投資信託の世界で「AI(人工知能)ファンド」という場合、二つの意味があります。一つは、AI関連銘柄(株式)に投資するファンド、そしてもう一つはファンドの運用にAIを活用するファンドです。
AI関連銘柄に投資するファンド #
AI関連銘柄には、ディープラーニングを含むAI(人工知能)技術の開発に携わる企業、AI技術を利用した製品やサービスの開発・提供を行う企業、AIやビッグデータ分析を行うためのハードウェアを提供する企業、AIを活用して事業を展開する企業などがあり、AI関連銘柄に投資するファンドは、これらの企業の株式に的を絞って投資します。テーマ型ファンドの一つとして捉えることができます。
AI関連銘柄の業種は情報テクノロジーセクターを中心に、一般消費財、通信、ヘルスケア、輸送、不動産、金融など、多岐に渡ります。
わたしたちの周りでも、スマート・スピーカー、お掃除ロボット、自動翻訳、スマホのカメラ機能、自動車の自動運転、病気の症例をAIに読み込ませて診断に活用する技術、工場において不良品を見分ける画像診断技術、AIによる記事作成、AIを利用した資産運用など、
既に日常生活の様々な場所でAIは利用されています。
AI関連銘柄に投資するファンドのリスク #
2016年頃からAIという言葉が注目されるようになるに伴い、AI関連銘柄に投資するファンドも多く設定されるようになりました。AI関連銘柄に投資するファンドにはどのようなリスクがあるでしょうか。
集中投資によるリスク #
AI関連銘柄に投資するファンドは、他のテーマ型ファンドと同様に集中投資によるリスクが伴います。AIの開発やAIを利用したサービス・製品を提供する企業の業種は多岐に渡りますが、AI関連銘柄に投資するファンドの業種別内訳を見ると、情報技術と通信業が占める割合が高い傾向にあります。そのため、それらの業種の株価動向の影響を強く受ける傾向にあります。
例えば、ナスダックに上場しているAI関連銘柄に的を絞って投資する「グローバルX AI&ビッグデータETF」(ティッカーコード AIQ)の業種別内訳を見ると、次のグラフのように情報テクノロジーと通信サービスで全体の8割を占めていることがわかります。業種別内訳はファンドにより異なりますが、傾向としては、情報テクノロジーと通信サービスの占める割合が高くなっています。
情報テクノロジー銘柄のみに的を絞って投資するテーマ型ファンドに比べれば分散は効いていますが、東証株価指数や日経平均株価のように全ての業種に幅広く分散された指数に連動する投資信託に比べると、集中的な投資によるリスク−特定の業種の動向がファンドの基準価額に与える影響が大きくなる−があるわけです。
テーマの継続性についてのリスク #
もう一つのリスクは、AIという投資テーマの人気が継続するか不透明であるということです。株式市場は、常に新しい投資テーマを見つけ、投資信託業界では、そのテーマに沿った投資信託が次々に設定されてきました。AIに関しては、ChatGPT3が公開された2022年から第4次AIブームが始まっていると言われており、これまでに多くのAIファンドが設定されてきました。
2024年時点では、AI関連銘柄の人気は高い傾向にあります。この人気が長期に継続するものかどうかは誰にもわかりませんが、このブームが終わってしまった時に、ファンドはどうなるでしょうか。たとえ、投資対象となっている企業の業績が好調であった場合でも、AI関連株式への人気が後退してしまうこともあります。話題がある時には、割高でも買われる銘柄が、ブームが終われば今度は割高だからという理由で売られることもあります。一般的には、ブームが終わったテーマ型ファンドは資金流出に見舞われ、運用残高の減少を経験することが多くあります。最悪のケースでは、残高減少により、ファンドが繰上償還されてしまうこともあります。テーマ型ファンドでは、そのテーマの持続性が高いものかどうかを十分検討することが大切です。
AI関連銘柄に投資するファンドの例 #
AI関連銘柄に投資するファンドの代表例が「グローバルAIファンド」(運用会社:三井住友DSアセットマネジメント)です。同ファンドは、世界の上場株式を対象に、AIテクノロジーの開発のほか、AIの開発に必要なコンピューティング技術、AIを活用したサービス、ソフトウェア・アプリケーションの提供を行う企業や、AIを活用したサービスを駆使して自社ビジネスを成長させる企業等に投資するファンドとして2016年9月に設定されました。純資産総額は2024年8月現在、4,000億円を超える大型のファンドです。
この他にも、次のようなAI関連銘柄に投資するファンドが運用されています。
ファンド名(運用会社) | 運用会社 | 基準価額(円) | 騰落率(3年) | 信託報酬 | 純資産総額(百万円) |
---|---|---|---|---|---|
グローバルAIファンド | 三井住友DSアセットマネジメント | 41,795 | 13.37% | 1.75% | 422,590 |
グローバルAIファンド(予想分配金提示型) | 三井住友DSアセットマネジメント | 10,410 | 13.47% | 1.75% | 190,107 |
野村グローバルAI関連株式ファンド Bコース | 野村アセットマネジメント | 23,784 | 43.50% | 1.55% | 118,443 |
ニッセイAI関連株式ファンド(為替ヘッジなし)《AI革命(為替ヘッジなし)》 | ニッセイアセットマネジメント | 38,568 | 45.02% | 1.18% | 102,232 |
野村グローバルAI関連株式ファンド Aコース | 野村アセットマネジメント | 16,360 | -6.31% | 1.55% | 64,128 |
ダイワ・グローバルIoT関連株F-AI新時代-(為替ヘッジなし) | 大和アセットマネジメント | 17,565 | 30.97% | 1.12% | 43,675 |
