LGIM、投資先企業に対して気候変動対応に関する説明責任と排出実質ゼロの達成に向けた取り組みへの圧力をさらに強化


世界最大級の資産運用会社であるリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は2021年6月15日、 「クライメート・インパクト・プレッジ(気候影響誓約)」の年次報告書を公表し、 気候変動がもたらすリスクへの対応が不十分であることを理由に新たに4社からダイベストメントの対象とする方針を明らかにした。

LGIMは2016年に気候影響誓約の取り組みを開始し、 昨年は、 気候変動問題において重要な15セクターに属するグローバル企業1,000社(これらの企業による温室効果ガス排出量は、 世界の上場企業の排出量の半分超を占める。 )へのエンゲージメントを拡大させることを発表した。 今年の報告書は、 気候影響誓約の改訂後、 初の報告書になる。 LGIMが定めたミニマムスタンダードを満たさない企業は、 議決権行使において反対票を投じる対象となることや、 「Future World Fund(フューチャー・ワールド・ファンド)」シリーズ、 ならびにL&Gの企業年金およびL&Gマスタートラストの自動加入式年金制度のあらゆるデフォルトファンドを含め、 運用資産総額530億ポンドのファンドからのダイベストメントの対象となり得る。

LGIMは今年、 中国工商銀行、 AIG、 PPLコーポレーション、 中国蒙牛乳業をこれらのファンドにおいてダイベストメントの対象とする。石炭事業へのエクスポージャー、 炭素排出に関する開示、 森林破壊に関してエンゲージメントを通じて対策の改善を求めたものの対応が不十分である、 またはLGIMが考える「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えたことが背景にある。 LGIMによると、これらの企業では、 以前より組み入れ銘柄から除外されている9社(中国建設銀行、メットライフ、日本郵政、韓国電力公社、エクソンモービル、ロスネフチ、シスコ、ホーメル、ロブロー)と同様、 投資対象に戻すために必要とされる実質的なアクションが講じられていない。

一方、 従来投資除外リストに含まれていた米国食品小売のクローガーについては、 森林破壊ポリシーおよび情報開示の改善に加え、 気候への影響が少ない植物由来の製品の普及に向けた取り組みを行ったことを受けて、 LGIMのファンドの投資対象に再び組み入れることを発表する。過去には、 自動車メーカーのスバルや石油大手のオクシデンタル・ペトロリウムなどが一時はダイベストメントの対象になったものの、 その後に投資対象に復活している。

進展と推進を促すためにエンゲージメントを強化

LGIMは、 昨年発表したアプローチの拡大の一環で、 それぞれのセクター内で影響力が大きい一方で二酸化炭素の排出実質ゼロへの移行への取り組みにおいて課題が残る58社を対象により深いエンゲージメントを推進してきた。LGIMの取り組みは大きな進展を見せ、 過去1年間で58社のうち約4分の3の企業がエンゲージメントに応じ、 うち13社が排出実質ゼロの目標を導入した。

LGIMはまた、 昨年から約1,000社の上場大手各社の気候関連の取り組みの度合を「緑」「黄」「赤」と信号機になぞらえて公開している。同時に、 気候変動対応を担当する取締役の設置、 包括的な炭素開示、 温室効果ガス排出削減プログラムの展開などに係るミニマムスタンダードを満たしていない企業に反対票を投じることとし、 議決権行使の対象をさらに拡大した。2021年の株主総会シーズンにおいて、 LGIMは、 銀行、 保険、 不動産、 テクノロジー・通信セクターをはじめとする130社について、 計算書類の承認などに反対する。なお、 その後も改善が見られない場合、 2022年以降は取締役会議長または取締役会トップの選任に対して反対票を投じる。

LGIMのCEOであり、 英国政府のCOP26ビジネス・リーダーズ・グループ共同議長であるミッシェル・スクリムジャー氏(Michelle Scrimgeour)は、 次のように述べている。

気候変動は、 私たちが直面する最も重要なサステナビリティ問題の一つであり、 2℃を十分に下回る水準の実現に向けてグローバル金融システムを整合させるための取り組みを全力で支援します。 LGIMは、 企業や政策立案者とのエンゲージメントから、 独自の投資プロセスおよびLGIM自らの排出実質ゼロのコミットメントにいたるまで、 インベストメントチェーンのさまざまな分野にわたり、 気候変動に関する課題解決に向け尽力することに強くコミットしてきました。 また、 グラスゴーで開催される極めて重要な会議である第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に先立ち、 COP26ビジネス・リーダーズ・グループのようなフォーラムに参加することで、 気候関連リスクへの対応、 持続可能な未来に向けて社会を方向付けるための協調的なアクションの必要性を訴えました。 単独で行動しても前進はできません。 投資家として私たちは、 責任ある資産配分を行い、 投資先企業に働きかけ、 大きなサステナビリティ目標を達成するためにさらなる進捗を促す役割を担っています。

過去1年間において、 LGIMでは、 気候変動問題にさまざまな方法で取り組んできた。12月に発足したネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ、 チャールズ皇太子が立ち上げたサステナブル・ファイナンスに関するイニシアティブ、 直近ではグラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス ・フォー・ネットゼロなどのフォーラムを通じて協働を行っている。

LGIM シニア・サステナビリティ・アナリスト、 ヤスミン・スヴァン氏(Yasmine Svan)は次のように述べている。

データと分析能力の向上によって調査対象を広げ、 また、 議決権行使による意思表示として反対票を投じる対象企業の拡大を通じ、 さらにこれをより深い個別企業とのエンゲージメントで補足することにより、 気候変動リスクの管理に関するミニマムスタンダードと考えている基準を強く要請できるようになりました。 同時に、 投資家が企業に対する監視を一段と強化する中、 企業も積極的に取り組みを強化しています。 こうした進展に伴い、 今年もLGIMのファンドの投資対象に再び組み入れる企業を発表できたことを喜ばしく思っています。 今後も、 市場全体のスタンダードの引き上げの一助となるように、 エンゲージメントと協働を継続していきます。

LGIMによると、同社が気候影響誓約を開始して以来、 多くの市場やセクターにおいて気候関連の取組みの度合は全体的に向上している。2020年以降、 アジア企業の評価は、 北米の評価の平均を上回り、 新興市場において最大の改善が見られる。ただし、 LGIMが主張する気候変動に関するミニマムスタンダードを十分に満たしているのは、 今もなおアジア太平洋地域の企業の5分の1未満、 そして北米企業の3分の1未満に過ぎない。

また、 この評価からは、 セクターごとに取り組みやアプローチが異なることも明らかになっている。 電力会社と自動車会社のスコアが最も高くなっているが、 これに対し、 鉄鋼、 鉱業、 航空の各セクターは、 当エンゲージメント期間において、 最も改善幅が限定的だった。低炭素への移行が進んでいるセクターであっても、 LGIMの気候関連のミニマムスタンダードを完全に満たす企業はまだ少ないものの、 排出実質ゼロに向けた機運は急速に高まっており、 排出実質ゼロの目標を掲げた企業の数は、 2020年10月と比較してほぼ倍増している。