モーゲージ証券(MBS = Mortgage-Backed Securities)は、私たちが住宅を購入する際に利用する住宅ローン(=モーゲージ)を担保として発行された債券です。モーゲージ担保証券、住宅ローン担保証券とも呼ばれます。債券に投資するタイプの投資信託(債券ファンド)の一部が、MBSを組み入れています。
モーゲージ証券の仕組み #
まず、個人に住宅ローンを貸し出した銀行などの金融機関は、住宅ローン債権を保有します。これを、モーゲージ証券を発行する専門の金融機関に売却します。買い取った住宅ローン債権をもとに、その金融機関がモーゲージ証券を発行します。このプロセスを「住宅ローン債権の証券化」と呼びます。
こうして発行されたモーゲージ証券は、投資信託を含む投資家に販売されます。モーゲージ証券では、住宅ローンの借り手が返済する元金と利子が、そのまま証券の元本と利子の支払原資となります。
住宅ローンの借り手が返済を滞納した場合でも、多くのモーゲージ証券では、政府系機関や信用力の高い金融機関によって元利金の支払が保証されています。
米国では、ジニーメイ(GNMA:Government National Mortgage Association、連邦政府抵当金庫)が発行するモーゲージ証券について、連邦政府が元利金の支払いを明示的に保証しており、信用力の高い投資対象とされています。
一方、ファニーメイ(FNMA:Federal National Mortgage Association、連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(FHLMC:Federal Home Loan Mortgage Corporation、連邦住宅金融抵当金庫)が発行するモーゲージ証券についても、元利金の支払いはそれぞれの機関が保証していますが、これは米国政府による明示的な保証ではなく、各機関の信用に基づく保証です。
両社は2008年の金融危機以降、連邦住宅金融庁(FHFA)の保全管理下(政府の監督下)に置かれていますが、法的には引き続き民間企業である政府支援機関(GSE)に分類されており、政府が直接債務を保証しているわけではありません。
モーゲージ証券のリスク #
モーゲージ証券には、特有のリスクとして「繰上償還(プリペイメント)リスク」があります。これは、住宅ローンの借り手がローンの一部または全額を予定より早く繰上返済することで、モーゲージ証券の投資家が早期に元本の償還を受けることになるリスクです。
繰上返済は借り手の判断によって行われるため、そのタイミングや金額を正確に予測することは困難です。特に金利が低下すると、借り換え需要が高まり、繰上返済が増加する傾向があります。
これにより投資家は、早期に返済された元本を再投資する必要が生じますが、同等の利回りで再投資できるとは限らず、「再投資リスク」も伴います。
このような不確実性があるため、モーゲージ証券は同じ格付けの社債などと比較して相対的に高い利回りが設定される傾向があります。
米国MBS市場の特徴 #
米国のモーゲージ証券(MBS)市場は、住宅ローンを担保とする債券市場としては世界最大級の規模を誇ります。市場残高は11兆ドル以上にのぼり、米国債に次ぐ第2位の債券市場です。
中でも、政府関連機関(Agency)によって発行・保証される「Agency MBS」が、約8〜9兆ドルと市場の大部分を占めています。毎日の取引高は約3000億ドルに達し、流動性が非常に高いことも大きな特徴です。
中央銀行、年金基金、保険会社など、機関投資家による保有が中心となっています。
米国MBS市場の発行額推移
以下のチャートは、米国のモーゲージ証券(MBS)の発行額推移を示しており、2024年5月から2025年5月までの1年間をカバーしています。

- Agency MBS が常に最も多く、発行額の大半を占めています。特に 2024年11月と2025年5月に発行が増加しています。
- Agency CMO(政府関連機関が保証する担保付モーゲージ債務) も安定して発行され、全体の中で一定の割合を維持しています。
- CMBS(商業用不動産担保証券) や RMBS(民間住宅ローン担保証券) は、少量ながら継続的に発行されており、CMBSには月ごとの変動が見られます。
- 全体として、月次発行額は概ね1000億〜1600億ドルの範囲で推移しています。
このチャートからは、米国MBS市場では、政府系証券の支配的な地位と、季節変動的な発行量の推移が見て取れます。
モーゲージ証券を投資対象とするETFの例(2025年6月20日現在) #
以下は、米国MBSに投資する代表的なETFです。一部の日本の証券会社(例:楽天証券など)を通じて購入可能です。
- iシェアーズ 米国MBS ETF(MBB)
米国政府機関が発行または保証する投資適格モーゲージ・パススルー証券に分散投資し、バークレイズ米国MBS指数に連動する成果を目指すETF。ニューヨーク証券取引所アーカに上場。 - バンガード・米国モーゲージ担保証券ETF(VMBS)
米国政府が発行または保証するMBSに投資。中期の住宅ローン債権が対象で、信託報酬は年率0.05%と低水準。毎月で分配金が支払われます。 - SPDR ポートフォリオ・モーゲージ債券ETF(SPMB)
ブルームバーグ米国MBS指数に連動。Fannie Mae、Freddie Mac、Ginnie Maeが発行するMBSに分散投資し、平均満期約8年の中期債券を中心に構成。信託報酬は年率約0.05%(純経費率0.04%)で、毎月分配あり。
モーゲージ証券のまとめ #
モーゲージ証券(MBS)とは、住宅ローンを担保に発行される債券で、米国では政府関連機関が発行・保証する「Agency MBS」が市場の大半を占めます。元利金は借り手の返済を原資とし、多くは保証がついていますが、繰上償還リスクや再投資リスクがあるため、一般の社債より高めの利回りが設定される傾向があります。米国のMBS市場は約11兆ドルと非常に大きく、流動性も高く、ETFを通じた投資も可能です。