米国の401kとはどのような制度だったか


米国の401kとはどのような制度なのか

日本でも2001年から確定拠出型年金制度が導入されましたが、この年金制度が「日本版401kプラン」と呼ばれていたのは、この制度が既に米国で導入され急成長を遂げた確定拠出型年金401kプラン(401k Plan)を手本にしていたためです。

では手本とされた米国の401kプランとはどのような年金制度でしょうか?そして、なぜ急成長を遂げたのでしょうか?

(注意:ここに記載されている内容は、日本が確定拠出年金制度を導入した2001年当時のものです。)

 

米国の年金制度

米国の年金制度は公的年金と私的年金で構成されています。公的年金は国や地方自治体などが運営している年金です。私的年金はそれ以外の年金で、企業が運営する企業年金と個人が加入する個人年金があります。 公的年金は社会保障制度(Old-Age, Survivors, Disabled, Health Insurance = OASDHI)と連邦職員退職制度、州・地方自治体職員退職制度、鉄道職員退職制度に分類されます。

 

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一般に米国民の公的年金といわれている社会保障制度(OASDHI)は連邦政府が運営する制度で、1935年制定の社会保障法に基づいて創設されています。財源は社会保障税であり、急速な高齢化により積立金が将来減少していくことが予想されます。給付水準も低く、現在の支給金額は月額で約780ドルほどです(Social Security Advisory Service 「The 1999 “Numbers”」より)。ドル円レートを110円として日本円に換算すると85,800円という金額です。これは老後の保障としては必要最低限であり生活水準を退職前と同じように保つには十分ではありません。

将来の年金給付積立資産の減少、低年金受給額という2つの大きな不安から米国では公的年金だけでは老後の生活保障を十分に補えないという考え方が広まっており、公的年金の不足分を補うために私的年金、中でも企業年金に頼る割合が大きくなっています。

私的年金は個人年金と企業年金に分類され、個人年金には個人退職勘定(Individual Retirement Account = IRA)、自営業者退職制度(キオプラン)があります。 企業年金は確定給付型年金(Defined Benefit Plan = DB)と確定拠出型年金(Defined Contribution Plan = DC)から構成されています。また確定拠出型年金には図のように従業員貯蓄制度・利益分配制度・株式賞与制度・マネーパーチェス制度があり、このうち、401条k項の要件を満たしたものを401kプランと呼びます。

 

401kプランの誕生

1940年に入ると多くの企業年金が設立されるようになりましたが、現在の企業年金制度運営の基盤が作られたのは1974年に従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act)通称「エリサ法」が制定されてからです。

それまでは、内国歳入法で税制適格の企業年金の要件は定められていましたが、年金財政を健全に運営維持する義務が企業になく、そのため企業倒産などにより従業員への給付ができなくなるということが発生しました。 このような状況のなか、国民からは、公的年金の支給水準がもともと低いこともあり、私的年金機能の拡充を求める声が多く存在していました。

エリサ法はこのような社会的状況を受けて受給権保護を目的に制定されました。エリサ法では以下の内容が制定されています。

  1.  企業年金財政の情報開示(ディスクロージャー)
  2. 加入資格と受給権付与の基準の設定
  3. 最低積立額基準の設定
  4. 受託者責任の設定
  5. 制度終了保険(Pension Benefit Guarantee Corporation = PBGC)の創設
  6. 個人所得勘定(IRA)の導入

エリサ法制定から4年後の1978年、内国歳入法に401条k項が追加され「所得税繰り延べ」が制度として認められました。この追加された「所得税繰り延べ」制度が401条k項であったため、この要件を満たした年金制度は401kプランと呼ばれ、ここに401kプランが誕生したのです。

その後、1981年には内国歳入庁からガイドラインが発表され401kプランは年金制度の分野で目覚しい発展を遂げていきます。401kプランは将来の生活水準を退職前と同じように保つため、公的年金制度の不足分を補う制度として誕生したといえます。

 

米国の401kプランについて

401kプランとは、米国の内国歳入法の401条a項の要件において税制適格な確定拠出型年金(DC)で、さらに401条k項の要件を満たしたものを指します。条文上の正式名称は、即時/据え置き選択制度(Cash or Deferred Arrangement = CODA)となっています。

従業員が給料やボーナスを企業から支払われた時点で受け取るか、または将来、年金や一時金として受け取るかを選択するという制度です。 401kプランは毎月決まった掛金を拠出して積み立て、積立金の運用結果次第で将来受け取る年金額が変動します。従業員は給料やボーナスから一定の資金を拠出し、将来に備えて自分でその資金を運用することで401kプランを利用しています。

401kプランを代表とする確定拠出型年金(DC)には他にマネーパーチェス制度、利益分配制度、株式賞与制度(これらは内国歳入法の401条a項の定める要件を満たしている税制適格年金です)があります。

