東京海上アセットマネジメントとサステナクラフト、生物多様性クレジット創出に関する共同研究を開始


東京海上アセットマネジメント株式会社および株式会社sustainacraftは、国際的なボランタリークレジットの認証機関を中心に方法論の策定が進んでいる生物多様性クレジット創出に関する共同研究を開始すると2024年2月1日に発表した。

サステナクラフト

東京海上アセットマネジメント株式会社は、沖縄県石垣市野底(のそこ)エリアにおいて、自然保全活動を推進しているエコツアーふくみみならびに石垣市立野底小学校と協力し、石垣市野底エリアにおけるウミショウブの藻場の再生と研究を進めてきた。高度な推計技術により生物多様性の定量化を進めてきたサステナクラフトと協働することで、クレジット創出の要となるベースライン(注1)の推計およびプロジェクト実施後の生物多様性指標の計測を行うことが可能となる。

具体的には、現在方法論が議論されている生物多様性クレジットについて、創出に必要と考えられる追加性のある取り組みやMRV(Monitoring:モニタリング, Reporting:報告, Verification:検証)に関する研究を行う。東京海上アセットマネジメントは、これにより石垣島で藻場の再生による脱炭素の取組みを推進すると同時に、生物多様性においても保全効果を貨幣価値化する事が可能となり、結果として生物多様性保全活動への資金流入が増加する事が期待できると考えている。

 

背景

東京海上アセットマネジメント株式会社は、この共同研究の背景について次のように述べている。

近年、気候変動が地球環境および経済・社会活動に及ぼす悪影響は、世界的な問題として関心が高まっています。特に、自然生態系への影響に関する議論が活発化しており、2021年に開催されたCOP26における「グラスゴー気候合意」で世界全体に及ぶ危機である気候変動と生物多様性の損失は相互関係にあることが改めて確認されました。 以降、グローバルでは、2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」と2030年グローバルターゲットが採択され、日本では2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されました。事業会社に関しても、2023年9月に企業の生物多様性における開示フレームワークであるTNFD(注2)の最終版が公表されるなど、自然や生態系の保護・保全と回復に向けた生物多様性への対応が急速に求められる状況になっています。

生物多様性クレジットは、生物多様性保全に貢献するプロジェクトへの投資を促進する仕組みの一つです。企業や自治体・個人などにも生物多様性への配慮が求められる中、生物多様性の価値を考慮し、保全の取り組みを推進する新しい仕組みとして注目されています。

 

今回の共同研究の内容

両社はまずサステナクラフトの衛星リモートセンシング技術と因果推論技術をベースに、該当エリアの自然資源のベースラインの計測を検討する。生物多様性クレジットで議論されている複雑な生態系に関する評価を行うだけでなく、今後も継続してモニタリングを行う技術に関する研究も行う。

東京海上アセットマネジメントによると、今回の研究を通じて、両社は生物多様性クレジットに関するノウハウを獲得でき、 今後全国各地の地域における生物多様性保全や再生価値のクレジット化へと応用 することが可能になる。

同社は環境省が主催する支援証明書(注3)モデル的試行ワーキンググループへの参加を通じて生物多様性保全活動の成果と支援証明書やTNFD開示への連動を検討し、また同時にTNFD開示を中心とした自然資本・生物多様性に関する情報を用いた企業価値評価手法の開発を進める。これにより事業会社における生物多様性保全活動の企業価値への影響を可視化することが可能となり、企業とのエンゲージメント活動へも活用することで、投資先企業の企業価値向上への貢献を目指す。

サステナクラフトは、TNFDのData Catalyst Initiative(DCI)に設立当初から参加しており、陸域を中心とした生物多様性の定量化を進めてきた。2023年10月には「自然由来の炭素・生物多様性クレジットの定量化に向けた技術開発」のテーマで、経済産業省のSBIR フェーズ3における事業に採択されており、これまで開発してきた衛星リモートセンシングや因果推論技術に加え、環境DNAやそのほか現場での観測データを組み合わせ、生物多様性クレジットの創出に向けた研究開発・社会実装を進める。

 

目指す姿

両社はこの研究を通じて社会的に意義のある活動を経済・金融と結び付けることでよりサステナブルな取組みへと発展させ、社会課題を解決すると同時に経済成長・企業価値向上の実現を目指す。特に、 今回の共同研究では、生物多様性クレジットの生成ノウハウ、それを基にした支援証明書やTNFD開示への連動、生物多様性保全の取組みに必要となる一連のノウハウ等の獲得が可能になると考えている。

これら成果やノウハウを活かして今後は全国各地や全世界における生物多様性保全や脱炭素の取組みに加えて既に事業会社が実施している生物多様性保全活動へ転用することで、2030年グローバルターゲットの達成に向けて貢献してゆく。

 

(注1)ベースライン:プロジェクトが行われなかった場合の将来の状況を指す。カーボンクレジット等の品質を左右する重要な要素であり、仮に信頼ある方法でベースラインを計測できない場合にはグリーンウォッシュの批判の一因にもなりえる。サステナクラフトは複数のアプローチでベースラインの検証を行っている。

(注2)TNFD(The Taskforce on Nature related Financial Disclosures):自然関連財務情報開示タスクフォース。民間企業や金融機関が、自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築するために設立された国際的な組織。TNFDは、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させるという観点で、自然関連リスクの管理と情報開示に関するフレームワークを開発、提供している。2023年9月に最終提言であるTNFDv1.0を公開した。

(注3)支援証明書:自然共生サイトにおいて、生態系保全に関する支援活動を行ったことを証明する制度。2024年1月時点では、環境省が枠組みを検討中。