グローバルAIファンド(為替ヘッジあり) | 三井住友DSアセットマネジメント | 23,365 | -27.99% | 1.75% | 37,203 |
ニッセイAI関連株式ファンド(為替ヘッジあり)《AI革命(為替ヘッジあり)》 | ニッセイアセットマネジメント | 24,984 | -7.58% | 1.18% | 35,702 |
グローバルAIファンド(為替ヘッジあり予想分配金提示型) | 三井住友DSアセットマネジメント | 9,329 | -26.33% | 1.75% | 27,286 |
イノベーション・インデックス・AI | 三井住友DSアセットマネジメント | 32,589 | 73.28% | 0.75% | 11,021 |
ダイワ・グローバルIoT関連株F-AI新時代-(為替ヘッジあり) | 大和アセットマネジメント | 13,058 | -15.34% | 1.12% | 8,077 |
ニッセイAI関連株式F(年2回決算型・為替ヘッジなし)《AI革命年2・F》 | ニッセイアセットマネジメント | 12,341 | 44.97% | 1.18% | 6,722 |
ニッセイAI関連株式F(年2回決算型・為替ヘッジあり)《AI革命年2・H》 | ニッセイアセットマネジメント | 10,835 | -7.42% | 1.18% | 4,968 |
また、東京証券取引所に上場している「グローバルX AI&ビッグデータ ETF(銘柄コード:223A)もAI関連銘柄に投資するファンドで、世界のAI(人工知能)およびビッグデータ分析関連の事業を行う企業の株式で構成される「Indxx Artificial Intelligence & Big Data Index(円換算)」に連動する投資成果を目指します。運用会社はGlobal Xです。
ファンドの運用にAIを活用するファンド #
ファンドの運用にAIを活用するファンドとは、運用会社などが独自に開発したAIモデルを活用し、過去の株価や財務に関する膨大なデータをAIに読み込ませ、それらを基にAIモデルが銘柄を評価し、株価の上昇が期待される銘柄を選別して組み入れるファンドです。
ファンドの運用にAIを活用するファンドでは、AIの判断とファンドマネージャー(人間)の判断を融合して運用するファンドとAIが投資判断、取引の執行まで行うAIが運用するファンドがあります。
運用にAIを活用するファンドの例の一つが「AI(人工知能)活用型世界株ファンド(愛称:ディープAI)」(運用会社:アセットマネジメントOne)です。同ファンドは、AI活用型世界株ファンドは、アセットマネジメントOneが開発した「ディープラーニングモデル」による銘柄選択に、ニュースデータ等の「テキスト解析」による投資テーマ、注目銘柄等の情報やアナリストによる銘柄情報を融合させ、ポートフォリオ構築を行います。最新テクノロジーとアナリストによる定性分析の融合を図ることで、リターンの獲得を目指すファンドです。「ディープラーニング」技術を活用した国内初の海外株式ファンドだと言われています。
ファンドの運用にAIを活用するファンドの例 #
ファンド名 | 運用会社 | 基準価額(円) | 騰落率(3年) | 信託報酬 | 純資産総額(百万円) |
---|---|---|---|---|---|
AI(人工知能)活用型世界株F《ディープAI》 | アセットマネジメントOne | 22,922 | 62.82% | 1.44% | 34,681 |
PayPay投信AIプラス | PayPayアセットマネジメント | 18,948 | 52.98% | 0.92% | 13,258 |
AI日本株式オープン(絶対収益追求型)《日本AI(あい)》 | 三菱UFJアセットマネジメント | 8,238 | -3.01% | 1.20% | 1,559 |
この他にも、2018年から2019年にかけて「楽天・ビッグデータ日本株ファンド」(運用会社:楽天投信投資顧問)、「楽天グローバル・プレミア・ファンド(ロボット自動運用型)」(楽天投信投資顧問)、「中国株AI運用ファンド」(運用会社:SOMPOアセットマネジメント)が設定されましたが、これらは繰上償還されており、テーマ型ファンドのリスクを物語っています。
AIは運用が上手いのか #
現在運用されているAIを活用するファンド3本の騰落率(過去3年)は上記の表の通りです。上記3本については、ベンチマークが設定されていないので、運用が上手くいっているか否かは判断できませんが、+62.8%から+3.01%までとファンドにより大きな差があります。一方で、代表的な株価指数の過去3年の騰落率を見ると、MSCI KOKUSAI指数は+67%、S&P500指数は+77%、TOPIXは+57%、NASDAQ100指数は+75%でした。
AI(人工知能)と聞くと、何やらとても賢く、優れた運用ができるようなイメージを受けますが、実際の運用結果からは、AIを活用するからと言って、必ずしも優れた運用実績を残しているわけではないことがわかります。AIモデルの活用が優れた運用を意味する訳でも、他の運用手法よりも優位であることを保証するわけでもありません。
時代の流れの中で、AIファンドだけでなく、様々なテーマ型ファンドが登場しますし、運用の世界においても、他の業界と同様に、AIの活用は益々盛んになると予想されます。しかし、すぐに飛びつくのではなく、5年などの運用実績ができてから、じっくりとその評価をして、それから購入した方が良いでしょう。
AIファンドのまとめ #
AIファンドという場合、①AI関連株式に投資するファンドと②AIを利用して運用を行うファンドという二つの意味があります。AI関連株式に投資するファンドは、他のテーマ型ファンドと同様に、集中投資によるリスクがあります。また、市場の注目が長続きするとは限りません。AIを利用して運用を行うからといって、優れた投資成果が保証されるものでも、他の運用手法に対して優位であるわけでもありません。