グリーンウォッシングとは?


グリーンウォッシングとは?

企業の経営においても、投資信託を含む金融の世界でも、そして社会全体でも、地球温暖化や環境問題が大きな注目を浴びています。そんな中、うわべだけ環境保護に熱心であるように見せたり、うわべだけ環境に配慮した投資を行っているように見せたり、環境に配慮した製品やサービスであるかのように装ったりすることを「グリーンウォッシング」と呼びます。

グリーンウォッシングは、「グリーン(=環境に配慮した)」と「ホワイトウォッシング(=ごまかす、うわべを取り繕う)」を合わせた造語です。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した商品であると謳いながら、実態が伴っていないことをESGウォッシイングと呼びます。

企業が自社の商品などについて、「エコ」である、「環境にやさしい」、「グリーン」である、「サステナブルである」と言っても、その言葉の意味するところは様々で、定義が確立されているわけではありません。表現は曖昧で、具体的な数値で示されていない、裏付けされていないことが多く見られ、グリーンウォッシイングは大きな問題となっています。

 

投資信託におけるグリーンウォッシイング

投資信託においてもグリーンウォッシングやESGウォッシングは大きな問題です。

投資信託では、環境に配慮した商品やサービスを提供する企業の株式に投資する投資信託、環境に配慮した行動をとる企業に投資する投資信託、環境改善・省エネや温暖化防止に役立つ商品やサービスを提供する企業に投資する投資信託などをグリーンファンドやエコファンドと呼び、銘柄選択にESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した投資信託をESGファンドと呼びます。ファンドの名称に「ESG」「サステナブル」「環境」などを含んだファンドが数多く運用されており、その数は増加傾向にあります。金融庁が公表した「ESG関連公募投資信託を巡る状況」によると、2021年10月時点で、37社が225本のESGを謳った投資信託を運用しています。

 

一般に、グリーンファンドでは環境を、ESGファンドでは、環境・社会・ガバナンスを投資判断の基準に組み込んでおり、ファンドマネージャーが組み入れ対象企業の財務分析に加えて、環境、社会、ガバナンスの要素を考慮して銘柄を選択します。環境・社会・ガバナンス面での評価については、外部のESG評価機関による評価やESGデータのプロバイダーによるデータを採用するケースも見られます。ただし、同じESGファンドと言われるファンドであっても、各投資信託の銘柄選定基準や重要視するESGの観点は異なります。

しかし、ESGファンドであると謳っていても、ESGのどの要素を考慮しているのか、銘柄選択までのプロセスのどの段階でESGを考慮しているのか、どの程度重視しているのか、どのような手法を用いてESG評価を行なっているのかは、目論見書などで明確に説明されていないケースが多く見られます。

 

金融庁は、資産運用業高度化プログレスレポート 2022 の「ESG関連公募投資信託を巡る状況」の中で、ESGファンドの問題点を次のように指摘しています。

  • 一部の資産運用会社は、レポート等を活用して、自社としてのESG投資に対する基本的な考え方や取組状況を開示する等の対応を行なっていない。
  • 多くのESG投信において、目論見書上、運用プロセスにおけるESG要素の考慮方法に関する記載が抽象的。
  • 運用状況や投資銘柄に対する評価については、月報や運用報告書において、せいぜい投信への組入上位10位銘柄のESGに関連する取組みを簡潔に記載する程度。

 

そこで、金融庁は「顧客が投資商品の内容を誤解することなく正しく理解し、他の商品と比較するなどして適切な投資判断を行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、適切な情報提供や開示を積極的に進めるべき」と指摘しています。

