新興国の金融市場(エマージング・マーケット)に投資する投資信託は、先進国に投資する投資信託に比べてリスクが高いと一般に認識されています。
ここで言う「新興国」とは、IMFや世界銀行の分類に基づき、経済規模や所得水準は発展途上であるものの、高い成長余地を持つ国々(例:インド、インドネシア、ブラジル、ベトナム、フィリピンなど)を指します。
こうした国々の市場は、構造的な課題や外部環境に対する脆弱性を抱えており、リターンの大きさと同時に不確実性も非常に高いのが新興国投資の特徴です。
1. 構造的リスク #
(1)流動性リスク #
新興国市場は市場参加者が少なく、出来高が限られるため、価格が少額の売買で大きく動く傾向があります。市場が不安定な局面では、売却注文が集中して価格が急落するなど、投資信託の基準価額に大きな影響を与える可能性があります。
(2)法制度・会計基準の未整備 #
株主保護や情報開示の制度が十分に整っていない新興国も多く、国際基準に準拠していない会計処理や不正会計、インサイダー取引といったリスクも見逃せません。訴訟制度や投資家の権利回復手続きが未成熟な場合、問題発生時の対応が困難になります。
(3)情報の非対称性 #
財務情報の開示が限定的だったり、経済統計の信頼性が低かったりすることで、企業や市場の実態を正確に把握しにくくなります。これにより、誤った投資判断が下されるリスクが高まります。
2.外部要因リスク #
(1)政治的リスク #
政権交代、資本規制、通貨政策の転換などが突発的に起こるリスクがあります。たとえば2021年、トルコでは中央銀行総裁の更迭を受けてトルコリラが急落し、新興国ファンドに大きな影響を与えました。こうした事例は市場心理を冷やし、資金流出や為替急落につながるおそれがあります。
→トルコリラ対円のチャート(Investing.com)
(2)通貨リスク #
新興国通貨は対円・対ドルでの変動幅が大きく、現地株価が好調であっても、為替変動によって円建てリターンが大きく損なわれる可能性があります。
特に新興国では、財政赤字の拡大や政治不安、資本規制の導入といったカントリーリスクが通貨の信認に直結し、急激な通貨安を引き起こすことがあります。たとえば、国際的な信用不安が生じると、現地通貨が短期間で急落することがあり、外貨建てで投資する投資信託にとっては大きな損失要因となり得ます。
為替ヘッジを行っていないファンドでは、この影響が基準価額に直接反映されるため、通貨リスクとカントリーリスクの双方を意識した運用判断が必要です。
(3)外的ショックに対する脆弱性 #
米国の金利引き上げ、中国の景気後退、地政学的緊張(例:ウクライナ情勢など)は、新興国市場に対して過度な反応を引き起こすことがあります。結果として、投資信託の基準価額が短期的に急変することがあります。
3. ボラティリティと実例 #
新興国市場はしばしば高いボラティリティを伴います。以下のMSCI指数の年次騰落率を見ると、先進国と新興国のパフォーマンスには大きな差があることがわかります。
年 | MSCI World(先進国) | MSCI Emerging(新興国) |
---|---|---|
2020 | +15.9% | +18.31% |
2021 | +21.82% | -2.54% |
2022 | -18.14% | -20.09% |
2023 | +23.79% | +9.83% |
2024 | +18.67% | +7.50% |
(出所:MSCI、2024年ファクトシート、Net Return米ドル建て)

2021年のように、先進国が2桁のプラスを記録する一方で、新興国がマイナスとなるなど、両者の乖離が顕著な年もあります。このように、新興国投資はタイミングによってリターンの振れ幅が大きくなる特徴があります。
4. 成長性という魅力 #
一方、新興国には高い成長率という魅力もあります。たとえば、2025年4月に公表された「IMF世界経済見通し」によると、先進国の2025年と2026年の経済成長予測が各々1.4%と1.5%であるのに対し、新興市場国・発展途上国の成長予測は3.7%と3.9%となっています。
都市化や人口増加、インフラ整備といった構造的な成長要因を背景に、投資機会が拡大している国も多く存在します。例えば、インドは2025年の経済成長が6.2%、2026年が6.3%と高い成長が予測されています。
ただし、高成長が必ずしも安定した投資リターンをもたらすとは限らない点には注意が必要です。成長の果実を確実に享受するためには、制度や市場インフラの整備が追いついているかも重要な視点です。
5. 投資判断に必要な視点 #
新興国投資信託を選ぶ際には、以下のような具体的視点が重要です。
- 自身のリスク許容度(基準価額のブレにどこまで耐えられるか)
- 投資対象国の政治・経済情勢(特定国への偏重がないか)
- ファンドの国別構成比率やその推移
- 為替ヘッジの有無と運用方針
- 過去のドローダウン(最大下落率)やリターンの推移
新興国投資信託がリスク高とされる理由まとめ #
新興国に投資する投資信託には、流動性の低さ、政治・制度面の不安定さ、情報開示の不備、通貨の不安定さといった多様なリスクが存在します。一方で、高い経済成長のポテンシャルを備えた投資先でもあります。
重要なのは、こうしたリスクを正しく理解し、自身の投資目的や許容度と照らして適切に判断することです。投資対象として新興国を検討する際には、期待リターンだけでなく、その裏側にある不確実性とどう付き合うかを冷静に見極めることが求められます。