金融庁が金融レポートで示した投資信託の問題点について


金融レポートについて

金融庁が先月(2017年10月25日)、平成28事務年度の金融レポートを発表しました。

金融レポートは、金融庁が何を目指すかを明確にし、その実現に向け、どのような方針で金融行政を行うかを示した「金融行政方針」について、その進捗状況や実績を継続的に評価し、現状分析や問題提起として公表するものです。

金融レポートは、銀行、証券会社、保険会社など広範な金融機関や商品等をカバーしていますが、その中で投資信託に関連する部分の指摘を一部紹介します。全般的に、投資信託運用会社販売会社にとっては厳しい評価となっています。金融レポートは金融庁のHPで公表されていますので、興味のある方はこちらからご覧ください。

 


 

顧客本位の業務運営の確率・定着等を通じた家計の安定的な資産形成について、金融庁の指摘の概要は次の通りです。

  • 我が国の投資信託の販売実態等を見ると、引き続き以下の傾向が見られる
  1. 米国と比べ、リスクに見合うリターンをあげていない投資信託が多い
  2. パフォーマンスの良いアクティブ運用投資信託が少ない
  3. テーマ型投資信託が多い(売買のタイミングを適切に見極めることは困難)
  4. 回転売買が多い
  5. 高い販売手数料や信託報酬の投資信託が多い
  6. 販売会社と系列の運用会社の間の結びつきが強い
  • 顧客本位の業務運営に真剣に取り組む金融機関が見られる他、つみたてNISAの対象商品として、手数料が低く長期の資産形成を指向する投資信託が増えるなど、新たな動きも見られる

 

 

1. 米国と比べ、リスクに見合うリターンをあげていない投資信託が多い

金融庁が日米の規模の大きい投資信託上位100銘柄のリスクとリターンの関係を調べた結果、米国では中程度のリスクで相応のリターンを得ているものが多い一方、日本ではリスクが高い割にはそれに見合ったリターンを得ていないものが少なからず見受けられたということです。

 

2. パフォーマンスの良いアクティブ運用の投資信託が少ない

金融庁がアクティブ運用投資信託のリターンについて過去10年以上存続している株式アクティブ運用投資信託281本の信託報酬控除後のリターンについて分析を行いました。その結果、過去10年間の平均リターンは年率1.36%であり、全体の約3分の1の商品のリターンがマイナスとなっている。また、インデックス運用投資信託と比較しても、株式アクティブ運用投資信託281本の71%が日経225を参照するインデックス運用投資信託(純資産総額上位5位銘柄)の過去10年のリターン(年率2.37%(信託報酬控除後))を下回っているというものでした。

 

3. テーマ型投資信託が多い(売買のタイミングを適切に見極めることは困難)

ここでいう「テーマ型投資信託」とは、高配当の海外株式、ハイイールド債等、話題性のある分野を投資対象とする投資信託のことを指しています。金融庁はこれらのテーマ型投資信託が売れ筋となっているが、人気のある時は基準価額が堅調だとしても、ブームが過ぎると基準価額が下がる恐れがあり、実際、そうした動きをしている投資信託も見られると指摘しています。

さらに次のように指摘しています。

「基本的に、テーマ型投資信託は売買のタイミングが重要な金融商品である。しかしながら、アクティブ運用投資信託のパフォーマンスが示唆するように、適切な売買のタイミングを継続的に見極めることができる投資家はプロの中にも少ないと考えられ、個人投資家にとってはハードルが高いと考えられる」。

結論としては、「過去の株式投資信託の販売動向を見ても、ブームに流され、株価のピークにおいて株式投資信託が最も売れる傾向が見られているが、個人投資家が安定的な資産形成を行うためには、こうした売買のタイミングを気にする必要のない、資金投入の時期を分散する積立投資を行うことが有益な方法と考えられる」と指摘しています。

 

4. 回転売買が多い

投資信託全体の平均保有期間を見ると、3年未満の期間に留まっており、依然として、回転売買が行われていることが窺われると指摘しています。

 

5. 高い販売手数料や信託報酬の投資信託が多い

金融庁によると、米国では長期の資産形成に適した低コストのインデックス運用投資信託の割合が年々増加しているが、日本では、足下でインデックス運用投資信託の割合が上昇傾向にあるものの、米国に比べると、その上昇スピードは穏やかだということです。

また、主要銀行等と地方銀行における投資信託の販売手数料の動向を見ると、販売した投資信託全体の平均販売手数料は2014年度に比べ低くなっているものの、2016年度は上昇していると指摘しています。

 

⑥販売会社と系列の運用会社の間の結びつきが強い

同一のグループ内に銀行や証券会社といった販売会社を持つ日系の運用会社28hさについて、役員の受け入れ状況を見ると、その全てが販売会社等から計175名の役員を受け入れており、全役員の75%を占めている。3メガバンクグループでは、リテール向けに取り扱っている投資信託の本数、販売額それぞれにおいて系列運用会社が提供するものが約6割に達している。

同一グループ内に銀行や証券会社といった販売会社を持つ運用会社のうち、運用資産残高上位5位の大手運用会社が2014年に設定した公募株式投資信託(インデックス運用除く)は合計182本で、これらの投資信託は設定後2年間における手数料等控除後の顧客パフォーマンスが平均マイナス1.5%と低調で、全体の6割強の投資信託で顧客パフォーマンスがマイナスとなるなど、コストに見合ったパフォーマンスが上がっているとは言い難い。

 

この他の指摘

  • 毎月分配型投資信託について、販売会社が顧客に十分情報提供した上で、顧客が商品選択しているのかについて疑問が残る(投信協会のアンケートにおいて、高い割合の毎月分配型保有者が分配金として元本の一部が払い戻されることもあることを認識していない、支払われた額だけ基準価額が下がることを認識していないことが判明したことを受けての指摘)。
  • 顧客の利益につながる商品の提供について、大手運用会社の投資信託の中にボトムアップ・アプローチで高い顧客パフォーマンスを実現しているものが存在するが、こうした投資信託は必ずしも積極的な販売がなされておらず、純資産総額が増加していない。一方、直接販売を行う独立系運用会社においては、ボトムアップ・アプローチによる投資信託で、平均9.0%の顧客パフォーマンスを実現し、純資産総額の合計は2014年3月の約1,500億円から2016年3月には約4,700億円と着実に増加させている。