インベスコ、債券投資家の投資行動についての調査結果を発表


インベスコは、債券投資家の投資行動に関して詳細な調査を行い、2018年1月29日に、その結果 に関するレポートを「インベスコ・グローバル・フィックスト・インカム・スタディ」として発表した。 この調査によれば、中央銀行の金融政策の正常化に伴い、債券市場への関与が減退し始めたこ とで、2008 年の世界金融危機以降続いてきた債券市場のボラティリティが低い状態が終わりに近づいていると多くの投資家が感じ始めていることが明らかとなった。

今回の調査では、世界の 79(うち、アジア太平洋地域は 21)の機関投資家(その総資産は 1.2 兆米ド ル)からの回答を分析した。彼らは、景気が緩やかに改善しながら低利回り、低インフレ、中央銀 行による介入が続くと考えている模様。 そして同時に、中央銀行が金利を引き上げ、債券購入額 の縮小(テーパリング)を開始したとしても、世界経済の強さが続くと自信を持っている。

インベスコでグレーター・チャイナ、東南アジア、韓国の CEO を務めるテリー・パン氏は、「市場のファ ンダメンタルズの改善と金融政策の引き締めを踏まえ、アジア太平洋地域の債券投資家は、金利リスク をヘッジしたり、値上がり益や高い利回りが見込めるソリューションに資金を配分する傾向があること が明らかになりました。具体的には、近年、バンクローンや新興国債券といったオルタナティブ・クレ ジットへの投資に投資家の関心が高まっており、こうした資産クラスは今後も当面は、投資家の高い人 気を博すだろう」とコメントしている。

今回の調査に回答した投資家の大半(58%)は、世界経済が回復の途上にあると考えている一方で、そ の正常化の過程は、これまで歴史的に景気後退の後に繰り返された典型的なものとは異なるとも考えて いる。さらに、大多数の投資家は、変化が起きたことにより、緩やかな経済成長率など、主要な経済 指標は今後も抑制的な水準で推移し、中央銀行の利上げは徐々に行われ、インフレ上昇への懸念もほと んどないことから、結果として債券市場では短期金利の方が長期金利よりも速く上昇する利回り曲線の フラット化が進行すると考えている。

 

世界的な動向

今回の調査に参加した投資家の大半は、債券投資は今後、低利回り、低インフレ、中央銀行による介入 といった特徴を有する「ニュー・ノーマル」の時代を迎えると考えている。また、非常に少数ながら、 経済が依然として脆弱な中で、景気サイクルが後退局面を迎えることでデフレが強まるという正反対の 意見もあった。インフレの加速は、トランプ政権の政策目標に内在されているにもかかわらず、そ れが景気拡大サイクルに終わりをもたらすと考える投資家は非常に少数派にとどまっている。

過去 3 年間は毎年、利回りが前年よりも低下するという状況が続いたため、投資家の最大の課題は、い かに低利回り環境を乗り切るかということだった。しかし、低利回り環境が債券ポートフォリオに依然 として大きな影響をもたらしている一方で、新たに影響を及ぼす課題も浮上している。

  • 人口の高齢化は、確定給付型、確定拠出型、どちらの年金基金にとっても最大の懸念事項。 人口の高齢化により、確定給付型年金基金は、積立不足と資産・負債のミスマッチが深刻化し、リスクがさらに高まる最大の難局に直面している。
  • 保険会社にとっては、規制の強化が最大の懸念事項となっている。欧州におけるソルベンシ ーII、アジアにおけるリスク・ベース資本および中国リスク・オリエンテッド・ソルベン シー・システム(C-Ross)などは全て透明性とリスク管理の向上を目指すもの。こう した動きは、特に大型の保険契約を有し、十分な保証のために高いリターンを求められる 保険会社にとって課題となる。
  • ポピュリスト政党の台頭やユーロ圏崩壊のリスク、予測不可能なトランプ政権などにより、地政学的な不透明感の高まりが債券投資家の注目を集めてきた。地政学的なイベントの 影響は、これまでのところ、かなり限られてはいるものの、現時点では 55%、今後 3 年間に ついては 70%の投資家が影響を受けるだろうと回答している。