また、ESGファンドを運用する運用会社に対して、次のような指摘もしています。

  • 専門性を有する人材の確保を含めた必要な組織体制を構築しつつ、自社の提供するESG投信で企業価値に影響を与えるESG要素どのように特定・評価しているのか、ポートフォリオの決定にどのように活用しているのか、ESG関連の事業機会の向上と事業リスクの低減に向けたエンゲージメント・議決権行使をどのように行っているのか等について、明確に説明できるよう、運用プロセスの高度化や開示の充実に取り組むべきである。
  • 企業分析の一要素としてESG 要素を考慮するにとどまる場合は、目論見書等において、殊更 ESGやサステナビリティ等を強調することにより、 ESGを主たる特徴とする投資信託(例えば、ESG 要素を超過収益の源泉と位置付けてESG 評価の高い銘柄を選定する投資信託や、環境や社会的効果の創出を目的とする投資信託等)であるかのような誤解を投資家に与えないようにすべきである。

 

運用会社レベルでのESGファンドの定義

金融庁がグリーンウォッシングやESGウォッシングに対する懸念を表明する一方で、運用会社でも投資家に誤解を与えないようにESGファンドの定義を明確化する動きもあります。

例えば、野村アセットマネジメントは、ESGファンドの定義を改定し、サステナブル投資を普及するための国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の定める7つのESG投資分類のうち、ESG統合、エンゲージメント・議決権行使、その他のサステナブル戦略を積極的に活用しているファンドを「ESGファンド」と定義しています。

野村アセットマネジメントのESGファンドの定義

ESG統合 広く普及している手法で、投資先選定の過程で、財務情報だけでなく非財務的情報も含めて分析する戦略。
エンゲージメント・議決権行使 企業のESGに関する案件に、株主として積極的に働きかける投資手法。株主総会での議決権行使、経営者へのエンゲージメント、情報開示要求などを通じて投資先企業にESGへの配慮を促す。
その他のサステナブル戦略 GSIAが分類するESG投資7つの手法のうち、上記の「ESG統合」、「エンゲージメント・議決権行使」に加えて、「ネガティブ・スクリーニング」「ポジティブ・スクリーニング」「規範に基づくスクリーニング」「サステナブル・テーマ投資」「インパクト投資」を積極的に活用。

(出所:野村アセットマネジメントHP)

 

参考:GSIAの7つのESG投資分類

  1. ESG統合(ESG integration)
  2. ネガティブ・スクリーニング(Negative/exclusionary screening)
  3. エンゲージメント・議決権行使(Corporate engagement and shareholder action)
  4. 規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
  5. サステナブル・テーマ投資(Sustainability-themed investing)
  6. ポジティブ・スクリーニング(Positive/best-in-class screening )
  7. インパクト投資・コミュニティ投資(Impact/community investing)

 

ESGインデックスファンドという選択肢

個人投資家にとっては、ESGを謳っている投資信託が本当にESGをきちんと考慮した銘柄選択や運用を行っているかどうかを知ることは困難ですが、ESG関連のベンチマークを採用しているインデックスファンドを選択することで、グリーンウォッシング・ESGウォッシングされたファンドを回避することは可能です。

ESG関連のベンチマークに限らず、株価指数債券指数といった投資信託で採用されているベンチマークは、世界的な指数会社が算出・公表しており、ベンチマークに含める銘柄を選択するまでのプロセスやルールは厳格に確立・公表されています。そのような専門会社が公表した指数をベンチマークとして採用しているインデックスファンドは、ベンチマークの構成銘柄をベンチマークと同じ比率で保有することになるため、そのようなインデックスファンドに投資することでグリーンウォッシング・ESGウォッシングされたファンドを回避することができます。

ESG関連のベンチマークには様々なものがあります。重視しているESG/グリーン観点や重きの置き方は異なります。ESGインデックスファンドの中から自分が関心のあるESG課題に重点を置いたベンチマークとそれに連動するインデックスファンドを選択することができます。

ESGインデックスファンドの例:

