2020年頃から統合報告書と呼ばれる報告書を発行する企業が増えてきました。投資信託においても、2020年2月、国内REIT初となる統合報告書を福岡リート投資法人が発行しました。また、森ヒルズリート投資法人も2022年から統合報告書を発行しています。では、統合報告書とは何でしょうか。
企業が発行する報告書 #
証券取引所に上場している企業が発行する報告書には、有価証券報告書や半期報告書などの法律で定められた企業概況、財務、経営状況等に関する法定開示報告書と、企業が任意で発行する報告書があります。法定開示報告書のうち、金融商品取引法に基づき開示される書類については、金融庁が運営しているEDINET(https://disclosure.edinet-fsa.go.jp)で閲覧することができます。
任意で発行する報告書の中で、近年増加傾向にあるのが、環境報告書です。これは企業や団体などが事業活動によって生じる環境負荷や、環境に対する方針、環境問題に関する取り組みなどを、投資家を含む一般の人々に定期的に公表するものです。また、環境・社会報告書のように、環境だけでなく、地域や社会貢献などの活動に関する情報を一緒にとりまとめた報告書もあります。これをCSR(企業の社会的責任)報告書と呼んだりもします。なお、独立行政法人や国立大学法人等の特定事業者は環境報告書の作成と公表が法律で義務付けられています。
統合報告書 #
一方で、統合報告書は、企業の財務情報とそれ以外の情報、特に、ESG(環境・社会・コーポレートガバナンス)に関する情報を統合した報告書のことです。英語ではIntegrated Reportingと呼ばれます。
統合報告書の内容については、IFRS財団(国際会計基準(IFRS)の策定を担う民間の非営利組織)において、フレームワークがまとめられ、企業等は、このIFRS財団のフレームワーク(IIRF=International Integrated Reporting Framework)に準拠して統合報告書を作成します。上場企業を中心に統合報告書を作成・公表する企業が増えています。
統合報告書の定義 #
International Integrated Reporting Frameworkでは、統合報告書を次のように定義しています。
統合的思考に基づくプロセスであり、その結果、長期的な価値創造に関する組織による定期的な統合報告書と、価値創造の側面に関する関連するコミュニケーションをもたらすもの
統合報告書の目的 #
IIRFでは統合報告書の目的を次のように述べています。
統合報告の目的は以下の通りである:
- 効率的かつ生産的な資本配分を支援するため、金融資本の提供者が利用できる情報の質を向上させる。
- 企業報告に対するより一貫性のある効率的なアプローチを促進し、様々な報告要素を活用し、長期的に価値を創造する組織の能力に重大な影響を与えるあらゆる要素を伝達する。
- 広範な資本に対する説明責任とスチュワードシップを強化し、それらの相互依存関係の理解を促進する。
- 長期的な価値創造に焦点を当てた統合的な思考、意思決定、行動を支援する。
(出所:IIFR、弊社にて翻訳)
統合報告書の内容 #
では、統合報告書にはどのような内容が含まれているのでしょうか。IIRFでは、統合報告書に含める要素として次の8つを挙げています。
- 組織概要と外部環境:組織が何を行うか、組織はどのような環境において事業を営むのか。
- ガバナンス:組織のガバナンス構造は、どのように組織の短、中、長期の価値創造能力を支えるのか。
- ビジネスモデル:組織のビジネスモデルは何か。
- リスクと機会:組織の短、中、長期の価値創造能力に影響を及ぼす具体的なリスクと機会は何か、また、組織はそれらに対しどのような取組を行っているか。
- 戦略と資源配分:組織はどこを目指すのか、また、どのようにそこに辿り着くのか。
- 実績:組織は当該期間における戦略目標をどの程度達成したか、また、資本への影響に関するアウトカムは何か。
- 見通し:組織がその戦略を遂行するに当たり、どのような課題及び不確実性に直面する可能性が高いか、そして、結果として生ずるビジネスモデル及び将来の実績への潜在的な影響はどのようなものか。
- 作成と表示の基礎:組織はどのように統合報告書に含む事象を決定するか、また、それらの事象はどのように定量化又は評価されるか。
統合報告書まとめ #
統合報告書は、企業が財務情報とESG(環境・社会・ガバナンス)情報を統合して発行する報告書です。IIRF(国際統合報告フレームワーク)に準拠し、長期的な価値創造や持続可能性に焦点を当てた情報を提供します。内容には、企業概要、ガバナンス構造、リスクと機会、戦略、実績、見通しなどが含まれます。これにより、投資家や関係者は企業をより多角的に理解でき、ESG投資の拡大に伴い注目が高まっています。