インベスコ、ソブリン投資家へのグローバル調査結果を発表


インベスコは2020年7月20日に、第8回目となるインベスコ・グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタ ディ(英語版)を発表し、その日本語版を8月6日に公表した。 同調査は、ソブリン投資家と中央銀行の投資動向について詳細な分析を提供するもの。今年の調査で は、83 のソブリン投資家と 56 の中央銀行の投資責任者、資産クラスの責任者、シニア・ポートフォリオ・ストラテジスト、計 139 名への個別面談調査を行った。調査対象となった運用資産総額は 19 兆米ドルに上る。

今年の調査では以下のことが明らかになった。

  • ソブリン投資家は、コロナショックによる「前例のない買いの好機」へ、手元資金を投資
  • 投資家は、コロナショック以前より株式へのアロケーションを引き下げてきた一方、債券、流動性の低いオルタナティブ資産、ESG目標を達成するためのインフラストラクチャー投資を選好
  • 中央銀行は、マイナス利回りの債券の代替として、金(ゴールド)への投資を進める
  • アジアや新興市場の投資家を中心に、気候変動への懸念が拡大

 

危機を機会と捉える一方、株式保有比率は引き下げの方向

調査の結果、多くのソブリン投資家が、コロナショックによる市場の混乱にうまく対処できていたことが明らかになった。潤沢な手 元資金を持っていたことから、金融資産のバリュエーションの下落を投資機会として活用できた他、長期に資金を運用する主体として、資金引き出しニーズからの資産売却圧力を受けなかったこともメリットをもたらした。また、ソブリン投資家は、世界金融危機より学んだ教訓から改革を進めており、多額の現金の保有や、保有資産の流動性を担保するのための組織的な取り組みが行 なわれていたことが、今回の市場の混乱への対応に貢献した。

新型コロナウイルス感染拡大が金融市場に影響を与える以前の 2019 年末における、ソブリン投資家の株式への平均的な配分比率は 26%であり、これは債券(34%)との相対感や、資産配分全体に占める株式の比率として、2013 年以降で最低の水準にあった。その背景は、景気サイクルが終盤を迎えていたことへの懸念であり、株式への配分は戦略的に 引き下げられている状態だった。世界全体では、今後 12 カ月の間にソブリン投資家の 37%が株式の配分を減らすことを目標としており、その内の半分の投資家は 5%以上の配分削減を目標としている。一方、今後 12 カ月の間に株式配分を増やすとし たソブリン投資家は 22%にとどまり、その引き上げに対しても慎重な姿勢を見せている。

 

投資家は、債券、流動性の低いオルタナティブ資産、特にインフラへの投資を選好している

今後 12 カ月の間、ソブリン投資家の 43%は債券へ、43%はプライベート・エクイティとインフラ・ストラクチャー投資へ、38%は不動産へ、引き続き、資産配分を進めると回答している。

インベスコのオフィシャル・インスティチューション・ヘッドのロッド・リンゴー氏は、次のように述べている。

債券は、伝統的にディフェンシブ資産とみなされています。今回の危機で、多くの投資家は米国債すらも現金に変えるという行動 をとりましたが、金利引き下げや世界的な量的緩和という当局の介入が債券利回りを押し下げた(債券価格を押し上げた)た め、結果として、多くのソブリン投資家の債券ポートフォリオ部分にプラスの影響を及ぼしました。

また、コロナショックによる市場の混乱は優良な投資機会を作り出したことから、インフラ・プロジェクトに対する一層の投資を加速させた。インフラ投資は、数少ない案件に多くの資金が集中していたため、多くの投資家はインフラ投資に対して割高感が強いと考えていた。しかしながら、一定のソブリン投資家は、売却圧力の強い空港などのサブセクターの現在の状況を、投資の好機と捉えている。また、ソブリン投資家は、特に発電と送電(54%)、通信(52%)のインフラ投資に最も高い関心を持っていると回答している。

リンゴー氏は、「化石燃料への依存を解消するインフラ・プロジェクト、特に発電・送電プロジェクトは、かつて国レベルの ESG 目標を達成する手 段とみなされていました。ただし、現在は、多くの年金基金も同様の目標を掲げているため、中規模のソブリン投資家や新しく投資 を検討するソブリン投資家にとって、適切な投資案件への参加できるかが課題となるでしょう」とコメントしている。

 

