ETF誕生の背景 #
現在では、ETF(上場投資信託)は世界中で幅広く利用される投資商品となっています。しかし、その始まりは1990年のカナダにさかのぼります。トロント証券取引所に上場した「TIPS 35(Toronto 35 Index Participation Units)」こそが、世界で最初のETFとされています。
当時、個人投資家が低コストで分散投資を行う手段は限られており、株価指数に直接投資できる商品へのニーズが高まっていました。そうした中で誕生したのがTIPS 35でした。
TIPS 35の仕組み #
TIPS 35は、トロント証券取引所に上場していた時価総額上位35社の株式で構成される「Toronto 35 Index(トロント35指数)」 に連動するよう設計・運用されたETFです。
当時は「ETF」という呼称はまだなく、Index Participation Units(IPU) と呼ばれていました。
その特徴は以下のとおりです。
- 指数連動型:Toronto 35 Indexの値動きに連動
- 取引所で売買可能:株式と同じように証券取引所でリアルタイム売買できる
- 分散投資が容易:個別株を一つひとつ買わずに、指数全体に投資可能
- 低コスト:当時の投資信託よりも手数料が低めに設定された
その後の変遷 #
TIPS 35はその後もカナダ市場の動きにあわせて変化していきました。
- 1999年:カナダの主要株価指数が S&P/TSX 60 Index に改名・拡大されたことに伴い、対象インデックスをS&P/TSX 60に変更。
- 2000年3月:TIPS 35は「TSE 100 Index Participation Fund」と共に、iUnits S&P/TSE 60 Index Participation Fund に統合。
- このiUnitsファンドは、トロント証券取引所に上場する時価総額と流動性の高い60銘柄で構成される S&P/TSE 60インデックス への連動を目指したETFでした。
- その後、名称は iShares S&P/TSX 60 ETF(ティッカー:XIU) に変更され、今もカナダ市場で取引されています。なお、XIUのファンドとしての設定日は1999年9月28日とされていますが、その源流は1990年に誕生したTIPS 35にさかのぼります。
TIPS 35の意義 #
TIPS 35の登場は、投資の世界において画期的な出来事でした。従来はファンドに申込手続きをして購入するのが一般的だった投資信託に比べ、ETFは取引所を通じて即時売買ができる点が革新でした。
さらに、透明性の高い「指数連動」と「低コスト」という特徴は、その後のETF市場の拡大につながります。実際にTIPS 35の成功を受け、アメリカでは1993年に「SPDR S&P 500 ETF(ティッカー:SPY)」が登場し、世界最大規模のETFへと成長していきました。
現在へのつながり #
TIPS 35自体は統合により姿を消しましたが、そのDNAは「XIU」へ受け継がれ、さらに世界のETF市場を発展させていきました。現在も「XIU」は世界で最も長い歴史を持つETFとしてカナダ市場で取引が続けられています。今ではETFは株式・債券・コモディティ・不動産・インフラなど多様な資産に広がり、世界で1万本以上が上場するまでになっています。
TIPS35のまとめ #
世界で最初のETF「TIPS 35」は、1990年にカナダのトロント証券取引所で誕生し、Toronto 35 Indexに連動する商品として運用されました。その後、指数の変更やファンドの統合を経て、現在の iShares S&P/TSX 60 ETF(XIU) へと受け継がれています。ETFが「低コスト・透明性・利便性」を兼ね備えた投資手段として世界中で普及するきっかけとなったのは、このTIPS 35の存在があったからだと言えるでしょう。