インベスコ、「グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ 2015」を発表


インベスコは、2015年6月8日、「インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ2015」を発表した。このスタディは、運用資産総額7.09兆ドル2に及ぶ50以上のソブリン投資家への調査に基づき作成され、ソブリン・ウェルス・ファンドの投資動向を詳細に分析するレポートとなっている。

インベスコによると、今回の調査の背景には、原油価格の急落があり、ソブリン投資家から得た情報を基に、その影響を洞察している。さらに、今回は、協力体制の構築が進む新興国市場のインフラストラクチャー投資、および、その投資戦略の実行に着目し、それぞれどのように進化しているかについて検証している。

原油安により、特に北米のソブリン投資家が、財源確保に苦労することを予想

原油価格の急落は、世界の経済、株式市場、および経常収支に大きな影響を与え、ソブリン投資家の財源確保にも短期的には影響を与えた。しかしながら、今回の調査において、全てのソブリン投資家が、同様に原油安の影響を受けていると感じているわけではなく、原油へのエクスポージャー水準(対GDP比で定義)、ガバナンス、リスク、および流動性管理といった要因により、地域差があることが明確になった。

インベスコでは、財源確保の観点からは、中東において原油による財源確保が行われている新興国のソブリン投資家への影響は、最小限にとどまっていると見ている。一方で、コモディティ価格の上昇により州財政が黒字となっていた北米のソブリン投資家からは、短期的に新規の財源確保にマイナスの影響が出るという意見が頻繁に聞かれた。北米のソブリン投資家の大部分(80%)が、今年の財源は減少すると予想しており、残りの20%は、増減なしにとどまっている。

インベスコ・グローバル・ソブリン・グループの責任者、および、インベスコ・ミドル・イーストのヘッドを務めるニック・トーチャー氏は、「原油価格の下落は、特に、北米、およびカナダの州政府に困難な局面をもたらしました。石油関連企業からの収益の減少が、州の税収を減収させたのと同時に、ベビーブーム世代が定年を迎えた結果、州の出費が急増したのです」と述べている。

世界のその他の地域に関しては、北米と比較すると低いものの、原油へのエクスポージャーが高いソブリン投資家の42%が、昨年に比べて、財源が減少すると予想している。つまり、このことは、ソブリンの財源確保と原油の関連性は、新興国の原油関連のソブリン投資家のみの問題ではなく、グローバルな問題であることを示している。

しかしながら、ソブリン投資家自身は、財源確保の懸念が高かった2008年ほどの状況悪化は見込んでいない

原油価格の下落は、ソブリン投資家におけるガバナンス、および法制度の重要性を明確にした。新規財源確保に懸念を抱いているものの、北米のソブリンの大半(80%)は、ソブリンの資産は、政府の資金不足の補填には使用されないと確信を抱いている。反対に、原油により財源を得るソブリンの多くは、原油価格が今後2年間1バレル=40米ドルを下回る水準で推移した場合には、財源減少の可能性があるとしている。

原油価格の下落により、ソブリン投資家の目的、および戦略の二極化が見られる。非常に保守的な投資目的とポートフォリオを有しているため、特に変更を行わない投資家がいる一方で、調整を行い、潜在的な流動性懸念に対処すべく、より進歩的な投資戦略から後退する必要性を感じている投資家も見られる。平均的には、ソブリン投資家(中央銀行を除く)の流動性目的の重要性は、10点が最高のスコアとして、6.7から7.3に上昇している。

ソブリン投資家の回答の中には、短期的に、原油価格の下落がより保守的な投資戦略への回帰を促すために、オルタナティブに対し、より進歩的かつ長期的なアロケーションの導入が先延ばしされるという懸念が聞かれた。しかしながら、ソブリン投資家自身は、2015年は、2008年ほど状況は悪くなく、原油価格の下落の影響に対処することは可能であると考えている。

ニック・トーチャー氏は「流動性確保の意識の向上や、より優れたリスク管理およびガバナンス、流動性に関する情報管理、資産流動化の最善策等、様々な分野において改善が行われました。よって、ソブリン投資家は2008年の金融危機以前よりも、現在はさらに確固たる基盤を確立しています。原油安が続いた場合、多くのソブリンが、オルタナティブ投資が先送りされないよう、より進歩的な投資戦略の導入に力を尽くすと考えています」と述べている。