新型コロナウイルス感染拡大により高まる金(ゴールド)への選好

今年の調査では、中央銀行と一定数のソブリン投資家の双方が、金への資産配分を増やしている。平均すると、中央銀行の 準備金全体の 4.8%が、現在、金に配分されており、これは 2019 年調査の 4.2%から増加している。また、マ イナスの利回りとなった債券の代替として増やされた資産の約半分(48%)が金へ向かっている。インベスコによると、金資産の増加の主な背景 は、分散効果、期待リターン、インフレ・ヘッジという金が選好される伝統的な理由というよりも、マイナス金利下での代替資産という理由が強いものと考えられる。中央銀行は、金の投資について過去の投資比率を参考とすることがよく見られるが、ソブリン 投資家の金へのスタート地点は異なっている。金は、リスク・オンのシナリオでは正の相関があるが、リスク・オフのシナリオでは ほとんど相関がない、もしくは負の相関がある。そのため、多くのソブリン投資家にとって、金は強力なインフレ・ヘッジ資産、もしく は極端にネガティブなイベント(テール・リスク)へのリスク・ヘッジ資産と見なされている。

金への配分を増やすことを選択した中央銀行の 5 分の 4 は、米ドル資産から資金を移動させており、これはユーロや英ポンドの 資産からの資金移動を大きく上回る。このことは、中央銀行が直面している大きな課題を浮き彫りにしている。インベスコによると、流動性と兌 換性を犠牲にすることなく、米ドルへのエクスポージャーを下げる方法を模索している。この傾向は、金による準備金の比率を引き上げるために、その 90%近くの原資を米ドル資産としている新興市場の中央銀行において特に顕著だった。

ソブリン投資家が金を投資する際には、複数の選択肢がある。物理的に金を保有することも引き続き行われているが、より柔軟なアプローチがある。現在、金に投資するソブリン投資家の 40%が先物指数を利用しており、先物の柔軟性や、トレー ディング・スキルによって得られるリターン獲得をその理由としている。また、ソブリン投資家の 40%は、金を担保とする ETF を通 じた投資を行っている。金 ETF への投資は近年急激な増加を見せており、昨年対比で 80%の増加となっている。

ETF への金投資は、中央銀行にとっても一つの選択肢。国内での地金の実保有を増やさずに金へのエクスポージャーを増やす手段として、またブリオン・バンク(貴金属の取引を手がける銀行)の信用リスクを負わない投資の手段として、ETF による金投 資の魅力度は高まっている。さらに、実物の金の売買コストの高さを考えると、ETF は、この資産クラスを取引するにあたり政府としてもより受け入れやすい手段となりえる。

リンゴー氏は次のように述べている。

昨年の調査結果でも金投資への選好の高まりは見られていましたが、コロナショックを経て、金はソブリン投資家のポートフォリオ 内の新しい役割を果たす資産クラスであることが明確になりました。また、実物保有している地金の換金性は高いとはいえず、中 央銀行とソブリン投資家の双方は金 ETF 活用の検討を進めています。これら代替的な投資手段の広がりにより、今 後、金投資への関心が高まる可能性は高いと考えています。

 

気候変動への懸念の高まりが、投資行動へ変化をもたらす見込み

今年の調査では、中央銀行とソブリン投資家の 83%が、気候変動に対して早急な対応をとる必要があると考えていることが、明らかになった。気候関連のリスクは、投資プロセスに広範に内包されるべきであるという考えは、実際の投資戦略へより組み込 まれつつある。

その中でも、自然災害の増加が、世界的に最大の懸念事項となっていることも明らかになった。そして、投資家は、 直接的に被害を受けるリスクを懸念する傾向があるため、地域によって意見は大きく異なる。欧米の投資家は、金属や鉱山、 石油・ガスにかなりのエクスポージャーを抱えていることから、低炭素社会への移行を最も意識している。一方、アジアの 88%、 新興市場の 75%の投資家が、気候変動の影響を他地域より大きく受けると考えており、これは欧米(33%)の認識をはるか に上回っている。これらの地域は、自由貿易の下での農産物の輸出に依存していることから、異常気象による農産 物生産への影響を懸念している。

 

ESG の更なる普及に向けた課題

今年の調査では、環境規制は企業にとって明確なガイドラインを提示しているものの、投資家にとって実行可能なガイドラインを示 していないことが指摘されている。ESG への取り組みを進めている中央銀行もある一方、多くの中央銀行では取り組み自体が 難しく、気候変動リスクにより積極的に取り組むためには、中央銀行の権限や政策を見直さなければならないと主張している。 ソブリン投資家においても、より明確なガイドラインが必要なのは同様。今年の調査では、公的機関は ESG の定義を明確に し、ESG を取り入れる道筋を示し、ポートフォリオの炭素排出量目標に関する変数を設定する必要があることが示されている。

リンゴー氏は「われわれは、政府と中央銀行が気候変動の問題を投資決定の中に組み入れ、気候変動リスクを認知し、またそのリ スクを緩和する施策に取り組み続けていることを好意的にとらえています。次のステップを踏むためには、政策立案者や他の投資 家からのより広範なサポートが必要になるでしょう。新しい創造的な解決策こそが、投資家の気候変動リスクに対する取り組みを 強く動かすでしょう」と述べている。