投資信託の投資対象の一つに超長期国債があります。超長期国債とは、償還期間(満期)が10年を超える国債のことです。
日本では、20年国債・30年国債・40年国債が代表的で、主に年金基金や生命保険会社など長期運用を行う機関投資家が中心に取引しています。
利回りを長期間にわたり固定できる一方、金利変動の影響を大きく受けることから、メリットとリスクが明確な商品として知られています。
超長期債券の定義(日本の国債の分類) #
日本では、国債は償還期間によって以下のように分類されています。
| 区分 | 償還期間 |
| 短期債(T-Bill) | 1年以内(3カ月、6カ月、1年など) |
| 中期債 | 1年超〜5年以内 |
| 長期債 | 5年超〜10年以内 |
| 超長期債 | 10年超〜 |
つまり、10年を超える償還期間を持つ債券はすべて“超長期債”です。とくに以下の国債が「超長期債」として市場で広く取引されています。
- 20年国債
- 30年国債
- 40年国債
米国の超長期国債 #
米国では、債券には、満期の違いにより短期債、中期債、長期債、超長期債がありますが、日本とは期間の定義に違いが見られます。米国政府の発行する債券の場合は、次の表のように、償還期間の違いにより、Treasury Bill(トレジャリー・ビル)、Treasury Note(トレジャリー・ノート)、Treasury Bond(トレジャリー・ボンド)があり、米国財務省によると、各債券の償還期間は次の通りです。
| 債券の種類 | 日本語訳 | 償還期間 |
|---|---|---|
| Treasury Bill | 短期国債 | 52週以内 |
| Treasury Note | 中期国債 | 2年、3年、5年、7年、10年 |
| Treasury Bond | 長期国債 | 20年、30年 |
このように、日本語では、トレジャリー・ビルは短期国債、トレジャリー・ノートは中期国債、トレジャリー・ボンドは長期国債と訳されています。ビル(bill)、ノート(note)、ボンド(bond)と異なる英語が使われますが、日本語では全て債券として訳され、このトレジャリー・ボンドが日本でいうところの超長期国債に該当します。なお、米国では、償還期間が最も長い国債は30年債です。
米国でも「50年債」「100年債」など、さらに長期間の 超長期国債 の発行は議論されてきましたが、現時点では発行されていません(2025年10月現在)。
欧州のケース #
欧州では、2016年3月に、アイルランドが私募により償還期間が100年の債券を発行しました。 同年4月にはフランスとベルギーの各政府が償還期間が50年という超長期債券を発行し、5月にはスペインがこれに追随し、同じく50年債を発行しています。オーストリアも2017年および2020年に100年債を発行しており、欧州は超長期国債の発行が比較的進んでいる地域といえます。
超長期国債の特徴 #
① 長期間の利回りが確定する #
発行時に決まる固定利率が長期間続くため、将来の金利変動に左右されず、利息収入を長く受け取れる点が特徴です。
特に低金利期に購入できれば、相対的に有利な利回りを長く確保できます。
② 金利変動の影響を最も強く受ける(デュレーションが長い) #
超長期債は満期が非常に長いため、金利がわずかに動いただけで価格が大きく上下します。
• 金利が上昇 → 債券価格は大きく下落
• 金利が低下 → 債券価格は大きく上昇
例:40年国債は、10年国債に比べて2倍〜3倍近い価格変動を起こすことがあります。
③ 長期金利の指標として利用される #
超長期国債の利回りは、以下のように重要な市場指標の役割があります。
• 年金基金・生命保険会社など、長期負債を持つ機関投資家の運用基準
• 将来のインフレ期待
• 長期の資金調達コスト
• マーケット全体の長期金利の見通し
超長期国債のメリット #
- 長期の利回りを確保できる
長い期間金利を固定できるため、低金利期に購入すれば非常に有利となることがあります。 - 金利低下局面で大きな値上がり
金利低下の恩恵を最も強く受けるのが超長期債です。
少しの金利低下でも価格が大きく上がるため、相場環境次第では大きな利益になります。 - 機関投資家の長期運用ニーズに合う
年金・生保など、長期の支払い義務を持つ機関投資家にとって重要な商品です。
超長期国債のデメリット・リスク #
- 金利上昇に極端に弱い
最大のリスクはこれです。
