不動産投資法人(REIT)の決算短信などを見ると、分配金が2種類に分かれて記載されていることがあります。一つは通常の利益に基づく分配金で、もう一つは「利益超過分配金」と呼ばれるものです。
利益超過分配金とは、会計上の利益を超えて投資主に支払われる分配金のことであり、税務上は「出資の払戻し(出資等の減少)」とみなされます。この部分は、受領時に課税されず、代わりに投資口の取得価額を減額する仕組みとなっています。その結果、将来その投資口を売却した際の譲渡益が増加し、課税は譲渡時に行われることになります。
通常の分配金 #
不動産投資法人は、税法上の特例(租税特別措置法第67条の15)を活用するために、原則として税務上の利益の90%超を投資主に分配します。この要件を満たすことで、その分配金額が法人税法上、損金として認められ、法人税が実質的に課されない仕組みです。
税務上の利益は通常、会計上の税引前当期利益と一致または近い額となるため、1口当たりの通常分配金は、1口当たり当期純利益と同程度になるのが一般的です。この部分が「利益に基づく通常の分配金」に該当します。
利益超過分配金 #
一方、不動産投資法人は、投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)に基づき、会計上の利益を超えて金銭を分配することが認められています(投信法第137条)。この制度により、利益を上回る分配金が支払われる場合があり、そのうち税法上「出資の払戻し」に該当する部分が「利益超過分配金」と呼ばれます。
たとえば、GLP投資法人では、2025年2月期の決算において、1口当たり3,136円の通常分配金に加え、298円の利益超過分配金が支払われ、合計で3,434円となりました。前者は利益に基づく配当、後者は税法上の出資の払戻し(いわゆる元本の返還)に相当します。
決算期 | 営業収益(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 当期純利益(百万円) | 1口当たり当期純利益(円) | 1口当たり分配金(円) | 利益超過分配金(円) |
2025年2月期 | 29,077 | 16,527 | 14,857 | 15,045 | 3,105 | 3,136 | 298 |
利益超過分配金の原資 #
利益超過分配金は、一般に「内部留保された現金」から支払われます。この内部留保の代表的なものが、減価償却費です。
不動産投資法人は、保有する建物等に対し毎期減価償却費を計上しますが、これは会計上の費用であって実際に現金が支出されるわけではありません。そのため、帳簿上の利益は減少するものの、減価償却費に相当する現金が法人内に留保されます。このようにして生じた現金を活用し、会計上の利益を超えて分配する際に用いられるのが、利益超過分配金です。
なお、投資信託協会の自主規則(不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則第28条)では、毎期計上する減価償却費の60%を上限として分配に充てることが可能とされています。この規則に則って、多くのREITでは安定的に利益超過分配を実施しています。
利益超過分配を行う理由 #
不動産投資法人が利益超過分配を行う理由の一つは、分配金の安定化です。たとえば、地震や災害などにより建物に損害が発生し、その修復費用を計上すると、会計上の利益が一時的に大きく減少します。これにより通常の分配金が減ってしまうおそれがありますが、減価償却による現金留保などを活用して利益超過分配を行うことで、投資主に対して安定した分配金の支払いを維持することができます。
実際の例として、イオンリート投資法人では、2016年に発生した熊本地震の影響により当期利益が大きく減少した際、減価償却費の約60%を原資として1口当たり1,450円の利益超過分配金を支払いました。
また、一部のREITでは、分配方針として毎期継続的に利益超過分配金を支払うことを基本方針としており、内部留保の有効活用の一環として位置づけられています。
利益超過分配金のまとめ #
利益超過分配金とは、不動産投資法人が会計上の利益を超えて支払う分配金のうち、税法上「出資の払戻し」とみなされる部分を指します。受領時には課税されず、代わりに投資口の取得価額が減額されるため、将来の譲渡時に課税される仕組みです。