不動産投資信託(J-REIT)のNAV倍率(Net Asset Value倍率)とは、投資口1口あたりの市場価格(投資口価格)が、1口あたりの純資産額(NAV)に対して何倍であるかを示す指標です。
純資産額とは、保有する資産総額から負債を差し引いた額のことで、これを発行済投資口数で除したものが「1口あたり純資産額」となります。
この倍率は、J-REITに投資する際に、投資口価格がその実態価値(NAV)と比べて割高か割安かを判断するための基本的な指標の一つです。
一般的に、1.0倍以上であれば割高、1.0倍未満であれば割安とされます。
NAV倍率の計算式: #
NAV倍率 = 1口あたり投資口価格 ÷ 1口あたり純資産額
◆ 計算例
たとえば、ABCリート投資法人というJ-REITがあり、2024年8月末時点の決算によれば:
• 総資産:3,000億円
• 負債合計:2,000億円
• 純資産額:1,000億円
• 発行済投資口数:70万口
• 投資口価格:180,000円
この場合、
1口あたり純資産額 = 1,000億円 ÷ 700,000口 = 約142,857円
直近の市場における投資口価格が180,000円なので、
NAV倍率 = 180,000円 ÷ 142,857円 = 約1.26倍
したがって、このREITは市場でNAVに対して26%程度割高に評価されていることになります。
実務での活用 #
NAV倍率は、個別銘柄の比較にとどまらず、J-REIT市場全体のバリュエーション水準を把握する際にも有効です。
- 同じ資産タイプ(オフィス、住宅、物流など)のREIT同士を比較
- 市場全体のNAV倍率平均と比べて「割高」「割安」を見極める
- 景気動向や金利環境による価格動向の評価
なお、各投資法人の1口当り純資産額は、各社が公表している決算短信に記載されています。
市場全体のNAV倍率の推移 #
1社だけでなく、複数の投資法人のNAV倍率を比較することも大切です。また、市場全体のNAV倍率を見ることで、市場全体が割高の傾向にあるのか、購入しようとしているリートが市場全体と比べてどうなのかを知ることができます。
不動産証券化協会が公表しているデータによると、J-REIT市場全体のNAV倍率は、2002年以降次のように推移してきました。リーマンショックを受けて投資口価格が下落したために2008年のNAV倍率は0.64まで低下しましたが、その後回復し、2014年には過去最高となる1.57倍となりました。2015年以降は再び低下傾向となり、2025年5月現在のNAV倍率は0.83倍です。

(データ:不動産証券化協会)
NAV倍率のまとめ #
NAV倍率は、J-REITの投資判断において「現在の市場価格が、実質価値と比べて適正かどうか」を知るための重要な評価指標です。1社単独ではなく、複数の銘柄や市場全体との比較を通じて相対的な割安度を見極めることが、堅実な投資判断につながります。