2.テクニカル分析の定義と分類


チャートとは何か

テクニカル分析といえば、まず、チャートという単語が思い浮かぶが、そもそも、 チャートとは何だろうか。英和辞典で引くと「①図、図表、グラフ、②海図、水路図」とある。広辞苑には「海図、地図、天気図」。ちなみに、広辞苑で罫線を引くと、「①文字の行間の境の線、けい、②罫線表の略」とあって、罫線表は「過去の相場の動きをグラフに示したもの。引き方に星形法・カギ形法・棒形法などがあり、期間によって日足・週足・月足、値幅によって1円足・5円足・10円足などがある。足取表」とある。罫線というと、易の卦と似ているので、何か占いを彷彿させるが、関係はない。

要するに、テクニカル・アナリストが相場の動きを記したグラフをチャートと呼ぶわけで、チャートとは相場のグラフということである。

さて、19世紀初頭の有名なトレーダー、W・D・ギャンはチャートについて、こう書いている。「今後の値段に影響する情報はすべてその値動きに織り込まれているのだから、必要なのは値段だけである。今後の値段を決めるのにチャートは何の役にもたたないし、単に過去の歴史を示すにすぎないという人が多い。その通りである。チャートは確かに過去の記録である。だが、将来は過去の繰り返しにすぎない。ビジネスマンは皆、先々の商品の買い付けを決めるときは過去の営業記録を調べる。過去の記録と比べて、はじめて判断が可能になる。人間の場合も、ある人の記録を調べてその過去がよければ、その人の将来もよいだろうと判断する。チャートは単なる図であるが、言葉で伝えるよりも分かりやすく物事を示してくれる。同じことを言葉でいうこともできるだろうが、チャートでみる方が理解が早い」

かつてチャート嫌いの上司が、私にチャートをコピーしているところを見られて「過去の動きがわかりやすいから」と照れながら言い訳していたことを思い出す。今後の予測に使うかどうかは別として、過去の動きを把握するには、チャートが手っ取り早いのは異論がなかろう。そして、チャートを今後の予測に使おうというのがテクニ カル分析である。ギャンの時代ばかりではなく、現在も、過去のデータは将来の予測に役立たないという人もいるが、私たちの予測というのは、テクニカル分析であろうがファンダメンタルズ分析であろうが、すべて過去のデータから出発しているといっても過言ではないのである。また、誰もが只で入手できる情報から、相場が予測できるわけがないという人もいるが、それも論理的ではない。只で入手できる情報というのと、価値がないというのは、イコールではないのは当然である。

テクニカル・アナリストには思い入れがあって、相場のグラフをチャートと呼ぶわけだが、チャートとは要するにグラフのことである。

テクニカル分析の定義

前項が長くなったが、次にテクニカル分析の定義を考えよう。テクニカル分析とは何かを尋ねるとさまざまな回答が返ってくる。皆のイメージを総合すると、ファンダメンタルズ分析以外の相場に関する分析・予測手法とでもまとめられよう。しかし、それでは精確に定義したことにはならない。

テクニカル分析の定義自体は極めてシンプルである。さまざまに定義することが可能であろうが、究極的には、テクニカル分析とは価格・出来高・時間から相場を分析・予測することと言える。さらに言えば、これらの3要素のうち、出来高を省くことも可能である。すなわち、狭義のテクニカル分析とは価格と時間から相場を分析・予測することとなる。 相場が価格の時間的推移である(「相場は価格と時間の関数である」といってもよい)ことを考えれば、時間と価格に絞り込まれることも理解できよう。

定義は以上だが、別の観点から言えば、究極的にはテクニカル分析には相場における因果関係を考えないという特徴がある。相関関係を読み解こうとするファンダメンタルズ分析とはやはり対極的な発想なのである。それがテクニカル分析をファンダメ ンタルズ分析以外というイメージに結びつけているし、摩訶不思議な魔法か何かのような誤解も生んでもいるのだろう。

テクニカル分析の分類

テクニカルの分析の諸技法をいくつかのグループに分けてみる。そうすることで、それぞれの技法の特徴がよりよく理解できるようになり、学習の効果もあがる。コーナーの途中でも、適宜、別表にかえって確認することを勧めたい(ちなみに、この表に記載されている技法が重要であるということではない)。

別表 テクニカル分析技法の分類

価格分析
価格以外の分析
類出来高分析
中長期分析 トレンド系テクニカル分析
時系列
バーチャート(ローソク足、ダウ理論、エリオット波動論、酒田五法)、移動平均線、エンベロープ、パラボリックなど タイム・サイクルなど 出来高グラフ、出来高移動平均、OBV、逆ウォッチ曲線など
不規則時系列(価格構造)
ポイント・アンド・フィギュア、かぎ足、練行足、新値足など アームズ・ボックス・チャート、ボリューム・プロファイル、マーケット・プロファイル
中短期分析 オシレーター系テクニカル分析
時系列
モメンタム、オシレーター、MACD、ウィリアムズ%R、ストキャスティックス、RSI、ディレクショナル・ムーブメント、ピボットなど 強気コンセンサス指数など
擬似オシレーター系テクニカル分析
時系列
スプレッド、レシオなど サイコロジカル・ライン、OB/OSなど
パターン認識(フォーメーション)、グランビルの短期テクニカル法則、相場格言、ギャン理論、一目均衡表、数理学的アプローチなど

(出所)林康史編著『はじめてのテクニカル分析』(日本経済新聞社刊)

時々、A技法でもB技法でもC技法でも結果は「買い」を示唆していたので買ったとこ ろ、間違いだったという話を聞くことがあるが、ABCの技法が互いに似た技法であったなら、似たようなシグナルを出すのは、むしろ当然で、そうした失敗を避けるためにも、それぞれの技法の特長・欠点を比較するためにも分類は大事だと思われる。

テクニカル分析は、広義には価格の分析と価格以外の指標の分析に分けられるが、価格以外の指標の範囲を広げていくとファンダメンタルズ分析と同じことになってしまうので、ここでは、前項の定義に従った分類を示しておく。つまり、価格・出来高 ・時間と、それらから計算できる値(例えば、前日比の騰落は昨日と今日の価格の差である)から成り立つ分析技法を分類したのが表1である。

テクニカル分析は、大別してトレンド系テクニカル分析とオシレーター(振幅、振れの意)系テクニカ ル分析に2分され、さらにトレンド系は時系列と非時系列(ノンタイム・シリーズの訳。精確には不規則時系列)に区分できる。トレンド系(時系列)の代表はローソク足や移動平均線であり、また、チャートにトレンドラインを引くのは、トレンド系(時系列)の分析をしているということである。トレンド系(非時系列)の代表はポイ ント・アンド・フィギュアや新値足。

オシレーター系の代表はストキャスティックスやRSI(相対的指数)。たいていの技法は表の区分のどれかに該当するが、もちろん、これらの分類は厳密なものではないし、いずれの範疇にも属さない技法もあろう(このコーナーで次第に明らかになることであるが、トレンド系とオシレーター系も実は表裏一体のものである)。

一般的には、トレンド系は中長期的分析に向いており、その多くは順張り指向で、 オシレーター系は短期的分析・逆張り指向と考えられているようだ。究極的には、トレンドを把握するのが相場参加者の目的であるから、分析に迷うところがあれば、トレンド系(時系列)分析に立ち返って考えることがポイントである。