米国を代表する株価指数として最も広く知られているのが「ダウ工業株平均(Dow Jones Industrial Average)」です。一般に「ダウ」「NYダウ」「ダウ平均」などと呼ばれ、米国市場の動向を象徴する指数として、ニュースや市場解説でも頻繁に引用されています。
この「ダウ」を生み出したのが、金融ニュース・データ情報会社 Dow Jones 社(現 Dow Jones & Company)です。Dow Jones & Company は、世界的に有名な経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」の発行元としても広く知られています。 https://www.dowjones.comです。同社は 1882 年、
- エドワード・デイビス・ジョーンズ
- チャールズ・ヘンリー・ダウ
- チャールズ・ミルフォード・バーグストレッサー
の 3 名によって設立されました。
1884年に誕生した「ダウ・ジョーンズ平均」 #
創業者のひとりであるチャールズ・ダウは、1884年に「ダウ・ジョーンズ平均(Dow Jones Averages)」を算出・公表しました。
これが 世界初の“継続的かつ体系的に算出された”株価指数 とされています。
当初の構成は、
- 鉄道株 9 銘柄
- 工業株 2 銘柄
の合計 11 銘柄で、当時の米国経済の中心産業であった鉄道株が大きな比重を占めていました。
1896年に「ダウ工業株平均」として正式に登場 #
その後、指数は改良を重ね、1896年に現在の「ダウ工業株平均」 が正式に登場しました。
以来100年以上にわたり、世界中の投資家に利用される代表的な株価指数となっています。
現在のダウ工業株平均──構成銘柄・役割・特徴 #
ダウ平均は30銘柄で構成、米国経済の主要セクターをカバー #
現在のダウ工業株平均は 30銘柄 から構成されています。対象企業はテクノロジー、金融、ヘルスケア、消費財、通信など多岐にわたり、米国経済を代表する大企業で構成されています。(例:Apple、Microsoft、Amgen、Visa、Coca-Cola、Boeing など)
銘柄選定は指数委員会が判断、象徴性を重視 #
ダウ平均は、誕生当初は創始者である Dow Jones社 が算出していましたが、2010年代の事業再編を経て、現在は S&P Global が過半を所有する S&P Dow Jones Indices(S&P DJI) が指数の算出・管理を行っています。
この S&P Dow Jones Indices が設ける 指数委員会(Index Committee) が、ダウ平均の構成銘柄を決定します。
選定基準は以下の通りです:
- 業界の代表性
- 米国経済における重要性
- 成熟度の高い大企業であること
つまり、単に時価総額が大きい企業が選ばれるわけではなく、「米国経済を象徴する企業」であることが重視されます。
S&P500とは異なる“象徴指標”としての位置づけ #
実務的な運用では S&P500 が重視されることが多いものの、
ダウ平均は、
- 歴史の長さ
- メディアでの露出度
- 大台突破など節目としての象徴性
から、今なお米国市場の「象徴的な指標」として強い存在感を持っています。
なぜダウ平均は“価格加重平均方式”なのか? #
ダウ平均は株価を基準に算出する「価格加重平均方式」 #
まず前提として、ダウ工業株平均は 株価を基準に計算する「価格加重平均方式(price-weighted index)」 を採用しています。これは、S&P500 や TOPIX が採用する「時価総額加重方式」とは異なる独特の仕組みです。
では、なぜダウ平均だけが現在も価格加重方式を採用しているのでしょうか。
その理由は、指数が生まれた当時の時代背景にあります。
19世紀の技術的制約が生んだ「最も簡単な計算方式」 #
ダウ平均が誕生した19世紀後半は、電卓もコンピュータも存在せず、市場データの集計はすべて手作業で行われていました。
新聞紙面に株価指数を迅速に掲載するには、短時間で計算できる方式が必要だったため、創始者チャールズ・ダウは 「株価を合計して銘柄数で割るだけ」 の単純な計算方式を採用しました。
この方式が、現在のダウ平均にも受け継がれているのです。
価格加重平均方式が持つ特徴 #
価格加重平均方式には、現在の指数とは異なる特徴があります。
もっとも大きな特徴は、株価そのものが指数に対する重み(ウェイト)になる という点です。
この仕組みにより、株価の高い銘柄ほど指数を大きく動かす性質を持ちます。
例えば、
- 株価300ドルの銘柄が1ドル動く場合
- 株価30ドルの銘柄が1ドル動く場合
この2つでは、指数への影響は 10倍 異なります。
つまり、寄与度は時価総額ではなく“株価の水準”によって決まるのです。
また、この特徴は 株式分割でウェイトが大きく変わる という性質にもつながります。
株式分割により株価が下がると、企業規模が変わらないにもかかわらず指数への影響力は小さくなります。これは価格加重方式特有の性質です。
時価総額加重方式との違い #
今日の主要な株価指数(S&P500、TOPIXなど)は、企業規模を正確に反映できる 時価総額加重方式 を採用しています。
一方、ダウ平均は創設当時からの計算方法である 価格加重平均方式 を現在も踏襲しています。
この違いにより、
- ダウ平均は株価の水準が寄与度を左右する
- 時価総額加重方式とは異なる動きをすることがある
といった特徴が生まれます。
価格加重方式を維持している背景には、歴史的な継続性 と 指標としての象徴性 を重視する考え方があります。
参考文献・一次資料
- S&P Dow Jones Indices「Dow Jones Industrial Average Methodology」
- Jeremy J. Siegel『Stocks for the Long Run』
- William Peter Hamilton『The Stock Market Barometer』
- Dow Jones 創業期資料(Charles H. Dow Editorials)
- Financial Times / Investopedia / Britannica ほか
世界初の株価指数のまとめ #
1884年にチャールズ・ダウが算出した「ダウ・ジョーンズ平均」は、世界で最初の株価指数として知られています。当時の技術的制約から「価格加重平均方式」という簡便な計算方式が採用され、その伝統が現在のダウ工業株平均にも受け継がれています。ダウ平均は現在30銘柄で構成され、米国経済の象徴的な指標として今なお世界中の投資家に利用されています。時価総額加重方式の指数が主流となった現代においても、ダウ平均は独自の構造と歴史的背景を持つ特別な指数として位置づけられています。