ファンド名 ベンチマーク ベンチマークの特徴
iシェアーズ MSCI ジャパンSRI ETF(銘柄コード:2851) MSCIジャパン700 SRIセレクト指数(配当込み) MSCI社の基準に基づき、高い環境・社会・ガバナンス(ESG)の格付けを有する企業700社で構成。
iシェアーズ 気候リスク調整世界国債 ETF(除く日本・為替ヘッジあり)(銘柄コード:2853) FTSEアドバンスト気候リスク調整世界国債インデックス(除く日本、国内投信用、円ヘッジ・円ベース) 外国の国債を主要投資対象とし、各国の気候リスクに応じて指数の構成銘柄の組入比率を積極的に調整する指数。FTSE社が算出。
NEXT FUNDS SolactiveジャパンESGコア指数連動型上場投信(銘柄コード:2850) Solactive Japan ESG Core 指数 日本の株式を対象として、中長期の成長が期待される業種の中からSolactive社の定めるESG基準に適合する銘柄や、その他の業種の中で相対的にESGスコアの高い銘柄を採用する指数。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量にも着目。
グローバルX MSCI 気候変動対応-日本株式 ETF(銘柄コード:2848) MSCI Japan Climate Change Index 大型および中型の国内上場株式を対象として、低炭素経済への移行に伴うリスクの低い企業の比率を高めることにより、低炭素経済への移行に伴うリスクへの対応力を考慮したポートフォリオで構成される指数。MSCI社が算出。
One ETF ESG(銘柄コード:1498) FTSE Blossom Japan Index FTSE インターナショナルリミテッドの基準に基づき、ESG(環境・社会・ガバナンス)要因への対応力が優れた企業で構成された指数。
野村インデックスファンド・先進国ESG 株式(愛称:Funds-I 先進国ESG株式) FTSE4Good Developed 100 Index 世界の先進国における企業で、ESG選定基準によってスクリーニングされた時価総額上位約100社によって構成される指数。FTSE社が算出。
HSBC ESG米国株式インデックスファンド FTSE USA ESG ローカーボン・セレクト・インデックス 米国企業における、ESGの取組みや温室効果ガス(CO2)の排出量を多面的に評価し、構成銘柄と比率を決定する指数。FTSE社が算出。
国内株式ESGインデックス・オープン MSCIジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数 MSCIジャパンIMI指数構成銘柄の中から、ESG評価に優れた企業を選別して構築される指数。MSCI社が算出。

 

グリーンウォッシュ防止のためのルール作り

現在、日本だけでなく米国や欧州でも、ESGファンドやグリーンファンドと呼ばれるファンドについて、グリーンウォッシュ防止のためのルール作りが行われつつあります。

欧州では、2021年3月に、欧州連合(EU)で金融機関等を対象としたサステナビリティ関連の開示規制(SFDR:EU Regulation on Sustainability related Disclosure in the Financial service sector)が施行されました。

 

米国では、2022年5月に証券取引委員会が、ファンド名に関して、「ESG」をファンド名に含めることができるファンドのルール(Name Rule)とESGファンドの情報公開に関するルール案を公表しました。

 

日本でも、金融庁が2022年度中に、運用会社に対するグリーンウォッシイング防止のための監督指針をまとめると期待されています。

 

まとめ

  • グリーンウォッシングとは、うわべだけ環境保護に熱心であるように見せたり、うわべだけ環境に配慮した投資を行っているように見せたり、環境に配慮した製品やサービスであるかのように装ったりすること
  • ESGウォッシングとは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した商品や投資であると謳いながら、実態が伴っていないこと
  • 銘柄選択までのプロセスや手法等が明確に確立・開示されているベンチマークに連動するESGインデックスファンドを選択することで、グリーンウォッシングやESGウォッシングを回避することができる。
  • グリーンファンドやESGファンドを購入する際には、ファンドがどのESG課題を重視しているか、どのようにESGを評価しているか、どのようにそれを銘柄選択に利用しているかなどが、目論見書、月報、運用報告書などで十分に説明されているかを確認することが大切。疑問に思う点があれば、販売会社や運用会社のカスタマーサービスに問い合わせる。