インベスコ、ソブリン投資家へのグローバル調査結果を発表


インベスコは2021年7月12日、第9回目となるインベスコ・グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・ スタディを発表した。この調査は、ソブリン投資家と中央銀行の投資動向について詳細な分析を提供するもの。今年の調査では、82のソブリン投資家と59の中央銀行の投資責任者、資産クラスの責任者、シニア・ポートフォリオ・ストラテジスト、計141名への個別面談調査を行った。調査対象となった運用資産総額は19兆米ドルに上る。

今年の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大が事業オペレーションと投資戦略の双方に影響を与えていることを踏ま え、コロナ禍の影響を中心に分析した。

新型コロナウイルス感染症により流動性が焦点に。保有資産額は減少し、現金資産の割合は倍増

新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の低迷に伴い税収が減少する中で、政府は経済や、公衆衛生といった公共 サービスを支える政策を相次いで実施し、企業や家計を支援した。

そのため一部の政府は、資本支援ならびに財政赤字補填のために政府系ファンドなどのソブリン投資家を活用したことから、1/3以上のソブリン投資家の保有資産が減少する結果となった。

ソブリン投資家の多くは、世界金融危機の経験から多額の現金を保有する重要性を学んでおり、財政の安定化を図ること で、地域経済や大企業を支えた。しかしながら、その準備が十分でなかったソブリン投資家においては、資金引き出しの 規模とそのスピードが資産配分に多大な影響を及ぼし、ソブリン投資家の間で流動性リスクが再考される結果となった。一部のソブリン投資家はさらなる資金の引き出しの可能性を見越して保有資産の流動性を継続的に重視したことから、現 金への選好が高まり、現金資産の割合は2020年間で倍以上に上昇した。

しかしながら、ソブリン投資家はまた、コロナ禍が流動性の重要性をより浮き彫りにしたと指摘している。流動性の確保は、 今後起こりうる「ブラックスワン」に対するリスクヘッジとなる一方、2020年初の株式市場のような投資の好機に対して柔軟なアプローチをとるためにも重要であると考えている。

保有資産の減少については地域・経済により状況が異なっている。中東の57%、新興市場の82%が資産減少となったが、主に資源に依存する経済構造の影響によるものだった。一方、アジアや欧米では1/5程度にとどまり、パンデミックに より資金調達に影響が出る可能性が高い企業を支援する動きも多く見られた。

この調査では、ソブリン投資家の資産配分の変化も明らかになった。インベスコによると、これは、大規模な金融緩和政策による金利の低下 により、債券利回りの低下に直面したソブリン投資家が別の資産を検討せざるを得なくなったため。債券への配分は、 景気刺激政策によるインフレ懸念から、34%から30%に低下した。一方で、ソブリン投資家は過去2年間、株式への 配分を削減させてきたが、2020年第1四半期までの株価の上昇から、株式投資は2020年から2%増加となる、 28%となった。また30%のソブリン投資家は、今後12カ月間に株式への投資を増やすと回答している。

インベスコのオフィシャル・インスティチューション・ヘッドのロッド・リンゴー氏は、「財政問題に直面した政府は、財政赤字の穴埋め のため、ソブリン投資家を活用しました。十分に資金が準備されているソブリン投資家もいた一方で、迅速な対応を迫られた ソブリン投資家もみられました。またソブリン投資家の間では、市場機会を逃さず活用するために手元資金を維持することの 重要性を認識するようになりました。同時に、極めて低い金利環境の下で十分なリターンを確保することは、戦略的資産配 分ならびに市場リスクの洞察に対して、ある程度の期間、大きな影響を与えるでしょう」と述べている。

 

コロナ禍がソブリン投資家のESG投資を促進

この調査では、ソブリン投資家および中央銀行における、環境、社会、ガバナンス(ESG)の原則の採用が、2017年以降、 急激に進んでいることが明らかになっている。組織レベルでESGを採用する回答者の割合はわずか4年間で劇的に増加 し、ソブリン投資家では46%から64%に、中央銀行では11%から38%に上昇した。

新型コロナウイルスの感染拡大により、ソブリン投資家と中央銀行はESG投資の重要性をより強く認識するようになり、ソブ リン投資家の23%、中央銀行の45%がESGを重視するようになった。また、ESGインテグレーションに対する理解や実 践が高いほど、コロナ禍におけるESG重視の傾向が強くなることも明らかになった。少なくとも過去5年の間にESGインテグ レーションを進めたソブリン投資家の約半数が、新型コロナウイルスの感染拡大によりESGをより重視するようになったと回答 している。

