投資信託と有価証券先物取引の関係 #
投資信託の目論見書を読むと、「投資制限」の項目に「有価証券先物取引」という言葉が出てくることがあります。
これは、有価証券先物取引が投資信託の投資対象の一つとして制度的に認められているためです。
ただし、投資信託での利用は自由ではなく、「ヘッジ(リスク回避)」や「効率的運用」の目的に限られ、法律や協会規則に基づいた厳しいルールの下で行われます。
有価証券先物取引とは? #
有価証券先物取引とは、株式や債券などの有価証券を対象に、将来の一定期日にあらかじめ決めた価格で売買する契約のことです。
通常の株式や債券の売買と違い、契約時に売買代金を支払う必要はありません。代わりに証拠金を預けて取引を始め、最終的には差金決済(損益分だけをやり取り)するのが特徴です。
代表的な例としては、東京証券取引所に上場する国債先物取引(3・6・9・12月の各20日に決済される)や、日経225先物やTOPIX先物などの株価指数先物取引(指数を対象とし、差金決済のみで完結)があります。
具体例:債券先物の場合(仮例) #
仮に、2025年12月限の債券先物を139.87円で10枚買い建てし、1か月後に140.03円で売却したとしましょう。
- 購入時:取引額は約13億9,870万円(代金は支払わず、証拠金のみ差し入れ)
- 売却時:取引額は約14億0,030万円
- 損益:差額の160万円が利益(手数料等控除前)
このように、債券先物では取引価格の変動による損益が、差金決済によって清算されます。
投資信託での位置づけ(制度面) #
有価証券先物取引は、法律上も投資信託の運用に組み込むことが認められています。
- 投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)第132条
デリバティブ取引の一つとして位置づけ - 投資信託協会規則第32号(デリバティブ取引に係るリスク管理)
公募投資信託が先物取引を行う際のルールを規定
具体的には、先物取引はヘッジや効率的運用の目的に限られ、実質的なポジション総額が純資産総額を超えることは認められていません。また、運用会社にはデリバティブ取引によるリスク量を日々算定・管理する義務が課せられています。
有価証券先物取引のまとめ #
有価証券先物取引は、株式や債券などを将来の一定期日にあらかじめ定めた価格で売買する契約であり、証拠金を差し入れて始め、差金決済によって損益をやり取りする仕組みを持っています。投資信託においても投資対象の一つとして法的に認められており、実際には債券ファンドが金利リスクを抑えるために国債先物を用いたり、株式ファンドが株価指数先物を利用して効率的に市場エクスポージャーを確保したりと、さまざまな形で活用されています。ただし、その利用はあくまで純資産の範囲内で、ヘッジや効率的運用を目的とする場合に限られており、投信法や協会規則に基づく厳格なルールとリスク管理のもとで行われる点に大きな特徴があります。