• 金利が 1% 上昇 → 債券価格が 20〜30% 下落の可能性
• 株式に近いレベルの変動を起こすことも
金利上昇局面では大きな評価損が発生しやすい点に注意が必要です。 - インフレによる実質利回り低下
一定の固定利息を長期間受け取るため、物価上昇(インフレ)に弱いという性質があります。 - 中途売却リスク
満期まで保有すれば元本は返ってきますが、途中で売却する場合はその時の金利水準によって損益が大きく変わります。
超長期国債はどんな投資家に向いている? #
• 長期の利息収入を確保したい人
• 金利が今後低下すると見込んでいる人
• 債券価格の変動リスクを理解した上で保有できる人
一方で、短期売買には不向きであり、インフレが続く局面では不利になりやすい商品です。
超長期国債に投資する投資信託の例: #
投資信託(非上場) #
- ラップ向け日本超長期国債インデックスファンドII
- 日本超長期国債インデックスファンド(ラップ向け)
国内ETF(東京証券取引所上場) #
- iシェアーズ 米国債20年超 ETF(為替ヘッジあり)(2621)
- iシェアーズ 米国債20年超 ETF(2255)
- グローバルX 超長期米国債 ETF(為替ヘッジあり)(179A)
- グローバルX 超長期米国債 ETF(180A)
- MAXIS米国国債20年超上場投信(為替ヘッジなし)(182A)
- MAXIS米国国債20年超上場投信(為替ヘッジあり)(183A)
- iシェアーズ 米国債25年超 ロングデュレーション ETF(237A)
- iシェアーズ 米国債25年超 ロングデュレーション ETF(為替ヘッジあり)(238A)
海外ETF #
日本で証券会社を通じて購入できる外国籍投資信託(ETF)の中に、超長期国債を投資対象とするETFがあります。
- バンガード・超長期米国債ETF(EDV)
- iシェアーズ 米国国債 20年超 ETF(TLT)
上記はいずれも超長期国債を投資対象とするETFですが、平均残存期間や構成比率はファンドにより異なりますので、詳細は各ETFのホームページでご確認下さい。
2000年以降の超長期債へのシフトと現状 #
2000年以降、各国政府は財政赤字拡大や低金利環境を背景に、国債の償還期間を長期化する動きを強めてきました。特に欧州諸国や日本では、20年・30年・40年といった超長期債の発行を増やし、借り換え(ロールオーバー)リスクを減らすとともに、歴史的に低い金利を長期間固定できるメリットを重視してきました。また、年金基金や生命保険会社など、長期負債を抱える機関投資家による安定した需要が存在したことも、超長期債の発行を後押ししました。
しかし、2021年以降の世界的なインフレと急速な金利上昇により状況は大きく変化しました。超長期債はデュレーションが長く金利変動の影響を強く受けるため、利回り上昇に伴う大幅な価格下落が発生し、投資需要は弱まりました。また、期間プレミアム(超長期を保有するための上乗せ金利)が上昇したことで、政府にとって超長期債の発行コストは以前より高くなり、発行を絞る動きが見られます。特に日本では、40年債や30年債の入札需要が弱まり、財務省が発行額を削減する方針を示すなど、発行戦略の見直しが進んでいます。
総じて、2000年以降は「低金利を長期間固定したい政府」と「長期運用を求める機関投資家」の思惑が一致し、超長期債の発行は拡大してきました。しかし現在は、金利上昇とインフレにより需要と供給のバランスが崩れ、超長期債市場は調整局面に入っています。今後は、金利水準・インフレ期待・政府の財政運営方針・機関投資家のリスク許容度といった複数の要因が、超長期債の発行戦略に大きな影響を与える状況となっています。
超長期国債のまとめ #
超長期国債とは、償還期間が10年を超える国債のことで、日本では20年・30年・40年国債が代表的です。長期間にわたり利回りを固定できるため、低金利期に購入すれば有利な利息収入を得られる一方、金利変動の影響を非常に受けやすく、価格の振れ幅が大きいという特徴があります。金利が低下すれば大きく値上がりし、逆に金利が上昇すると大きく下落するため、金利環境の変化に敏感な投資商品といえます。
そのため、超長期国債は長期の運用を重視する投資家や、将来の金利低下を見込む投資家に向いている一方、短期売買には不向きで、インフレ局面では実質利回りが低下するリスクもあります。金利の方向性を理解しながら長期的な視点で取り組むことが重要となる債券です。