 

コア債券(グローバル投資適格債) 対 オルタナティブ・クレジット

ここ数十年間で債券プロダクト中のサブ・アセットクラスの領域が大幅に広がり、多様な投資領域に及 んでいる。伝統的なコア債券資産は多くの債券ポートフォリオで引き続き中核的な役割を果たしてい るが、一方で、オルタナティブ・クレジットも機関投資家の債券投資でますます重要になっている。 今回の調査では、投資家は、平均で債券ポートフォリオの 19%をオルタナティブ・クレジットに配分し ている。

過去 3 年間、投資家はポートフォリオ内のコア債券へのアロケーションを減らし、オルタナティブ・ク レジットへのアロケーションを増やしてきた。しかし、本調査に参加した投資家の大半(63%)は、 今後 3 年間は、主に株式ポートフォリオから資金をコア債券に移す予定であると回答している。投資家はオルタナティブ・クレジットへのアロケーションを続けるものの、価格の上昇や投資機会の減少に より魅力が後退しているため、そのペースは緩やかなものになると予想している。

オルタナティブ・クレジットの中でも、依然として人気があるのが新興国債券。本調査に参加した 投資家による新興国債券へのアロケーションの現在の平均は 3%だが、経済ファンダメンタルズの改善や経常赤字の縮小、米国による利上げの直接的影響の低下といった要因を理由に、29%の投資家が今 後 3 年間に新興国債券への資産配分を増やす予定だと回答している。

 

アジア太平洋地域

インベスコによると、債券投資は、アジア太平洋の投資家のポートフォリオにとっても欠かせないものとなってきている。 過去 3 年間にコア債券へのアロケーションを増やした投資家は 43%と、アロケーションを減らした投資 家(38%)よりも多くなった。さらに、インフラストラクチャ―や不動産デットといったものまで含めると、オルタナティブ・クレジットへのアロケーションを増やした投資家は 52%にのぼり、アロケ ーションを減らした投資家は 10%にとどまった。インベスコによると、このようなアロケーション増加の要因には、オル タナティブ・クレジットを活用することで、他のリスク資産よりも低いリスクで超過収益が獲得でき、 さらなる分散が可能になることがある。

それでも、北米や欧州の投資家に比べると、アジア太平洋地域の投資家のオルタナティブ・クレジット へのアロケーションは依然として低いものにとどまっている。ただし、アジア太平洋地域の投資家の 大半が新興国債券やハイ・イールド社債、バンクローンといったオルタナティブ・クレジット資産への エクスポージャーを増やそうとしていることから、インベスコでは、こうした状況も今後は変わっていくと見ている。

世界経済の予想に関しては、アジア太平洋地域の投資家は、欧州や北米の投資家ほど前向きなわけでは ない。世界経済がさらに好調になると考える投資家が 15%に過ぎない一方で、ニュートラル(現 状水準が続く)と答えた投資家は 70%にのぼっている。さらにアジア太平洋地域の投資家の 35%が、 世界の中央銀行の政策が量的緩和から引き締めに転じると考えている。

同地域の投資家にとっては、現状の、および将来的な規制の問題が最大の関心事であり、北米や欧州の 投資家に比べ、低い利回りや高齢化といった問題はそれほど懸念されていない。

「実際、アジアの投資家、中でもアジアの保険会社は、中国の保険市場に影響をもたらしうる特有の規 制課題(C-ROSS)に直面しています」とテリー・パン氏は述べ、「多くの保険会社が高利回りを前提とし た大型の保証型契約を有しており、その保証利率は国債の利回りより高いものとなっています。しかし、 規制ではよりリスクの低い債券プロダクトを積極的に活用するよう推奨しています。こうしたことも、 本調査への回答で、アジア太平洋地域の投資家のオルタナティブ・クレジットへの関心の高まりがみら れる一因となっています」とコメントした。

アジア太平洋地域における個人投資家の間では、債券投資において、元本の保護やインカムの獲得より も値上がり益の追求が主目的となっている。この結果は、欧州や北米の個人投資家が元本の保護を主 目的に挙げていることとは対照的。