MSCI、「MSCIターゲット・スコアカード」を発表


世界の機関投資家の重要な投資判断を支援するツールとサービスを提供しているMSCIは、2021年6月28日、ネットゼロ目標を含む企業の脱炭素目標を評価するための新たな枠組み「MSCIターゲット・スコアカード」を発表した。

MSCIターゲット・スコアカードを活用することで、機関投資家は、企業の気候変動に対するコミットメントを比較することができ、現実的な脱炭素目標を掲げている企業を特定することが可能になる。機関投資家と気候変動活動家による株主エンゲージメントの活動が高まる中でこの枠組みの開発が進められてきた。

この枠組みが開発された背景として、MSCIは、先進国23カ国と新興国27カ国を合わせた3,000銘柄の大型株・中型株から構成されるMSCI ACWIインデックスの約35%が、2021-2100年を目標年度にすえた脱炭素目標、またはネットゼロ排出目標を設定していたことがあげている。

 

MSCIターゲット・スコアカードでは次の3つの重要な側面から企業の気候目標を評価している:

包括性 – 公表されている脱炭素目標が企業の総排出量のうちどの程度を削減対象としているかを調査。MSCIでは脱炭素目標により削減対象となっているスコープ別の排出量と企業の事業活動セグメント、地域セグメントごとの排出量を分析対象としている。包括性では、二酸化炭素排出量への換算値(CO2e)、または全種類の温室効果ガス総排出量が考慮されているかどうかも判断している。

目標の高さ – 脱炭素目標がどの程度の排出量を、どの時間軸で削減しようとしているかを分析。MSCIでは企業が目標としているの将来的な排出量と時間軸を基に年間平均削減量を計算し、排出削減の軌道を導き出している。これにより投資家は、ネットゼロ実現のために重要なマイルストーンとなる2030年度と2050年度の排出量と企業の排出削減の軌道がどの程度整合性があるかを理解することが出来るようになる。

実行性 – 脱炭素目標の実行性と企業の目標達成に向けた進捗度合を分析することで、投資家が企業の目標達成に対して信頼をおけるどうかを評価。MSCIでは過去の脱炭素目標とその目標年度の排出量を比較することで、企業が過去の脱炭素目標を達成していたかどうか実績を評価している。同様に、企業の排出削減の軌道に対して企業の最新の排出量をベンチマーキングすることで、現在進行中の脱炭素目標通りに排出量を削減しているかどうか企業の取り組みの進捗度合を測定している。このような分析により、企業が目標を達成することができるかどうかについて実行性を評価している。

MSCIは2021年6月に発行体と投資家と共に、MSCIターゲット・スコアカードに関する意見交換を行うために、パブリック・コンサルテーションを開始する。

ESGリサーチ・モデル部門グローバル・ヘッド、オリバー・マーチャンド氏は次のように述べている。

脱炭素とネットゼロ排出目標の広がりは積極的な進展と言えますが、同時に投資家とステイクホルダーを混乱させる可能性もあります。

企業の脱炭素目標を入念に調べてみると、初めは目標が比較可能に見えていても、それらが非常に多くの点で異なっていることが分かりました。この違いにより目標達成時に、環境や企業の気候変動リスク・プロファイルにあたえる潜在的な影響が変化するため、機関投資家が脱炭素目標の影響を評価することが困難になります。MSCIターゲット・スコアカードではこの問題を解消するために、機関投資家に対して企業の気候変動に対するコミットメントを比較可能にする枠組みを提供しています。

 

MSCIのESGリサーチ部門グローバル・ヘッド、リンダ・エリン・リー氏は次のようにコメントしている。

ネットゼロの未来へ向かう旅は市場によって動かされていくでしょう。投資家はより環境に配慮したビジネスモデルへ資本を配分し、化石燃料を基盤とする産業から離れていっています。脱炭素目標へのコミットメントやネットゼロ目標の宣言が相重なるなかで、最近のエクソンモービルとシェブロンのケースで見られたような、スチュワードシップとアクティビストの活動への注目も高まっています。

この流れを後押しするために、投資家は企業のコミットメントの実社会への影響とそれらの実行性を評価し比較するための優れたアプローチが必要となります。世界が低炭素の未来へと移行するなかで、我々はMSCIターゲット・スコアカードが投資家の意思決定において不可欠なツールになることを願っています。

 

MSCIターゲット・スコアカードの開発は最近ローンチされたMSCIレポート「ネットゼロ革命における資本の役割」に続くものになる。このレポートでは、気候災害の回避に必要となる体系的な変革を早急に推進するために、資本市場の参加者が強力かつ前向きな動力とならなければならないことを強調しており、2050年までにネットゼロ経済を実現するために企業やアセット・オーナー、アセット・マネージャーががとるべき具体的なステップを明示している。透明性を確保するために、MSCIはMSCI ACWI IMI ネットゼロ・​トラッカー(気温上昇を1.5度以内に抑えるシナリオとMSCI ACWI IMIの整合性を示すレポート)を四半期ごとに公表していく。