インベスコ チーフ・エコノミスト ジョン・グリーンウッド氏、 2020年の世界経済見通しを発表


インベスコのチーフ・エコノミストであるジョン・グリーンウッド氏は、2020年1月9日に、2020 年の世界経済見通しを発表した。2019 年の世界経済は、地政学的緊張、貿易戦争、および鉱工業生産低下の影響が見られたが、2020 年の世界経済は低インフレの環境下、緩やかな拡大基調が続くと予測している。

グリーンウッド氏は、地政学的な大きな混乱が景気の腰を折る可能性はあるものの、マネーサプライの伸びや民間部門の良好なバランスシートなどの景気拡大を支える要因が、その他のマイナス要因を上回ることを強調している。グリーンウッド氏は「2020年は、景気悪化や景気後退が差し迫っているとの話を多く耳にすることになるだろうが、2019 年と同じで最終的には景気後退には陥らないだろう」と述べている。

 

米国:景気拡大期が続く

過去 1 年間、米国では景気後退への不安が、時折、広がったにもかかわらず、2019 年 7-9 月期の GDP 成 長率は+2.1%になるなど、米国経済は成長を続けた。グリーンウッド氏は、低水準の民間投資、トランプ大統 領の貿易戦争による貿易の停滞、ブレグジット、軍事紛争、中東の石油供給の混乱などの地政学的リスクなど を、市場は過度に懸念していると述べている。

米国の民間部門のバランスシートは大幅に改善しており、民間部門の GDP に対する債務残高の比率は 2008 年 7-9 月期の 296%から 2019 年 4-6 月期には 226%と、2001 年の水準まで低下した。この間のイ ンフレ率は低く、2020 年も同様の落ち着いたインフレ環境を予想しており、米連邦準備理事会(FRB)が突 然金融政策の引き締めを行うこともないだろうと考えている。また、マネーサプライは、過去 6 か月間で大きな 伸びを見せ、2019 年 4 月以降、M2 の伸びは年率 4%程度から 8%程度へとほぼ倍増している。グリーンウッド氏は、「米国の景気サイクルはいまだ半ばにあり、後半ではない。米国史上最長の 11 年目の景気拡 大期にあり、2020 年 7 月以降は 12 年目に入っていく」と述べた。

 

欧州:低成長が続く一方、ブレグジットの不透明感は緩和

ユーロ圏では、過去 18 か月間にわたり製造業が大きく低迷し、失業率が依然として高い状態にある地域も複数存在する。インフレ率は、マネーサプライの伸びが不十分な結果、慢性的な需要の弱さを反映し目標値で ある 2%を大幅に下回っている。グリーンウッド氏は、現在の金融政策のもとでは、雇用と金利が健全な水準に戻るような域内の需要の拡大はほとんど見込めないと予測している。さらに、欧州中央銀行(ECB)のマイナ ス金利政策とユーロ圏の低成長は、貯蓄性預金、生命保険、年金基金など資産運用の業界に損害を与え続 けると考えている。

英国では、2016 年 6 月の英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を問う国民投票以降の経済の不確実性にもかかわらず、個人消費の増加を背景に、2019 年の景気(賃金・雇用を含む)は比較的堅調さを保った。しかしながら、今後のビジネス環境に不透明感が高いため、民間の設備投資は縮小傾向にある。グリーンウッド氏は、「2019年の選挙で下院の過半数の議席を獲得した保守党が、このような民間部門 の不確実性を取り除くことで、英国の実質 GDP 成長率はより健全な水準に回復するだろう」と述べている。

 

日本:増税後の財政手当があるものの、緩やかな成長に留まる

日本が消費税を引き上げた1997年と2014年では、増税後に景気後退が見られた。そのため安倍首相は、2019年10月の消費税増税後の景気後退を未然に防ぐため、多くの措置を講じた。しかしながら9月中に増税前の支出が急増し、その反動から10月以降の売上は低迷している。

グリーンウッド氏は、マネーサプライの伸びの加速が伴わない財政刺激策が機能しうるかは非常に疑問であると主張している。追加的な政府支出の資金調達方法は、増税、国債発行、貨幣の増発の3つしかない。最初の2つでは、資金は、民間部門の消費または投資から公共セクターの消費または投資に移転されるにとどまり、全体 的な支出は増加しない。三つ目の、マネーサプライの伸びの加速がある場合にのみ、全体的な支出が増加する。グリーンウッド氏は、「安倍総理の財政計画が銀行システムにおけるマネーサプライの伸びの加速を伴わない、もしくは直接調達されない限り、過去30年間にわたり日本政府が実施してきた、20を超える財政刺激策と同じ運 命に陥る可能性が高い」と述べている。

このため、2020 年の実質GDP成長率は1.0%と緩やかなものにとどまると予想している。また同年のインフレ率は、0.6%と低水準をみている。

 

新興市場:中国・インドでの金融引き締めが景気への逆風に

グリーンウッド氏は、中国では貿易の混乱に加えて、国内要因も経済活動を抑制していると指摘している。中国当局は大規模なレバレッジの削減へと政策が移行し、それ以降、非銀行金融機関(シャドーバンク)による貸し出しが減少し、銀行の貸し出しの伸び率は縮小し、M2 の伸び率は前年同期比 8~9%と 40 年間で最も低 い水準となっている。中国人民銀行による政策金利の引き下げや銀行の預金準備率(RRR)引き下げに もかかわらず、マネーサプライの伸びは緩慢なままである。

中国と同様に、2005~2006 年の公的銀行セクターにおけるインドのクレジットの伸び率は平均 31%を超え、 マネーサプライ(M3)の伸びは 2007~2008 年に年率 23%とピークに達した。もっとも、その後は、マネー サプライとクレジットの伸びは長期にわたって下落し、2019 年末には 9.8%まで減速している。その中で、 2016 年以降、公的銀行の不良債権比率は上昇しており(2019 年 3 月末時点で 12%超)、過去 2 年間は民間部門への貸し渋りが見られている。

グリーンウッド氏は、次のように述べている。「世界金融危機下での先進国のように、中国とインドでは正規の銀行 システムと非正規の銀行システムの双方において信用収縮の問題が発生しています。その結果、2020 年の経 済成長率とインフレ率への少なからぬマイナス影響が見込まれます。中国とインドの景気減速は、他の新興国が 産出するコモディティへの需要や、それに関連するサプライチェーンにも影響を及ぼすことが予測されます」。