2017年の調査では、危機時においてESGを全く考慮しない一部のソブリン投資家の姿勢が浮き彫りになっており、投資目的によりESG投資への取り組み状況は異なるものの、ソブリン投資家のESGへのコミットメントは、2017年当時とは様変わりしている。

例えば、流動性ソブリン1は、資金調達予算の不足を補うために流動性の維持に重点を置いており、正式にESGを採用し ているのは流動性ソブリンの12%にとどまっている。一方で、債務ソブリンの79%はESG投資を採用しているが、インベスコによると、これは、彼らの投資期間が長く、気候変動などの長期的なリスクを考慮する必要があることや、受益国の見解や優先事項を反 映する必要があるため。

またソブリン投資家が、持続可能な投資に関する研究を促進させていることも明らかになった。気候関連の投資機会の 高まりを背景に、ESGインテグレーションの目的が投資リターンの改善へと変化している。57%のソブリン投資家は、市場がまだ気候変動の長期的な影響を織り込んでいないとみており、超過収益機会があると考えている。

1この調査では、ソブリン投資家の投資目的により、独自の分類をしています。分類は投資ソブリン、開発ソブリン、債務ソブリン、流動性ソブリン、中央銀行の5つ。

 

地政学的リスクは残るものの、新型コロナウイルス感染症の収束と共に中国への投資を再開

魅力的な内需によるリターンと多様な投資機会に支えられ、中国の投資妙味は過去4年間で着実に高まっている。 2020年初からの数カ月においては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が不透明であったため、中国を含む脆弱性が認められる市場からは戦略的に距離を置き、北米市場、特に米国債などの相対的に安全な資産に投資を振り向けたソブ リン投資家の姿が見られた。

新型コロナウイルスの感染拡大への迅速な対応により、アジアの新興諸国の経済は急回復した。その結果、投資ソブリ ンの40%、流動性ソブリンの56%が、中国がコロナ以前の水準よりも魅力的であると考えている。投資先としての魅力度 で劣るとみられた欧州や中東、ならびに中南米やアフリカなどの新興市場への投資を削減したことと引き換えに、アジア地域 への資産配分を引き上げた。

中国の魅力が高まる一方で、中国への投資には際立った障害があることも指摘されている。資産配分の決定に影響を及 ぼす重大な障害として、ソブリン投資家の86%が米国との政治的緊張の高まりを指摘している。政治的リスクは、投資に 対する最も重大な障壁であると同時に、過去2年間で最も悪化した障害とも考えられている。

その他の障害としては、人民元の他資産への転換の難しさ(50%)、ESGへの配慮と投資との整合性が欠けていること (45%)、投資家の権利が相対的に欠けていること(41%)などが挙げられている。

この調査では、2021年には、ソブリン投資家は、新たな資金と北米および欧州先進国への資産配分を削減することにより、 中国への資産配分を増加する見通しであることが明らかになっている。インベスコによると、新興中産階級や高度にデジタル化された経済などの好調な消費者テーマを持つ経済・政治大国として中国が台頭したことは、ソブリン投資家にとって魅力的なリターンの源泉となることが期待される。この調査では、ソブリン投資家の75%が中国への投資に魅力を感じており、さらに57%が中国を重要な投資先として見ていることが明らかになっている。

多くのソブリン投資家は中国に対して依然として強気であり、資産配分を増やすことを検討している。ソブリン投資家の 40%が、今後5年間で資産配分を増やす予定と回答している。ある債務ソブリンは、中国は、持続可能なエネルギー、イ ンフラ、不動産開発の最大の市場であると言及するなど、今後5年間で中国への配分を増やすと回答した債務ソブリンは 32%に及んだ。

「中国の魅力が増している背景は、アクセスの改善と魅力的なリターンを得る機会の増加にあります。テクノロジーなどの分野 におけるイノベーションや、インフラストラクチャーなどの分野における外国資本の呼び込みが、それらを後押しています。環境 問題への対応においても、企業努力が見られます。しかしながら、コーポレート・ガバナンスをめぐる透明性は引き続き懸念さ れており、オペレーション上の問題となっている点は、中国市場の特殊性を示す一例です」とリンゴー氏は述べている。