投資信託の中には、「ゼロクーポン債(Zero Coupon Bond)」を投資対象としているものがあります。ゼロクーポン債とはどのような債券でしょうか。
ゼロクーポン債は、利子(クーポン)の支払いが一切ない債券です。その代わりに、満期までの利子に相当する分があらかじめ差し引かれた価格で発行され、満期時には額面金額で償還されるという仕組みになっています。
投資信託が投資対象とするゼロクーポン債は、信用力の高い国際機関や政府系が中心となるケースが多いのが実務上の特徴です。日本国内では、円建てのゼロクーポン債は個人向けにはほとんど流通しておらず、実務上は外貨建て債やストリップ債の形で見かけることが多いのが実情です。
クーポン(表面利率)とは? #
債券には、通常「表面利率(クーポン・レート)」と呼ばれる利子の支払い条件があります。たとえば、年2%のクーポンがついている債券なら、投資家はその利子を定期的に受け取ることができます。
一方、ゼロクーポン債は、クーポンが付されていない債券であり、結果として表面利率は0%と表示されます。つまり、利子は一切支払われません。その代わりに、額面よりも大幅に低い価格で購入でき、満期まで保有することで、償還差益として利益を得る仕組みになっています。
利付債との違い #
もっとも一般的な債券は「利付債」と呼ばれ、半年ごとや年1回の頻度で利子が支払われ、満期には元本(額面金額)が返ってきます。たとえば、固定利率0.05%の個人向け国債を100,000円分購入すると、半年ごとに利子(25円・税引前)を受け取りつつ、満期時に元本が戻ってきます。
ゼロクーポン債では、このような利子の支払いはありません。その代わり、割引価格で購入し、満期時に額面金額を受け取るという仕組みになります。
ゼロクーポン債の例 #
たとえば、世界銀行(国際復興開発銀行/IBRD)が発行したメキシコ・ペソ建てのゼロクーポン債券は、2019年6月28日に発行され、償還日は2027年6月30日、通貨はメキシコ・ペソ建てです。
この債券はクーポンが付されていないゼロクーポン債で、満期時には額面金額がそのまま償還されます。現在の市場では、額面100に対して約91.90程度で取引されており、たとえば額面50,000メキシコ・ペソ分を購入する場合、取得価格は約45,950メキシコ・ペソとなります。
仮に、1メキシコ・ペソ=8.5円の為替レートで円換算すると、投資額は 約390,000円(45,950ペソ×8.5円) となります。これを満期まで保有した場合、受け取る金額は 額面50,000メキシコ・ペソ(=約425,000円) です。
この差額である 約35,000円相当 が、利息に相当する償還差益となります。
なお、外貨建て債券であるため、満期時の円ベースでの受取額は、為替レートの変動によって増減する可能性がある点には注意が必要です。
発行体(政府・国際機関)がゼロクーポン債を発行する理由 #
① キャッシュフロー負担を抑えられるため
ゼロクーポン債は、利付債のように定期的な利払いが発生せず、満期時に額面を一括して償還する仕組みです。そのため、発行体である政府や国際機関にとっては、発行後の期間におけるキャッシュアウトを抑えることができます。特に、財政支出や開発支援などで継続的な資金需要を抱える発行体にとって、利払い負担が発生しない点は、予算管理や資金繰りの面で大きなメリットとなります。
② 長期の資金を効率的に調達しやすいため
ゼロクーポン債は、額面より低い価格で発行されるため、長期になるほど発行時点での資金調達額を抑えることができます。発行体は将来の一定時点での返済を前提に、現在の負担を軽減した形で長期資金を確保することが可能です。インフラ整備や開発プロジェクトなど、長期的な資金計画を前提とする政府や国際機関にとって、ゼロクーポン債は調達手段として適した特性を持っています。
③ 投資家ニーズに対応し、市場の選択肢を広げるため
債券市場には、定期的な利払いを重視する投資家だけでなく、満期時の受取金額が確定している商品を好む投資家も存在します。ゼロクーポン債を発行することで、こうした投資家層の需要に応えることができ、投資家基盤の拡大につながります。また、利付債とは異なる性質の商品を提供することで、市場全体の厚みや流動性を高める効果も期待されます。政府や国際機関にとっては、調達手段の多様化を図るという意味でも重要な役割を果たしています。
外貨建てゼロクーポン債の注意点 #
ゼロクーポン債は外貨建てで発行されるケースが多く、表面上の利回りが高く見えることもありますが、その一方でいくつか注意すべき点があります。
① 為替変動リスクが収益を左右する #
外貨建てゼロクーポン債の最大の注意点は、為替レートの変動です。
満期時に受け取るのは外貨ベースの額面金額であるため、円に換算した受取額は、購入時より円高になれば減少し、円安になれば増加します。
ゼロクーポン債は利息の受取りがなく、満期時に外貨を一括で受け取る構造となっています。そのため、為替変動の影響が満期時の受取額に集中します。途中で為替差益・差損を分散させることができない点は、利付債以上に意識しておく必要があります。
② 税務上の扱いが分かりにくい #
外貨建てゼロクーポン債の収益は、利息ではなく「償還差益」として発生します。
日本の税制では、外貨建て債券の償還差益や売却益は、原則として雑所得(総合課税)として扱われ、利付債の利息(申告分離課税)とは課税区分が異なります。
また、為替差益も課税対象となるため、
- 債券自体の値上がりによる利益
- 為替変動による円換算益
が合算されて課税される点にも注意が必要です。税率は個々の所得状況によって異なるため、実際の手取り利回りは事前に確認しておくことが重要です。
※ なお、投資信託を通じて保有する場合は、税務上は分配金や譲渡益として別の課税関係となるため、ここでの説明は「個人が債券を直接保有した場合」の扱いである点に注意が必要です。
③ 途中売却時の価格変動が大きくなりやすい #
ゼロクーポン債は、利付債と比べてデュレーション(価格変動に対する感応度)が大きいという特徴があります。
そのため、金利が上昇すると価格は大きく下落し、金利が低下すると価格は大きく上昇しやすくなります。
満期まで保有せず途中で売却する場合には、
- 金利動向
- 為替動向
の両方の影響を強く受け、想定外の価格となることがあります。外貨建てゼロクーポン債は、価格変動や為替変動の影響が大きいため、結果として満期保有を前提とした運用が想定されやすい商品である点を理解しておく必要があります。
④ 流動性が限定的な場合がある #
外貨建てゼロクーポン債は、一般的な利付債に比べて流通量が少ないケースが多く、売却したいタイミングで必ずしも希望どおりの価格で売れるとは限りません。
特に、
- 既発債
- 新興国通貨建て
- 個人向けに流通している特殊な銘柄
の場合には、スプレッド(売値と買値の差)が広がりやすい点にも注意が必要です。
⑤ 発行体リスクと通貨リスクは分けて考える #
国際機関や政府が発行している外貨建て債券は、一般に信用力が高いと評価されることが多い一方で、
- 発行体リスク(信用リスク)
- 通貨そのものの信用リスク・流動性リスク
は別物として考える必要があります。
たとえば、発行体が世界銀行のような高格付機関であっても、通貨が新興国通貨であれば、為替変動や資本規制などの影響を受ける可能性があります。
ゼロクーポン債のまとめ #
ゼロクーポン債は、利子が支払われない代わりに割安で購入できる債券で、満期まで保有すれば額面との差額が利益となる特徴があります。
利付債と違って定期的な収入はありませんが、将来の一定の収益を狙う長期投資家にとって魅力的な選択肢となることがあります。ただし、為替リスクや満期までの流動性リスクにも目を向けながら、投資判断を行うことが大切です。