スタイルマネジメントとは?


今回は、年金をはじめとする機関投資家の間ではやっている、「スタイルマネジメント」を、個人投資家特に投資信託投資家のみなさんが使えないものか、ということを考えます。答えはもちろんYESです。

1)スタイルマネジメントとは?

スタイルマネジメントとは、一言で言ってしまえば「相場観や得意分野の分散投資」です。まず、機関投資家がやっていることとその背景をご説明します。機関投資家は、資産運用を行なうとき、「市場全体と比べて、運用はうまく言ったといえるか?」ということを気にします。つまり、1年間あるいは3ヶ月間の運用の実績を、その間の市場インデックスと比べて、運用の善し悪しを測ります。その結果、多くの機関投資家が市場インデックスに近いポートフォリオを持つようになりました。しかし、これではリターンも市場インデックスと変らなくなます。アクティブ運用でより多く儲けることができません。そこで考え出されたのがスタイルマネジメントです。運用会社や運用担当者には、よく、「得手不得手」があります。例えば大型株はあまり好きではないが、小型株のことならば他社・他人よりもよくわかる、あるいは、日本の株式のことはわかっても外国の株式のことはわからない、などなどです。では、運用会社や運用担当者を複数雇い、それぞれに自分の得意分野を運用してもらい、全ての運用資産の配分を合わせると、全体としては市場インデックスに近いウェイトになるようにすればいい、ということになります。

2)スタイルマネジメントのやり方

日本の株式市場を使って、スタイルマネジメントのやり方を具体的に見てみましょう。

  1. 市場の分割: 最も単純なものでは、日本の株式を時価総額でまず大型株と小型株に分けます。株式市場全体に対するウェイトは、大型株が90%程度、小型株が10%程度であることが多いようです。小型株の部分を「小型株セクター」と呼びましょう。
  1. 次に、大型株をPERかPBRで半分に分けます。PERやPBRの大きい方を「成長株セクター」、小さい方を「割安株セクター」と呼びましょう。それぞれのセクターの、株式市場全体に対するウェイトは、45%ずつになります。
  1. 運用会社を調べ、それぞれのセクターでの運用成績が今後もよさそうだ、と思う会社を、それぞれのセクターについて少なくとも1つ、場合によっては複数個ずつ選んできます。
  1. 自社の運用資産を、3つのセクターの市場全体に対するウェイト通りに3つに分けます。つまりl、45%、45%、10%です。
  1. 3つに分けた資産を、それぞれ各セクターを得意分野とする運用会社に運用させます。
  1. その結果、運用資産の各セクターに対する投資比率は、大型成長株セクター45%、大型割安株セクター45%、小型株セクター10%と、市場全体と同じになります。

なお、ここでは、話を単純にするために3つに分割しましたが、これにはいろいろ「流儀」があり、時価総額で大型、中型、小型と3つにわけ、更にそれぞれをPERやPBRで割安、成長と2つに分け、合計6つのセクターに分ける流儀もあります。

3)スタイルマネジメントのメリット

前のページのような方法を取ると、具体的にはどんないいことがあるというのでしょうか? それは、大体次のように要約できます。

  1. より高い収益率。それぞれのセクターを、それぞれが得意な運用会社に運用させるので、より高い収益率が期待できます。
  2. 市場インデックス並みのリスク。それぞれのセクターのウェイトを、市場全体と同じウェイトに合わせているので、運用資産全体のリスクも大体市場インデックスと同じぐらいになります。前述のように、機関投資家にとってはこれは非常に重要なことなのです。
  3. 相場観の分散。資産全体を、1人あるいは1社に任せると、その人やその会社が相場観を間違えば、損は非常に大きくなります。しかし、スタイルマネジメントの考え方を使えば、複数の運用会社を雇っており、相場観がこうした運用会社の間で同じということはめったにないでしょう。つまり、銘柄分散と同じように、相場観についても分散投資ができ、収益率が、一人に任せる場合よりも安定します。

この、3つめのポイントは特に重要です。というのは、プロのファンドマネージャーでも、神様ではありませんから、いつも必ずがっぽり儲けてくれるとは限らないからです。運用担当者も分散しておけば、全体として大当たりもない代わりに大損もなく、それぞれに得意分野を任せている分だけ全体としては安定して市場インデックスに勝てる、そういう考え方です。

4)まとめ

このように、スタイル運用は、全体としてはバランスを取りながら、それぞれのパーツは「その道の人」、「そのセクターが得意な会社」に任せて、より高い収益を追求する、という運用方法です。本来は機関投資家の用いる枠組みですが、個人投資家、特に投資信託投資家の皆様には、非常に便利な考え方です。是非、一度お試しください。繰り返しますが、その際に大事なことは、全体としてのバランスを取ること、つまりまずご自分の資産全体で考えること、そして、その中の部分部分はそれぞれ、その部分を得意とする人に運用してもらうことです。これに慣れてくると、投資信託のファンドマネージャーを雇う、社長さんの気分に浸れます。

筆者:P太郎(某大手運用会社勤務。専門はリスクマネジメント。)