善管注意義務(善良な管理者の注意義務)とは、他人の財産を取り扱う者が、一般に期待される水準の知識・注意力・誠実性をもって、慎重かつ適切に業務を遂行しなければならないという法的義務です。特に金融機関や資産運用業者など、他人の資産を預かる立場にある事業者にとっては、極めて重要な責任です。
金融商品取引業者における善管注意義務 #
金融商品取引業者(例:投資運用業者、投資助言・代理業者)は、金融商品取引法において以下のように善管注意義務を明確に課されています。
第二款 投資助言業務に関する特則
(顧客に対する義務)
第四十一条 金融商品取引業者等は、顧客のため忠実に投資助言業務を行わなければならない。
2 金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもつて投資助言業務を行わなければならない。
第三款 投資運用業に関する特則
第四十二条 金融商品取引業者等は、権利者のため忠実に投資運用業を行わなければならない。
2 金融商品取引業者等は、権利者に対し、善良な管理者の注意をもつて投資運用業を行わなければならない。
第四款 有価証券等管理業務に関する特則
(善管注意義務)
第四十三条 金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもつて有価証券等管理業務を行わなければならない。
このように、金融商品取引法では業務ごとに善管注意義務が規定されており、顧客資産の安全な管理・運用が強く求められています。
契約型投資信託における善管注意義務 #
契約型の投資信託(一般的な公募投信など)は、委託会社(運用会社)と受託会社(信託銀行)が信託契約に基づき共同で運営する仕組みです。
委託会社には、前述の金融商品取引法により善管注意義務が課されており、一方、受託会社には信託法第29条により、以下のような義務が定められています。
「受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。」
つまり、契約型投資信託においても、運用者・管理者の双方に善管注意義務が法的に課されているのです。
投資法人における善管注意義務 #
投資法人(会社型投資信託)の場合は、「投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)」により、次のように各関係者に明確な善管注意義務が定められています。
(投資法人)設立企画人の義務
第七十条 設立企画人は、法令及び規約を遵守し、その設立しようとする投資法人のため忠実にその職務を遂行しなければならない。
2 設立企画人は、法令及び規約を遵守し、その設立しようとする投資法人に対し、善良な管理者の注意をもつてその業務を遂行しなければならない。
(事務の委託を受けた者の義務)
第百十八条 投資法人から前条各号に掲げる事務の委託を受けた一般事務受託者は、当該投資法人のため忠実にその事務を行わなければならない。
2 投資法人から前条各号に掲げる事務の委託を受けた一般事務受託者は、当該投資法人に対し、善良な管理者の注意をもつてその事務を行わなければならない。
(資産保管会社の義務)
第二百九条 資産保管会社は、投資法人のため忠実にその業務を遂行しなければならない。
2 資産保管会社は、投資法人に対し、善良な管理者の注意をもつてその業務を遂行しなければならない。
行政処分 #
金融庁では、検査などの結果や証券取引等監視委員会からの勧告に基づき、必要に応じて報告を求めたり、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、業務改善命令を発出したりする等の対応を行ないます。また、更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、業務停止命令等の発出も含め、必要な対応が講じられます。
これまでにも、証券取引等監視委員会による検査において善管注意義務違反が認められ、金融庁により業務改善命令や業務停止命令などの行政処分が行われた事例があります。具体的な処分内容は金融庁のウェブサイトで公表されています。
善管注意義務のまとめ #
善管注意義務(善良な管理者の注意義務)とは、他人の財産を取り扱う者が、一般に期待される水準の知識・注意力・誠実性をもって、慎重かつ適切に業務を遂行しなければならないという法的義務です。金融商品取引業者や投資信託に関わる各当事者にとって、投資家の信頼を支える根本的な法的責任です。