債券ファンドや、債券を組み入れているバランスファンドを保有していると、「このファンドが持っている債券が、もし格下げされたらどうなるのだろう?」と不安に感じることがあるかもしれません。ニュースなどで「格下げ」という言葉を目にすると、すぐに大きな損失が出るのではないか、ファンドを売った方がよいのではないか、と心配になる方も多いでしょう。
しかし、債券の格下げが起きた場合の影響は、ファンドの種類や運用方針によって大きく異なり、必ずしも深刻な結果につながるとは限りません。
ここでは、まず債券の「格付」の基本を確認したうえで、格下げがファンドに与える影響を、段階的にわかりやすく整理します。
債券の「格付」とは? #
債券の格付(Credit Rating)は、発行体(国、地方自治体、企業など)の返済能力や財務の健全性を評価し、その債券にどれほど信用リスクがあるかを示したものです。
格付機関(S&P、ムーディーズ、フィッチなど)が、AAA(最上位)からD(デフォルト)までのランクで評価します。
一般に、
- 投資適格債(Investment Grade):BBB-(Baa3)以上
- ハイイールド債(High Yield/ジャンク債):BB+(Ba1)以下
に分類され、格付が低くなるほど信用リスクは高くなる一方、投資家が求める利回りも上昇します。
格付会社がこの評価を引き下げることを「格下げ」といいます。
債券ファンド(債券を組み入れるバランスファンドを含む)では、保有している債券の信用格付が下がることがあります。
では、債券の「格下げ」は、ファンドの基準価額や運用にどのような影響を与えるのでしょうか。
保有債券の格下げの影響 #
1. 格下げされると、まず「債券価格が下がる」可能性が高い #
格付とは、その債券の信用リスク(返済能力)を示す指標です。
信用リスクが高くなる=格付が下がると、市場では次のように評価されます。
- デフォルト(債務不履行)の可能性がわずかに高くなる
- 投資家はより高い利回りを求める(リスクプレミアムが上昇)
その結果、
→ 債券の市場価格が下落することが多い
と考えられます。
ファンドはその債券を時価で評価するため、基準価額(NAV)が下がる要因になります。
※ただし、格下げが事前に市場で織り込まれている場合には、発表時点での価格変動が限定的となることもあります。
2. インデックスファンドの場合、指数のルールにより「除外」が起きることがある #
債券インデックス(例:Bloomberg Global Aggregate、ICE 国債指数など)には、投資適格債を主な構成要件とする指数があります。
もし格下げにより、
投資適格(BBB- 以上) → ハイイールド(BB+ 以下)
となった場合、
→ 指数の定期的な構成見直しのタイミングで、当該債券が指数から除外されることがあります
インデックスファンドは指数に忠実に従うため、
- 除外された債券を売却
- 再投資先を入れ替える
といった売買が発生します。
このとき、市場流動性が低いと、売却が不利な価格で行われることもあり、追加的なコストや基準価額の押し下げ要因となる場合があります。
3. アクティブファンドの場合、運用会社の判断で対応が分かれる #
アクティブファンドには、必ずしも厳密な格付ルールが定められていない場合が多く、運用会社は次のような観点から対応を判断します。
- 今後の返済能力に問題があるか
- 市場が過剰に売り込んでいないか
- 他の銘柄やセクターとのリスクバランスはどうか
そのため、
① 格下げ後も割安と判断して保有を続ける
→ 短期的には基準価額が下落するが、長期的に回復する可能性もある
② 格下げ時点で売却する
→ 価格下落が大きい場合、損失が確定する
など、対応は分かれます。
アクティブファンドの方が、運用上の柔軟性があると言えるでしょう。
4. 「投資制限」により強制的に売却が必要になるケースもある #
投資信託の目論見書には、次のような投資制限が記載されている場合があります。
- 「投資適格債を主に投資する」
- 「○%以上は AAA~A 格の債券に投資する」
これらの条件に抵触すると、
→ 格下げされた債券を売却し、他の債券に入れ替える必要が生じる
ことがあります。
価格が下落している局面で売却するため、基準価額の悪化要因となりやすい点には注意が必要です。
5. 格下げされても「すべてが悪いわけではない」 #
債券は株式と異なり、発行体の返済能力が維持されている限り、
- クーポン(利息)は支払われ続ける
- 償還されれば元本(額面)が戻る
という特徴があります。
そのため、格下げが直ちに「損失の確定」を意味するわけではありません。
また、ファンド全体では複数の債券に分散投資されているため、影響が薄まるケースも多く見られます。ただし、財務状況がさらに悪化した場合には、利払い停止やデフォルトに至るリスクもある点には留意が必要です。
6. ファンド全体への影響は「保有比率」と「規模」によって決まる #
格下げの影響の大きさは、主に次の点で決まります。
- ポートフォリオ内での保有割合
- 格下げされた債券の時価総額
- ファンドの総資産規模(大きいほど影響は小さい)
- 他の債券の値動きとの相殺効果
つまり、1本の債券の格下げだけでファンド全体が大きく揺れることはまれで、一般的には影響は限定的となるケースが多いと言えます。
代表的な信用格付機関 #
日本では、金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成21年法律第58号)の施行(2010年4月1日)により、信用格付業者制度が創設されました。
これにより、信用格付を行う機関は金融庁への登録を受けることができ、登録業者は信用格付業を公正かつ的確に遂行する体制が整っている機関として位置づけられています。
2025年12月10日時点では、次の7社が信用格付業者として登録されています。
- 株式会社日本格付研究所
- ムーディーズ・ジャパン株式会社
- ムーディーズSFジャパン株式会社
- S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社
- 株式会社格付投資情報センター
- フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社
- S&PグローバルSFジャパン株式会社
組み入れている債券が格下げされたら?まとめ #
債券が格下げされると、その債券の市場価格が下がりやすくなり、ファンドの基準価額にマイナスの影響が出る可能性があります。ただし、影響の大きさはファンドの投資方針や保有割合によって異なり、①インデックスファンドでは指数ルールに基づく売却、②アクティブファンドでは運用者の判断による対応が行われます。
1本の債券の格下げが、ファンド全体を大きく揺さぶることは少なく、多くの債券ファンドは高度に分散されているため、影響は限定的となるのが一般的です。