増大する新興国インフラへの需要

足下では、ソブリン投資家は引き続き、高いリターンを追求し、オルタナティブ投資への増加を含め、長期的な投資戦略に注力している。以前のインベスコの調査では、ソブリン投資家が、強くオルタナティブ投資を選好していることを報告したが、この傾向は2015年も続いている模様。しかしながら、2015年に関してはアセットクラスと地域の結びつきが強く出ており、特に新興国におけるインフラ投資と先進国における不動産投資の二つはその傾向が強くなっている。

ソブリンのポートフォリオは新興国市場全般(9%)と比較して新興国市場のインフラをオーバーウエイト(17%)している。また、先進国市場全般(56%)と比較して、先進国の不動産をオーバーウエイト(73%)している。ソブリンがインフラに投資する魅力はよく知られているが、インベスコによると、新興国のインフラに投資するのは主に二つの特別な要因がある。

まず、新興国市場のインフラ投資は、低リスクで新興国市場に投資を開始する方法と受け取られている。ソブリンは、ターゲット・リスクをベースとした資産配分に取り組み、新興国市場からリターンをあげてきた。しかし、新興国市場投資のリスク(政治不安、汚職、規制や法による保護の欠如)への懸念から、経済状況に比べると投資魅力は低いとされてきた。新興国へのインフラ投資は、一般的に政府の支援により、ある程度これらのリスクが軽減されるものと受け止められている。

次に新興国市場のインフラ投資は、先進国市場のインフラ投資や、新興国市場におけるその他オルタナティブ投資と比較して魅力的である。先進国市場のインフラ投資の競争率は高い水準にあり、また、その税制は(米国が顕著)、グローバルな投資家にとって魅力に欠けるものとなっている。

ソブリン投資家間の協力体制増加のカタリスト

ソブリン投資家はインフラ投資と不動産投資に関する課題を共有している。すなわち、コスト(特に取引に当たって第三者に支払うもの)と競争入札(特に自国でしか競争力を持てない小さなソブリン)である。案件の規模や頻度は、多額の資産を運用するソブリンにとっては、どの程度まで資産を配分することが可能であるかが課題となる。

しかし、インフラと不動産に投資する場合、案件の獲得が最も大きな課題となる(53%のソブリンが1番の課題にあげている)。インフラ投資において、この最も大きな課題を解決するために、ソブリン投資家間の協力体制の構築が加速している様子が、今回の調査で明らかになった。すでに5%以上の資産をオルタナティブに投資しているソブリンは平均で2.7件の積極的なソブリン投資家間の協力体制を構築し、今後も増えていくことを見込んでいる。

インベスコによると、ソブリン投資家間の協力体制には、以下のメリットがある。

  • インフラ投資の案件において、ある程度のプレゼンスを持つことにより、効果的に認可の取得ができる。
  • 投資規模の拡大と複数の投資家による信用力の向上により、案件に対する価格設定が改善され、利益を得やすくなる。
  • 協力体制の結果、小規模なソブリンにとっては、協力相手が参加するインフラ・プロジェクトへの参入が可能になる。

ニック・トーチャー氏は「ソブリン投資家間の協力体制の構築は2014年の調査でも見られましたが、2015年は、他のソブリンにインフラ投資を提案するソブリンに、こうした傾向が顕著に見られました。私達が調査した多くのソブリンが、これを論理的進化と捉えており、これが新興国ソブリンにとって新たにオルタナティブ資産に投資するベストな手法であると考えています」 と述べている。

また、ニック・トーチャー氏は、今回の調査について、次のように総括している。

今回の調査で分かったことは、足下の原油価格の下落の影響で、資産運用業界はかつてないほどに統合されるとともに、複雑な様相を呈しているということです。また、これと並行してソブリン投資家は、ソブリン投資家同志の伝統的な関係を変化させるインフラ投資案件の獲得に注力しています。この調査結果が、世界中のソブリン投資家の進化を続ける投資行動や戦略目標を理解するのに有益なものとなることを信じています。

インベスコ・グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ 2015の詳細版は、http://www.igsams.invesco.com. で閲覧可能。