金融庁の「金融モニタリングレポート」から学べる教訓


金融庁は、昨年公表した金融モニタリング基本方針に基づく1年間の金融モニタリングの成果を「金融モニタリングレポート」として2015年7月3日に公表しました。このレポートから、運用会社の実態だけでなく、投資信託への投資に当たって注意すべき点など多くのことが学べると思います。

今回のモニタリングの中で、投資信託の運用会社については、運用態勢についてのモニタリングが行なわれました。

レポートによると、日本の公募投資信託の数について、その数は米国の70%に達するものの、その残高は米国の5%に過ぎず、その結果、1本当たりの残高平均は米国の7%にとどまっているということです。

 

【日本と米国の投資信託残高等の比較】
  ファンド数 残高

1本当たりの残高平均

日本 5,539本 97兆円 175億円
米国 7,986本 1,940兆円 2,429億円

(出所:金融モニタリングレポート2015年7月)

また、レポートによると、株式投資信託については、運用期間が1年超のものについて、残高別の分布状況(本数ベース)をみると、100億円超は2割に過ぎず、30億円以下が6割を占めており、少額の投資信託が多数存在している状況であり、2011年に新規設定された投資信託について、その後の残高推移をみると、7割の投資信託がピークでも100億円に到達していないということです。

つまり、ファンド1本1本が小さいのです。ファンドの規模が小さすぎると、想定していた分散投資ができないということにもなりかねず、場合によってはファンドが繰上償還されてしまうこともあります。実際に、ファンドの規模が小さすぎて効率的な運用ができないという理由で、過去何年にもわたり、毎月、多くのファンドが繰上償還されてきました。

金融庁は、また、レポートの中で「投資信託運用業者において、個々の投資信託の運用残高が増えなければ、運用コストが下がらず、また、投資信託数が多くなれば、運用者による管理が行き届かなくなるおそれがある。これらは、いずれも投資運用業者の運用効率の低下につながり、投資家が支払うコストを軽減することも難しくなる」と指摘しています。

更に、金融庁は、検証結果の中で次のような厳しい指摘もしています。

日本において、小口の投資信託や分配頻度が高い投資信託、売れ筋の資産等を投資対象とした投資信託が多数存在する背景として、投資運用業者が、顧客のニーズや利益よりも、短期間での乗換え売買により手数料の確保を図るといった販売会社のニーズを優先していることが考えられる。また、運用を外部委託する投資信託の比率が高い背景として、運用の専門人材の育成・確保が十分進んでいないことが考えられる。

・・・販売会社にとってうりやすい資産を対象とした投資信託や、仕組みが複雑で高い販売手数料を得られる投資信託が多数提供されている現状をみると、投資運用業者が、顧客のニーズよりも、系列の販売会社のニーズに重きを置いているのではないかとの見方もできる。

 

ファンドを購入している投資家にとっては、運用会社に対して思い描いていたイメージとのギャップに驚かれる人も多いと思います。レポートには、この他にも個人投資家にとっても有益な情報が含まれています。レポート全体については、金融庁のHP http://www.fsa.go.jp/news/27/20150703-2.htmlでダウンロードできます。

なお、今回の検証結果から、私たち個人投資家は、運用会社やファンドを選択する際に、

  • 同じようなファンドを次々に設定する運用会社は避ける
  • ファンドを設定しては次々に繰上償還する運用会社は避ける
  • 外部委託の多い運用会社は避ける
  • 複雑なファンドは避ける
  • 信託報酬や手数料の高いファンドは避ける
  • 残高の小さいファンドは避ける

といった教訓を学べると思います。なお、新規に設定されるファンドの一覧及び償還されたファンドの一覧は、投資信託協会のHPで毎月公表されています。投信資料館においても、毎月、償還ファンドの一覧は掲載しています。また、ファンドの信託報酬や純資産総額については、評価会社のHPなどで確認・比較が可能です。2015年5月末現在での、純資産総額上位50位のファンドについては、こちらでご覧頂けます。