アジア・パシフィック地域がフィンテック投資の世界市場を牽引――アクセンチュア最新調査


アクセンチュア(NYSE:ACN)の最新調査によると、 グローバルにおける2016年1~12月のフィンテックベンチャー企業への投資額は、 中国で超大型案件が相次いだことを主因として、 前年比10%増の232億ドルに達した。 なお同調査は、 ベンチャー企業の財務データ収集・分析業務を国際的に行う、 CB Insights社が提供するデータをアクセンチュアが分析したもの。

2016年のフィンテック投資額は、 アジア・パシフィック地域が2015年の52億ドルから112億ドルへと2倍以上の増加となり、 初めて北米における投資額を上回った。 なお、 北米における投資額は92億ドル、 欧州は24億ドルだった。

投資案件数に関しては、 すべての主要地域で急増し、 2015年の約1,200件から約1,800件へと拡大した。 ただし、 投資金額面での増加は、 主に中国と香港における案件によるものであり、 わずか3%の案件が投資総額の43%近くを占めている。

また、 日本における2016年のフィンテック投資額は1億5,400万ドルとなり、 6,500万ドルであった昨年から倍増している。 注目すべき投資領域としては、 ビットコインなどを含む決済関連が6,200万ドル規模となっており、 最も多くの投資が行われる領域となっている。 また、 グローバルでの動向と同様にロボ・アドバイザーといったウェルス&アセットマネジメント関連への投資もみられた。

アクセンチュア金融サービス本部のグループ・チーフ・エグゼクティブを務めるリチャード・ラム氏(Richard Lumb)は次のように述べている。

この5年間、 フィンテック分野のグローバルな投資活動は、 年間56%の伸び率で増加しています。 長年、 イノベーションと投資需要の中心地はシリコンバレー、 ニューヨーク、 ロンドンでしたが、 フィンテックは今や世界各地に広がり、 中でもアジア・パシフィック地域が急成長を遂げています。 投資の中心が欧米からアジア・パシフィック地域に移行した主な要因として、 新規参入者にとって、 フィンテックを活用して業界の新たな仕組みを構築する機会が、 アジア・パシフィック地域により多く潜在することが挙げられます。 グローバル規模でフィンテック企業によるビジネス開発競争がかつてないほどの勢いを持っています。 こういったフィンテック企業との連携に備えている金融機関は、 これまでになく優位なポジションにあると言えるでしょう。

アジア・パシフィック地域のフィンテック投資を中国が牽引

2016年のフィンテック投資額をみると、 いくつかの超大型案件の貢献により、 中国と香港のみで102億ドルに達しており、 これはアジア・パシフィック地域の投資総額112億ドルの91%を占めている。 事実、 アジア・パシフィック地域における2016年の上位10件の投資案件はすべてが中国と香港におけるものであり、 その投資額はアジア・パシフィック地域の投資総額の82%に達している。

最大の投資案件は、 中国のオンライン決済プラットフォーム「Alipay」を運営する、 Eコマース大手Alibaba Group Holding傘下の金融サービス企業「Ant Financial Services Group」が、 2016年4月に実施した45億ドルの資金調達だった。 また、 Lu.comとしての事業展開を進めているPing An傘下の「Lufax」が、 2016年1月に実施した12億ドルの資金調達、 さらに同月、 中国第2位のEコマース企業「JD.com」が、 消費者金融子会社であるJD Financeのために新たに10億ドルを調達したことも、 フィンテック投資総額を押し上げる要因となった。

アクセンチュアのフィンテック調査

2016年は「不確実性の年」

2016年、 北米と欧州においてもフィンテック投資案件数は堅調に伸びたものの、 投資総額は減少した。 CB Insightsのデータによると、 2016年のアジア・パシフィック地域以外における投資案件数は48%増加したが、 投資総額は24%減少した。 アクセンチュアでは、「英国のEU離脱の決定が主要なフィンテック市場で政治的な不確実性を増加させたことや、 米国大統領選の期間中に金融規制改革の問題が過剰に注目を集めたことなどが要因と考えられます」とコメントしている。

アクセンチュア株式会社 執行役員 金融サービス本部 統括本部長の中野 将志は次のように述べている。

シリコンバレー、 ニューヨーク、 ロンドンのような成熟したフィンテック市場にとって2016年は、 “不確実性の年”であったと言えるでしょう。 投資ブームへの懸念、 バリュエーションの上昇、 大手フィンテック企業のビジネスモデルに疑問符がつくなど、 従来のフィンテック・ハブにおける大型投資が減少しました。 政治動向も、 フィンテックベンチャー企業の市場参入や事業機会に対する懸念を呼び起こし、 金利や為替動向についての懸念も続きました。 その一方で、 グローバル全体で考えるとフィンテック市場は毎年200億ドル超もの資金が定常的に流入する市場にまで成長したとも捉えられます。 このことは、 従来は規制業種の色合いが濃くイノベーションの期待が低かった金融ビジネスが、 常に進化し続けるビジネスとして認知されたと捉えることができるでしょう。 本邦金融機関においても、 外部と連携して新たなものを生むための専門組織の設立や異業種とのデータ連携を通じた経済圏の構築など、 金融機関がこれまでの枠を超え、 新たなポジションを獲得しようとする強い意志を感じています。

調査手法

調査は、 グローバルでベンチャー企業の財務データ収集・分析業務を行う調査会社「CB Insights」が提供するフィンテック投資データに基づいてアクセンチュアが分析を加えたもの。 調査対象には、 ベンチャーキャピタルおよび未上場企業、 株式会社および企業のベンチャーキャピタル部門、 ヘッジファンド、 アクセラレーター、 政府系ファンド等における国際的な投資活動が含まれている。 また対象となるデータは2010年から2016年までのものです。 さらに、 同レポートでは、 フィンテック企業を、 銀行業務やコーポレートファイナンス、 キャピタルマーケット、 財務データ分析、 決済や個人向けの財務管理等に関して様々なテクノロジーを提供する企業と定義している。