「マネー・リザーブ・ファンド(Money Reserve Fund、略称:MRF)」とは、証券総合口座専用に設計された投資信託で、主に短期の公社債やコマーシャル・ペーパー(CP)など、安全性の高い金融商品に投資します。
個人投資家が証券会社に預けた資金は、株式や債券などの購入に使われるまでの間、自動的にMRFで運用される仕組みになっており、待機資金の効率的な管理手段として活用されています。
通常の投資信託とは異なり、MRFは証券取引における資金決済機能も担うため、証券総合口座のインフラ的な役割を果たしています。
MRFの利回りは運用実績により変動しますが、収益分配金は毎日計算され、毎月末に自動的に再投資されます(元本に加算)。購入単位は1円以上1円単位(1口=1円)で、換金も1円単位で可能です。手数料はかかりません。また、多くの証券会社では、500万円程度まで即日引き出しが可能とされていますが、限度額は証券会社によって異なります。
MRFの使われ方イメージ #
MRFは、証券総合口座の中で、以下のような「資金の出入り」の役割を担っています:
1. 株を買うとき:
- 投資家が株式を買うと、MRFに預けていたお金が自動的に解約されて代金に充てられる
→「支払い(決済)」の機能を果たす
2. 株を売ったとき:
- 株式を売却して得た代金は、自動的にMRFで再運用される
→ 「受取り(保管)」の機能を果たす
3. 現金を引き出すとき:
- MRFの残高から、証券会社のキャッシュカードなどで当日引き出しができる場合もある
→ 「決済手段としての現金化」が可能
MRFの特徴 #
特徴 | 内容 |
---|---|
投資対象 | 短期国債、CP(コマーシャルペーパー)、譲渡性預金(CD)など、安全性の高い短期金融資産 |
リスク | 非常に低リスク(元本保証ではないが、元本割れのリスクは極めて小さい) |
運用目的 | 資金を一時的に安全に保管しつつ、普通預金よりも若干高い利回りを狙う |
換金性 | 高い(原則として、いつでも解約・払い戻し可能) |
購入方法 | 株式の買付余力に自動的に使われる証券会社が多い。 |
主なMRFの提供元の例 #
証券会社 | MRF名 | 運用会社 |
---|---|---|
野村證券 | 野村マネー・リザーブ・ファンド | 野村アセットマネジメント |
SMBC日興証券 | 日興MRF | 日興アセットマネジメント |
大和証券 | ダイワMRF | ダイワアセットマネジメント |
みずほ証券 | MHAMのMRF | アセットマネジメントOne |
東海東京証券 | 東海MRF | 三菱UFJアセットマネジメント |
なお、2025年3月末現在、11本のMRFが運用されています。
マネー・リザーブ・ファンド(MRF)の歴史 #
■ 1980年代:誕生の背景
- 1985年頃、日本でMRFの取り扱いが始まる。野村證券が証券総合口座制度を日本で初めて導入しました。この制度により、株式や債券、投資信託などを一括して管理できる口座が誕生し、その口座内の「待機資金(余剰資金)」を安全にかつ効率的に運用するための手段として開発されたのがマネー・リザーブ・ファンド「MRF」です。
- 当時、個人が株式を売却した資金などを一時的に安全に預けておく手段がほとんどなかった。
- 銀行と証券の業務分離(いわゆる「護送船団方式」)のもと、証券会社が銀行預金に代わる資金の待機場所として開発。
- アメリカの「Money Market Fund(MMF)」の仕組みにヒントを得て設計された。
■ 1990年代:普及期
- 証券総合口座の拡大に伴い、MRFが個人投資家の資金運用に組み込まれて普及。
- 株式などの売買代金の受け皿として、また余剰資金の一時的な運用先として使われる。
- 1990年代半ばには、主要証券会社がこぞって自社専用のMRFを提供開始。
■ 2000年代:制度整備と競合商品の登場
- 投資信託制度が整備され、MRFも正式に追加型公社債投資信託として分類される。
- 競合商品として「MMF(マネー・マネジメント・ファンド)」が個人にも浸透。ただし、MRFは換金性や証券口座との連携面で優位。
- この頃、証券口座における自動スイープ機能(資金の自動振替)が普及し、MRFが標準的な待機資金運用先に。
■ 2010年代:低金利と制度変更
- 日本銀行のゼロ金利政策の長期化により、MRFの運用利回りは大きく低下。
- 2016年頃からは一部の証券会社で、MRFへの資金自動振替を停止する動きも出る(コストとリスクの見直し)。
- 一方で、マイナス金利政策下でも元本割れを避けるように設計され、個人投資家の信頼を維持。
■ 2020年代:継続利用と安定資金の運用手段
- 超低金利下においても、MRFは株式売買の資金管理ツールとして継続利用。
- 運用利回りはほぼゼロに近いが、信用リスクの低さと即時換金性が評価される。
- 近年は金利上昇傾向により、わずかに利回りが回復傾向。
- ネット証券ではMRFを導入していない場合もあり、証券業界でも利用のあり方に差が出ている。
- 一方、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)は、2021年頃に個人向けの販売停止
- 楽天証券が、2025年6月より「楽天・マネーファンド」(MRF)の取り扱いを開始すると発表。
マネー・リザーブ・ファンドのまとめ #
MRF(マネー・リザーブ・ファンド)は、証券総合口座専用の投資信託で、短期の安全資産に投資し、待機資金を自動運用します。株式などの売買代金の支払いや受取りに連動し、資金決済機能も果たす仕組みです。1985年に野村證券が初めて導入し、現在も証券口座の基盤的役割として広く活用されています。