マネーパーチェス制度は、企業が従業員の給料の一定割合を拠出し、各従業員の口座に積み立てる制度です。利益分配制度は、企業が企業収益に応じて企業拠出額を決定し、各従業員の給料や勤続年数によって、従業員の口座に分配する制度です。株式賞与制度は、企業の拠出金で自社株を購入し、その自社株を従業員に割り当てる制度です。 このように、この3制度はいずれも掛金の拠出が企業中心に行われ、企業の拠出掛金が損金に算入されるかたちで企業は税制上の優遇を受けています(企業にとっては節税となります)。

これに対し、401kプランは企業ではなく従業員が主体となって掛金の拠出を行い、税制上の優遇は企業に対してだけでなく、従業員に対しても所得税の繰り延べという形で与えられています。つまり、401kプランは税制上の優遇のついた企業年金となります。

 

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では実際に米国の401kプランとはどのような仕組みで運営され、どのような特徴があるのでしょうか? 一般的には従業員は各自に設けられている「従業員勘定」に所得税課税前に限度額範囲内で給与天引きによって拠出します。企業は通常従業員拠出額の範囲内で掛金を追加拠出(マッチング拠出)します。企業側の拠出は任意ですが、マッチング拠出は損金扱いとなりますので、企業側にとっては節税となります。

掛金の運用は企業が提供する投資信託などの運用商品の中から従業員が自己責任において選択します。そして、そこから出た運用益は掛金と同様に給付時まで課税が繰り延べられます。給付時まで課税が繰り延べられる点は401kプランだけに設けられている優遇措置であり、このプランが拡大している理由です。

 

米国で401kが支持された理由

米国において、401kプランが企業サイドと従業員サイドから多くの支持を得ているのには、税制上の優遇の他にいくつかの利点があるからだといえます。

従業員サイドの利点としては、これまで述べた税制優遇の他に、次のものもあります。

  1. 各個人別に「従業員勘定」があり給与天引きで自動的に積立てされるので拠出時の手続きもなく各自の残高や資産配分等を把握しやすくなっています。このため確定給付型年金と比べ透明性が高くなります。
  2. 転職先への資産移管が可能であり、転職先に401kプランがない場合にはIRA(個人退職用積立勘定)に非課税で移管でき、携帯性(ポータビリティ)があるので転職の妨げにならず、雇用の流動性の足かせになりません。
  3. 制度への参加は任意であり、規定の範囲内で拠出額や運用先を指定、変更することができます。

 

企業サイドからの利点は、次のものがあります。

  1. 将来の年金給付額が一定の算式で決められている確定給付型では、もし運用状況が悪く年金資産の積立が不足した場合、企業が不足分を補わなければなりませんが、401kプランでは運用状況の悪化などでの利差益による追加拠出の必要がないので、経営に悪影響を及ぼすことが少なくなります。この企業補填は現在、日本においても企業経営を圧迫している最大の問題点です。
  2. 確定拠出型では年金数理計算などの運用事務の負担が少なく、拠出額(従業員、企業側共)や制度の運営費用も損金算入が可能です。

 

以上が利点ですが、もちろんこれとは逆にデメリットもあります。 たとえば、制度が税制適格であるため満たさなければならない要件が複雑で、企業は運営を慎重に行い定期的に調査することも必要となります。また、従業員に対しては自己の責任と判断で幅広い運用商品の中から選択をする上で十分な退職準備の考え方や精度の特徴、リスクなどの教育をしていかなければなりません。

そして従業員は先にも述べたように、自己責任において投資選択するリスクを各自が負うこととなり、大きな収益と損失は紙一重となります。資産運用の結果が将来の受給額を大きく左右するので、退職後の準備を狂わすことにもなりかねません。 しかしながら米国において公的年金の水準は低く、高齢化に伴い今のままでは公的年金給付の資金が不足するのは必死です。それゆえ退職後の生活基盤となる企業年金の重要性は高く、リスクを請け負っても自分の老後資金は自分で貯えるという考え方が広まっています。

 

401kプランの急成長

エリサ法の制定以前は資金規模の小さかった確定拠出型年金ですが、エリサ法制定以降は確定給付型年金を上回る成長を遂げ、資産残高は確定給付型を追い抜く勢いで近づいています。その理由としては、次の点が挙げられます。

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(出所:米国労働省Private Pension Plan Bulletin, Number 9, Spring 1999)

  1. 企業側にとって複雑な数理計算や報告義務がある確定給付型年金の運営が負担となったこと、
  2. 企業のビジネス競争を背景に雇用の流動化が進みポータビリティのある確定拠出型年金に従業員の支持が集まったこと、
  3. 税制上の優遇があることで、企業・従業員両サイドから支持があったこと、
  4. 株式市場をはじめ運用環境が概ね好調に推移したこと

そしてこの急成長に一役買っているのがベビーブーマーと呼ばれている人たちです。彼らは、現在米国の人口の約3割を占め、米国の経済成長に大きく影響を及ぼしています。

 

貯蓄に目覚めたベビーブーマーとは

米国のベビーブーマー世代とはどういう人たちでしょうか?米国のベビーブーマーは第二次世界大戦後の1946年から1964年にかけて生まれた人たちです。米国では18年という長い期間にわたって高い出生率が続きました。

ベビーブーマーの多くは1970年代から1980年代にかけて結婚、出産を経験しました。その時代、彼らは米国経済の成長において代表的な消費者であったということです。彼らは現在30歳代後半から50歳代前半であり、ベビーブーマーの初期世代はそろそろ退職後の生活を考える時期に入ってきています。そして税制優遇措置があることから、この401kプランに注目し自己資産をどんどんつぎ込み始めています。これが401kプランの急成長に一役買っているわけです。

70年代から80年代にかけて米国の経済成長を牽引してきたベビーブーマーは、現在、退職準備をする時期を控えて公的年金に不安を抱き、自助努力によって自己の資産運用を行っていくという401kプラン拡大の牽引役となっています。

最近の特徴としては、401kの運用先として株式や株式投資信託を選択する人たちが増えていることが挙げられます。米国の株式市場は1980年代以降上昇トレンドが続いています。もちろん1987年のブラックマンデーをはじめ1991年、1994年には株価の暴落はありましたが、資金は証券市場から流出せず、これらの下落局面を買い場と見る投資家が多く、株価はその後回復しています。

現在、401kの運用先として株式等を選択している人たちは増えています。もし株式市場が暴落した場合は、将来受け取る年金額か狂ってしまうことになります。しかしベビーブーマーたちは老後に備えるための資金は1年、2年といった短い期間で形成していくものではなく、20年、30年といった長い期間で形成していくものであると理解しているのではないでしょうか。株式投資は短期ではハイリスクではあるが長期では十分有効な運用手段であることが広く認識されているようです。

日本では株式市場に対するこのような認識は少々欠けているといえます。そのため日本版401kプラン(確定拠出年金)では、加入者への十分な制度の説明、投資教育やリスク管理の教育が最も重要になってくるでしょう。

 

年金制度における401kプランの位置づけ

前述したように米国の年金制度には公的年金と私的年金(個人年金、企業年金)があり、そのうち公的年金(確定給付型)ではこれからの高齢化社会到来による年金給付資産残高の減少は避けられず、人々は老後の保障を企業年金を中心とする私的年金で補わなければなりません。そこで注目されたのが確定拠出型年金であったといえます。

一方、米国政府は、退職後の生活資金を自助努力により貯えるということの重要性を幅広い年齢層に伝えようとしてきました。もともと米国では貯蓄水準をいかに高めるかも経済政策上の大きな課題であり、401kプランのような税制優遇のある年金制度を導入することは老後の生活資金を貯蓄するということを国民に広める上で大変効果的だったといえます。

401kによる貯蓄増強は資本の増大につながり、さらには経済の成長力を高めました。そして雇用の流動化という面では労働市場を活性化させることになりました。このようなことからも401kプランは米国の経済成長の背景として欠くことのできないものであったと考えられます。

確定拠出型年金のなかでもとりわけ401kプランは目覚しく拡大しています。ベビーブーマー世代の積極的な資金形成による資金流入が、拡大の一番の理由といえます。これは株式の上昇や株式投信の拡大とも深い関わりをもっています。1999年7月30日の日本経済新聞には「米国の投資信託の運用資産残高が始めて6兆ドルに。これは株式相場の上昇で投信が保有する株が大きく値上がりしたうえに、確定拠出型年金401kプランなどを通じて個人年金マネーが毎月着実に新規資金として流入しているため。」という記事がありました。

401kプランの資産残高は年々増加しています。1995年でみると確定拠出型年金の資産残高全体の6割以上を占める穂とに拡大しています。米国の確定拠出型年金の拡大を担っているのは、まさに401kプランなのです。それゆえ確定拠出型年金の代名詞ともいえます。

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(出所:米国労働省 Private Pension Plan Bulletin, Number 8, Spring 1999)

では米国の企業で働く人々は確定給付型から確定拠出型へと完全にシフトしたのでしょうか?確定給付型年金の加入者数は年々増加しておらず大体横ばいです。確定拠出型は年々増加傾向に変わりありませんが、それは確定給付型からのシフトではなく、もともとは確定給付型年金制度だった企業が現代のニーズや雇用環境に合わせて、確定拠出型年金制度を新しく導入したからだと考えられます。企業側は確定拠出型年金制度の導入によって、よりよい人材確保に取り組んでいるともいえます。

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(出所:米国労働省 Private Pension Plan Bulletin, Number 8,Spiring 1999)